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夢幻の少女ラクラス  作者: 明帆
第三部 番外編 - 祈りと願いを描いた日

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第二話 重なる時間

 見慣れた小柄な姿。

 ニアが帰ってきた。


「戻ってきたぞ!」


 ニアがいつものように肩を竦める。


「で? どちら様?」


 相変わらずのお姉ちゃん。

 構いたくて仕方がなかったかのような第一声。


「そちらの『ララちゃん』の連れだ」


 少し表情を引きつらせながらも、お姉ちゃんの冗談に付き合うニア。

 その様子も見慣れた景色だった。


「故郷はどうだった?」


 私がニアに聞く。


「いつも通りだった。ノエルがラクラスにまた会いたいって。メルトにも会ってみたいって言ってた」


「それはノエルの頬が緩んだまま戻らなくなっちゃうね! 私も会いたいな」


「私もいつか会ってみたい。紹介してね!」


 私たちの会話に頷くニア。

 その後はしばらく口を噤んだままだった。


 短い沈黙のあと、ニアがそっと空を見上げた。


「少し静かすぎるくらいだった」


 その横顔が、少しだけ優しく見えた。

 ニアが私とお姉ちゃんを見る。


「それで? 二人して着飾って、どこに行くんだ?」


「ふっふっふ~。聞いて驚け!」


 お姉ちゃんが得意げに胸を張った。

 変わらず平らなままの……。

 私まで落ち込むからこれ以上は言わない。


「今日はララちゃんに私の大切なお友達を紹介する日なのです!」

「へぇ。」


 ニアの視線が私に向く。


「よかったじゃないか。」

「うん。」


 自然と頬が緩む。

 新しい出会い。

 少し前の私なら、不安の方が大きかったかもしれない。

 でも今は違う。


 世界は広くて。

 まだ知らない優しい人が、きっと沢山いる。

 想いはちゃんと、誰かへ届いていく。


 世界の片隅で見てきた景色が、今も胸の奥に残っている。


「それじゃあ、ニアちゃんも一緒に来なさい!」


「は? メルトお前な。『ちゃん』って」


 固まるニア。


「ダメだめ。拒否権はありませんので!」


「いや、あたしは――。おい! 聞こえてんのか?」


 お姉ちゃんがニヤリと笑う。


「そこの黒い子」


 一瞬、ニアの動きが止まった。


「……なんだ?」


「実は困りごとがありまして」


「帰るぞ」


「待って待って待って!」


 私が思わず吹き出す。


「お姉ちゃん、それ私たちの最初の――」

「そう!」


 お姉ちゃんが嬉しそうに指を立てた。


「記念すべき運命の出会いの再現です!」

「いや、あたし聞いてないぞ」


「ちなみにニアちゃんは年上なので、お姉ちゃん呼びが可能です!」

「いるかよ!」


「即答!?」


 やり取りが可笑しくて。

 気付けば私は声を出して笑っていた。


 お姉ちゃんも笑っている。


 ニアは呆れた顔をしている。

 それなのに、少しだけ口元が緩んでいた。


 こんな時間が続けばいい。

 ふと、そんなことを思う。


 失われたものは戻らない。

 けれど――。

 手の中に残った温もりは、こうして少しずつ増えていく。




「着いたよー!」


 お姉ちゃんが立ち止まった。

 そこは中心街から少し離れた静かな通り。

 硝子細工のお店や額縁屋、小さな工房が並ぶ一角だった。


「ここ?」

「うん!」


 お姉ちゃんが嬉しそうに頷く。


「アミサー! 来たよー!」


 軽やかな声が扉の向こうへ溶けていく。


 ――しばらくして。

 からん、と小さな音。


 ゆっくりと扉が開いた。


「はい。」


 現れた少女は、ふわりとした空気をまとっていた。


 柔らかな栗色の髪。

 優しく細められた、若葉を思わせる明るい緑の瞳。

 暖かな陽だまりのような笑顔。


「うあぁ、メルト……」


「久しぶりー!」


 お姉ちゃんが勢いよく抱き付く。


「わっ」


 それでも少女は慌てない。

 困ったように微笑んでいる。


「相変わらずですね」

「えへへ」


 長い付き合いなんだろうな。

 それだけで分かる距離感。


「紹介するね!」


 お姉ちゃんが私を引き寄せる。


「ララちゃん! 私の自慢の妹!」


「自慢だったんだ……」


「もちろん!」


「初めまして」


 少女が小さく頭を下げる。

 そして、言葉を続ける。


「アミサ・スフィアです。メルトとは昔から仲良くさせてもらっています」


 柔らかい声だった。

 言葉を急がない人。

 相手が話すための余白を自然に残してくれるような人。


「私はラクラス」


「ニアだ」


「はい。お二人のお話はメルトから聞いています」


「ララちゃんは可愛いし!」


「そこは大事!」


「ニアちゃんは格好いいし!」


「それはいらない」


「おぃ! メルト。てめぇ」


 アミサがくすりと笑う。


「ふふっ」


 その笑い方まで優しかった。


 初対面のはずなのに、不思議と緊張しない。

 アミサの周りだけ、時間の流れが少しだけ穏やかな気がする。


「まぁまぁ立ち話もなんですし、どうぞ中へ」


 そう言って、彼女が扉を開ける。

 中へ足を踏み入れた瞬間、甘い香りがふわりと鼻をくすぐった。

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作品にふれていただき、ありがとうございます。

第一話の世界観を映像で切り取ったPVを公開しました。

小雪舞う静かな夜や揺れた儚さなど、文字だけでは伝わりにくい幻想的な空気を感じていただけましたら嬉しいです。

動きと音楽を通して、ラクラスの世界を少しでも追体験していただけます。

Xの夢幻の少女ラクラスPVのポストからご覧ください。

作品に興味を持っていただけましたら、「ブックマーク」や「ご感想」にて応援いただけますと幸いです。

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