新たな旅の仲間
2羽の鳥に連れられて、木々が茂っていたところから少し開けたところに出てきた。そこには、1本だけ 今まで見てきた どの木々 よりも 特別大きな木が生えていた。その木を中心に 草原のように広場が広がっていて、 まるでその広場の屋根のように木の枝が高く広く 織りなっていた。それでも、枝と枝の隙間からたくさんの光が降り注いで、不思議と明るさもあって居心地の良さそうなところだなと思った。
ただ、本当に 間近でその木を見てみると、その巨大さに驚愕してしまった…。すごく背が高くて、枝もたくさん広がっていたけど、何より 幹がとてつもなく太 かった。でもよく見ると、その太い幹にいくつか 穴が開いていた。オレでも余裕で入れそうなくらいの、けっこう大きな穴だ。
「よし、皆ついて来れたの。では、そこに適当に座るが良い。」
そう言われて目をやると、ちょうど 座れそうな 切り株がたくさん並んでいた。オレたちが そこに座ると、長老様は切り株の群れの前にある 止まり木に するのにちょうど良さそうな頭の切れた木に止まった。もう1羽の身体の小さな方も、そのすぐ後ろにある 似たような木に同じく 止まっていた。
「ようやっと落ち着けたの。ではまず、自己紹介からじゃな。我は、モーリンと申すが、皆からは 長老と呼ばれておる。種族はモリフクロウじゃ。そして、我の後ろにいるのは、弟子のコノハじゃ。種族はコノハズクという。…まあ、ミミズクの仲間じゃな。」
「コノハです。師匠の下でいろいろなことを学ばせていただいています。以後、お見知りおきを。」
長老様とコノハさんは、片方の 翼をお腹の前に持ってきながら、優雅に挨拶をした。一応 、頭も下げたようだけど、シルエットがあまり変わらないので 見逃しそうになったくらいだった。
それを見て、ムギさんも頭を下げたので、オレたちも真似をした。
「私は、皆さんご存知の通り ムギです。本日は、私たちの村にお客様として訪れた方々をお連れしました。そこにいる猫のリオ君、リスのオスの方がリックさん メスの方がチャムチャムさんです。リオくんは2匹の弟さんだそうです。
こちらにお連れしたのは、この3匹の兄弟に 長老様のお知恵をお借りしたかったからです。どうか、よろしくお願いいたします。」
ムギさんは、長老様に深々と頭を下げた。
「オ、オレ…リオです。その…長老様に聞きたいことがあって来ました。」
オレはすごく緊張してしまって、そう言っただけで精一杯だった。それを見たリク兄が、オレの代わりに話をしてくれた。
「リック と申します。この度は突然の訪問にもかかわらず、快く受け入れてくださって感謝いたします。
僕たちは、"あるもの"を探して旅をしております。 不躾ではありますが、どうかお力をお貸しくだだければと思います。」
そう言ってリク兄は、隣にいる チャムチャムの頭をつかんで無理矢理下げながら自身も頭を下げた。それを見たオレも、慌てて頭を下げた。
「そんなに何度も頭を下げずとも良い。して、その探している"あるもの"とは何じゃ?」
「はい、それは"虹の花"というものなんですが…。長老様は"虹の花"について何か知っていますでしょうか?」
「う〜む、 "虹の花"とな?我でも聞いたことがないのぉ。その花は 具体的に、どのような花なのじゃ?」
「それが…僕らも 具体的なことは何も知らないのです 。ただ、"虹の花"というのがあるかもしれないということしか知りません。」
「ほぉ、ではなぜそのような存在するかもわからぬ 花を探しておるのじゃ。」
その疑問は最もだと思う。たぶん、ムギさんたちも同じように思ったはずだ。それでも、あえて口に出さなかったのは、ムギさんたちの優しさだと思う…。
リク兄は、長老様のその質問にどう答えようか考えているみたいだった。オレは、覚悟を決めて 話し始めた。
「オレのためです…。リク兄とチャム姉さんはオレのために、この旅について来てくれたんです。
…オレ、ついこの間この世界に来たばかりなんです。でもオレ…、めぐ。…えっと、オレの家族のもとに戻りたくて…。どうしても戻りたくて…。それで、案内人のシリルに聞いたんです。"虹の花"というのを見つけ出して、神様にあげれば…きっとオレの願いを叶えてくれるって!
だからオレ、その"虹の花"ってやつをどうしても見つけたいんです!!」
長老様はまん丸の大きな黒い目で、オレの目をじっと見つめてきた。
「ほぉ、『どうしても戻りたくて』とな。それは、お主のためか?それとも、その家族のためか?どちらじゃ。」
「それは…両方です!オレがめぐにに会いたいのも本当だし、めぐのためにそばに居てあげたいって気持ちも本当です。わがままな願いかもしれないけど…。 でも、どうしても叶えたいんです!!」
これは目をそらさずに言い切った。長老様にじっと見つめられて、少し怖かったけど…。それでも、オレの本当の気持ちを伝えなきゃいけない気がしたから。
「…ふむ、本心のようだの。リオよ、お主のその願いは、過ぎたるものだ。過ぎたる願いを叶えるということは、それなりの代償を支払うということになる。
それが、この旅ということなのじゃろう 。叱るに、その"虹の花"というのを見つけ出すまでに、お主にはたくさんの試練が降りかかるであろう…。それでも、お主は諦めずに進み、試練を乗り越えていく覚悟はあるか?」
長老様は 真剣な顔つきで、オレに問いかけてきた。オレは迷わず、長老様の目を見て答えた。
「はい、あります!オレ、めぐのためなら頑張れる!!」
「さようか。では、リックとチャムチャム、お主らはどうじゃ?これから先、どんなことになっても、お主らの弟であるリオを支えて行けると言えるか?」
「ええ、言えるわ! あたしたちは、そのために一緒について来たんだから!!」
長老様の問いに、チャム姉さんは 力強く答えた。
「それが、どんなに大変な旅だったとしてもか?」
「ええ、もちろん!当たり前でしょ!!」
「僕も約束します!兄として、リオの支えになると。」
今度は、リク兄も力強く 答えてくれた。
その姿に、オレは涙が出そうになった。オレの兄と姉が、リク兄とチャム 姉さんで本当に良かった。 心の底からそう思った。
「うむ、よく言うた!それなら、我もお主らに協力してやるかの。コノハ、お主はどうじゃ?協力してやれそうかの?」
「はい、師匠 !私も微力ながら、協力させていただきます。」
「あ、ありがとうございま! オレとめぐのために…。本当に…みんなありがとう…。」
オレは、みんなの言葉を聞いて、とうとう 涙をこらえきれなくなってしまった。ずっとギリギリでこらえていた涙が、雫となって次々と頬を伝っていく。
なんて、心強いんだ…。みんなの気持ちが嬉しくてたまらない。オレもみんなの気持ちに答えられるように、頑張らなくちゃ。オレ…旅に出てきて良かった。
その日は、みんなで 長老様とコノハさんのお家に泊まることになった。
そのお家というとは なんと、あの目の前にある特別大きな木だった。長老様とコノハさんは、木の幹にある穴から中に入って行ってしまった。
「もしかして、オレたちもそこから入るの?」と思っていたら…。ちょうど岩と岩のに陰に隠れるように、扉がちゃんとついていた。ムギさんに続いて、オレたちはその扉から中に入った。
するとそこには、木の中とは思えない光景が広がっていた…。天井高くから、大きな光はぶら下がっていて 、それが 部屋全体を程よく照らしていた。入ってすぐのところに丸いテーブルがあって、それを囲うように ソファも置いてあった。そして、その上を見上げると ハンモックが2つ かかっていた。もしかして、長老様とコノハさんの寝床 なのかな?
ムギさんとオレたちが、案内されるままに ソファに座ると、コノハさんが奥のキッチンから、お茶とクッキーを出してくれた。クッキーはお客さん用に常に用意してあるらしい。なんでも、長老様とコノハさんは食事をいつも外でするらしく、お茶とクッキーを出した後すぐにまた出掛けて行ってしまった。なので、夕食はムギさんとオレたちだけで食べた。
「ムギさんは、よくここに来るの?」
「よく…ではないですが、 たまにお邪魔しますよ。そのときはいつも村長も一緒ですが。外にたくさんの切り株が並んでいたでしょう。そちらに私や村長、他の種族の方々が集まって、勉強会が開かれることがあるんですよ 。長老様は色々なことを知っていらっしゃいますかららいつもためになるお話を皆に聞かせてくださるのです。先ほどまでいた場所は、そのために 長老様がお作りになってくださったところなのですよ。」
「へぇ、長老様ってすごいんですね!」
「はい、そうなのです。ですから、きっと何かしらの手がかりを授けてくださいますよ。 それと、長老様とコノハさんが帰ってきたら、下の部屋も案内してもらうと良いですよ。きっと驚きますよ。」
リク兄とチャムお姉さんが食事に夢中になっている中、ムギさんがニッコリと笑ってそんな話をするから 、オレは気になって仕方なくなってしまった。
オレたちが夕食を食べ終わった頃、ちょうど 長老様とコノハさんも帰って来た。
オレは早速 コノハさんに頼んで、下の部屋も見せてもらうことにした。もちろん、リク兄とチャム姉さんも一緒について来た。
階段を降りて行くと…、驚きの光景を目にした。
天井には大きくて太い木の根が広がっており、その根にはいくつもの小さな 明かりがぶら下がっていた。完全に地下に作られた部屋なんだろうけど、あの無数の小さな明かりだけでも、部屋全体を十分に見渡せるだけの明かるさはあった。
そして周りを見渡すと、全ての壁が本棚になっていた。その本棚には、大小様々な本がびっしりと並んでいた。それでも、入り切らない本があるのか、中央に上の部屋のものよりも何倍も大きな丸いテーブルがあって、そのテーブルにも、本が何段にも積み重なっていた。一応、テーブルとして使えるスペースも残ってはいたけど、テーブルのほとんどを本が占領している状態だった…。
「すごい量の本ですね…。長老様とコノハさんは本がお好きなんですか?」
オレとチャム姉さんが、あまりの本の量に驚いて言葉を失っていたけど、リク兄はすごく興味を惹かれたようで、嬉しそうにコノハさんと話し初めた。
「そうですね。私も師匠の影響で本かわ好きになったんです。師匠はすごいですよ!ここにある本は全てお読みになったんですから!!私なんて、まだ半分程度しか読めていません。師匠は本当に偉大なんです!!!」
「す、全て?本当にここにある本全てを、長老様は読まれたんですか?すごいですね…。
あと、この半分でも相当な量ですよ。コノハさんも十分すごいですよ。」
リク兄は瞳をキラキラさせながら、コノハさんを見上げていた。
「もし、気になるへがありましたら、自由に見てもらっていいですよ。」
リク兄は、コノハさんの言葉を聞いた途端、嬉しそうに走り出して本棚にかじりつく勢いだった。
リク兄って、あんなに速く動けたんだ…。
それにしても、"本"かぁ…。めぐもよく読んでいたなぁ…。
オレが本棚をじっと見ながら、物思いにふけっていると、コノハさんが声をかけてくれた。
「リオくん、あなたも本に興味があるのですか?」
「うん、少しだけ…。でも…、オレ文字なんてわかんないし…。」
オレが下を向いてシュンとしてしまうと、コノハさんは何処からか一冊の少し大きめの本を持って来てくれた。
「リオくん、本を読んでみたいのでしたら、私が文字を教えてあげますよ。これは、図鑑と言って文字よりも、絵の方が大きくてたくさん載っています。こういう本から、一緒に読んで行ってみませんか?」
「え、…オレにもできるかな?あ、でも…、オレは旅を続けなきゃいけないから、そんなに長くここに居られないし…。」
「ああ、そのことでしたら、心配いりません!私、先程師匠に頼まれたのですよ。あなたたちの旅にしばらくの間、同行してやってくれないかと。」
「えぇ~、ホントに?で、でも…、そんなのコノハさんには迷惑なんじゃ…。」
オレは恐る恐る、コノハさんの顔色をうかがった。
「いえ、良いのです。師匠には、『これを機会にもっと広い世界を見て来なさい。』と言われました。私も、いつかは師匠のようになりたいと思っています。でも、そのためには師匠が若い頃経験したように、私も世界を旅していろんなものを見て、体験して知っていかなければなりません。ですから、良い機会なのです。」
「そっかぁ、ありがとう。コノハさんはすごいね!オレも頑張らなきゃ!!」
オレは嬉しくなって、急いでリク兄とチャム姉さんにこのことを伝えに行った。2匹ともすごくびっくりしていたけど、同時にすごく喜んでもいた。
コノハさんがオレたちの旅について来てくれるなんて、これほど心強いことはない。オレたちの中では、リク兄が一番大人で色々知っでいるけど…。コノハさんはあの長老様の弟子だし、ここにある本の半分も読んでいるなんて、絶対に頼りになるに違いない。もしかして、この旅はこれから良い方向に向かって行くのかも…。
オレたちが、地下の書庫から上の部屋に戻ると、ちょうどムギさんと長老様の話が盛り上がっていた。
「ああ、ちょうど良いところに戻られましたね。今、長老様が重要な情報を思い出されたところなんですよ。」
ムギさんはオレたちを見るなり、早く座れと言わんばかりに、オレの背中を押しながらテーブルまで誘導した。そして、オレたち全員がソファに座ると同時に、長老様の話が始まった。
「うむ、皆揃ったのう。ムギと話していて思い出したのだが…。"色変りの桜"というのがあるらしいのじゃ。我もそれを実際に見たことはない。ただ…、それを見た者の手記を読んだことがあったのを思い出したのじゃ。なんでもそれによると、"桜の森"と言う桜の木の密集地にたった一本だけ、それはあるらしいのじゃ。そして、その"色変りの桜"と言うのは、白から桃色、桃色から若草色、若草色から赤に色を変えるそうじゃ。ただ…、それがどういう周期で色が変化するのかが分からんのじゃ。その辺のことが、ひどく曖昧に記されておったのを憶えておる。
しかし、お主らが探している"虹の花"に少し近いかもしれんと思うてな。どうじゃ、行ってみる価値はありそうじゃろ?」
長老様は少し得意気な顔をして、オレたちを見た。オレたちは、長老様の話を聞いて顔を見合わせて、お互いの意思を確認した。
これは行ってみるしかないと思った。
「是非、行ってみましょう!!行くしかありません!!!」
コノハさんが興奮気味に宣言した。オレたちもそれに乗って、「行こう!!!」と叫んでいた。




