↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻の少女ラクラス  作者: 明帆
第四部 セレスティアル編 - プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/138

巡る世界の境界

 白い光が、夜の中へ溶けていく。


 あの日。

 セレスとティアから託された小さな雫は、今も私の手の中にある。


 ルシアの涙。


 失われた時間を戻すものではない。

 過去を変えるものでもない。


 それでも――。

 誰かが大切に想った証は、長い時を越えて残ることを教えてくれた。


 世界には、たくさんの想いが残されている。


 誰かを守りたいと願った気持ち。

 誰かに届いてほしいと願った言葉。


 叶わなかった願いも。

 届かなかった祈りも。


 消えたように見えて、どこかで静かに巡っている。


 ティラミスで知ったもの。

 リエージュで受け取ったもの。


 科学が残した記録。

 精霊が紡いだ記憶。


 形は違っていても、その根にあるものは同じだった。

 誰かを想う心。


「ララちゃん」


 隣から、お姉ちゃんの声が聞こえた。


「どうしたの?」


「……空って、広いね」


 唐突な言葉に、ほんの少しだけ驚いた。


 でも、それも束の間。

 私の小さな心の揺れは、澄み切った空に向かう優しい夜風に舞って散ってしまう。


 蒼い空を瞳に映した、太陽のように煌めくお姉ちゃんが、小さく笑っていた。

 気付けば、その姿に見惚れてしまっていたから。


「リエージュで見たものも、きっとまだ終わってないんだと思う」


 強く吹いた風に、髪がなびく。


 お姉ちゃんの言葉に、私は手の中の雫を見る。

 ルシアの涙が、月明かりを受けて淡く輝いていた。


「うん……」


 終わったのではない。

 受け取ったものを、次へ渡していく。


 それが、私たちにできること。


「ストローも、同じ空を眺めてんのかな?」


 前を歩きながら、ニアが振り返る。


「ティラミスに向かうのが怖い?」


 私は答える。


「…………」


 ニアは黙ったまま。

 夜を湛える穏やかな月を、静かに眺めていた。


 ――ニアの精霊核。

 そこに残る穢れ。


 それは、悪意ではない。

 流れから外れてしまった痛み。


 リエージュで触れた世界の理。

 それだけでは、まだ届かなかった。


 セレスとティアから受け取ったもの。

 ルシアの想いを届けるために、私たちは先に進む。


 彼女たちが残した想いを継ぐルナリアの末裔。

 魔法と記憶を研究するストロー博士の元へ。




 ――これから私たちが触れるもの。

 それは、まだ知らない空の向こうに残された記憶。


 簡単には辿り着けない遥かな高み『セレスティアル』という天空の街。

 かつての楽園の記憶を受け継ぎ、種族を越えた願いを抱いて生まれた場所。


『空の監視者』として世界を見守るルナリア族。

 その役目の裏側に、どれほど長い時間と想いが積み重なっているのか。


 ストロー博士が生まれた場所へ向かうことで、私たちはまだ知らない歴史へ触れていく。


 けれど――。

 長い時間を生きることが、すべてを受け入れられるという意味ではない。


 失ったもの。

 戻らないもの。

 抱え続けた想いが、いつしか別の形へ変わってしまうこともある。


 世界の理を越える存在。

 古い時代から残された力。

 その奥にあるものは、きっと力だけではない。


 そこには、誰かを想った記憶がある。

 守りたかったものがある。

 失いたくなかった時間がある。


 だから私は、知りたい。

 なぜ、世界は傷付いたのか。

 なぜ、その想いは痛みに変わったのか。


 そして――。

 今も残るその痛み。

 穢れの残滓を、どう未来へ繋げていくのか。


 遠い場所から何かを運んでくるような風。

 光が揺れたあと、白い粒子が夜空に再び舞い上がる。


 リエージュで見た優しい光。

 それはもう、過去のものではなかった。


 誰かが残した想いは、今も世界のどこかで芽吹いている。


 まだ見えない景色の先。

 まだ知らない誰かの想いへ続く未知。


 手を伸ばしても届かない空に描かれた未来。

 色とりどりの光彩が舞う空は、まだ見ぬ世界の記憶を映すように煌めいていた。


 優しい夜。

 暗がりの道に咲いた花。


 誰かの想いは世界の片隅にも巡っている。

 ――そう、思えたから。


 同じ空の下で繋がった絆。

 祈りと願いを未来に紡ぐため。

 まだ越えられないと思っていた境界の先へ私たちは向かう。


 きっと――その先にも、誰かの想いが待っているから。


「面白い」「続きを読みたい」「作者を応援したい」と思ってくださった方は、ブックマークと評価をいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


作品にふれていただき、ありがとうございます。

第一話の世界観を映像で切り取ったPVを公開しました。

小雪舞う静かな夜や揺れた儚さなど、文字だけでは伝わりにくい幻想的な空気を感じていただけましたら嬉しいです。

動きと音楽を通して、ラクラスの世界を少しでも追体験していただけます。

Xの夢幻の少女ラクラスPVのポストからご覧ください。

作品に興味を持っていただけましたら、「ブックマーク」や「ご感想」にて応援いただけますと幸いです。

― 新着の感想 ―
「想いは巡る」というテーマがとても素敵でした。空や光の描写が美しく、優しく切ない雰囲気に引き込まれました。続きも楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。