東の山の長老様
オレたちは、ゴマジイさんから聞いた、長老様の住処に向かっていた。ゴマジイさんの話では、うさぎ花公園の近くだということだったけど…。
ムギさんに案内されながら歩き続けて、もう何時間経ったことか…。
「あの…ムギさん、ゴマジイさんは近くだって言ってたけど…。まだ着かないの?」
「あと、もう少しではあるのですが…。疲れちゃいましたか?休憩にしましょうか。」
そう言ってムギさんは、比較的なだらかな場所を探して、オレが座ってゆっくりできるように大きな布を敷いたりと場所を整えてくれた。
「ほら、出来ましたよ。ここでゆっくり休んで下さい。」
ムギさんが用意してくれた休憩場所はとても素晴らしかった。大きな布を敷いてくれただけではなく、うさぎの抜け毛を使って作られたというクッションまで置いてあり、すごくふわふわだった。
「オレ、ふわふわ大好き!村におじゃました時もこのクッションたくさんあったよね!!昨日の夜、この大きなクッションを下に敷いて寝たら、めぐと寝てた頃みたいにすっごく気持ち良かったよ!!!」
「そうですか、そうですか。では、このクッションはこのままリオくん、あなたにあげましょうね。」
「え?いいの?ありがとう、ムギさん!!」
「え〜、リオばっかりずるいじゃないの!!!」
「おやおや、何がずるいのですか?あなたたちは、弟であるリオくんの肩にずっと乗っていただけではありませんか。私は、この先の旅でも、一番疲れてしまうであろうリオくんだからプレゼントするのですよ。それをあなた、ずるいとは…」
「あー、また始まった。もう分かったわよ。ていうか、長老様の所までもう少しって言ってたわよね?もう少しって、あとどのくらいよ?」
チャム姉さんはまたムギさんの説教に耐えきれず、口を挟んでいた。でもオレも、もう少しがどれくらいなのか知りたかったからちょうど良かった。
「そうですねぇ。うさぎの足ですと、あと小一時間もしないで着いてしまうのですが…。リオくんのペースに合わせますと…、あと3時間くらいですかねぇ。」
ムギさんの言葉を聞いた途端、オレたち3匹は固まってしまった…。
「え…、うさぎヤバッ!どんだけ足が速いのよ!!」
オレとリク兄はあまりのことに、言葉を失っていたのに、チャム姉さんはここでもやはり強かった。というか、自分ではほとんど歩かないからかもだけど…。
「私たちうさぎは、時速80kmくらいで走れるのですよ。まあ、もちろん多少の個体差はありますがね。足の構造が他の動物とは違うので、足がとても速くて、強いのですよ。ですから…、私だけでしたら、もうとっくに長老様の所に着いていたのですが…。私としたことが、あなたたちの足の速さを考慮するのを失念しておりました。申し訳ありません。」
「それは、…すごいな。時速80kmって言うと、人間が乗る車ってやつと同じくらいじゃないか?」
「え?オレ、車ってやつに乗ったことあるけど、すごく速いよ!?あれと同じくらいって…。オレには無理だよ…。」
「そんな速さ、ほとんどの動物が無理なのよ!!あんたは十分頑張ったわ。」
「そうだな。リオは今日かなり歩いたし、だいぶ疲れが溜まっているだろう。ムギさん、提案なんだが、あんたには悪いが今日はここで夜を明かすのはどうだろう?このまま長老様の所に向かっても、リオの足では着く頃には真っ暗になってしまうかもしれない。」
「そうですね。それが良いかもしれませんね。リオくん、無理をさせてしまって申し訳ありませんね…。
そしたら私、仲間の所に連絡を入れて来ますね。」
そう言うなり、ムギさんはクッションの上から立ち上がり、平らで草があまり生えていない硬そうな地面まで行って立ち止まった。そして、その場で地団駄を踏み始めた。最初は、あまりの音と震度にイラついているのかとビクビクしてしまったけど…。よくよく聞いてみると、何かリズムを刻んでいるようだった。
少しして、戻って来たムギさんに何だったのか聞いてみた。
「あれは、遠くに離れた仲間と連絡を取っていたのです。うさぎはとても耳が良いので、さっきのように足音をたてて連絡を取り合うことが出来るのです。今回はかなりの距離がありますが、村には万一の時のために、震度を感知して記録する機械を設置してありますので大丈夫でしょう。」
「うさぎって…本当にすごいんだ…。」
もうその一言しか言えなかった。今日だけで、うさぎのトンデモ話をたくさん聞き過ぎてお腹が一杯だ。
オレたちは、休憩していた場所にそのままテントを置き、みんなでムギさんから貰ったクッションの上で寝ることにした。
次の日の朝、一番最初に起きたのはムギさんだった。
オレは、漂ってきた良い匂いに誘われて目が覚めた。オレが起きた頃には、ムギさんがみんなの分の朝食を用意し終えていた。なんだか、ムギさんにはずっとお世話になりっぱなしな気がする…。
「ムギさん、おはよう。おれたちの朝食まで用意してくれて、ありがとう。ねぇ、ムギさんはは何でこんなにオレたちに優しくしてくれるの?オレ、何かお礼がしたい!オレが何か、ムギさんにできることはある?」
「おはようございます、リオくん。これしきのこと、気にしなくてたも良いのですよ。私が優しい…ですか。そうですねぇ、最初は村長が言っていたように、久しぶりのお客様で祭りもいつも以上に盛り上がりましたし…、ただ単に嬉しかったのです。
そして、一昨日の晩にあなたたちが"虹の花"というのを探して旅をしていると聞いて、少しでもお力になりたいと思ったのですよ。あなたたちは、見るからに旅に慣れてない様子でしたし…。特にあなたは怖がりで引っ込み思案な印象を受けました。それなのに旅をしている。きっと、その"虹の花"というのを絶対に手に入れたい理由があるのでしょう?
そんなあなたを見て、私は応援したいと思ったのですよ。それは、村長も一緒だったと思います。
ですから、あなたは何も気にせず、あなた自身の目的に向かって頑張れば良いのですよ。
それでも、もし"私にお礼をしたい"という気持ちが収まらないのでしたら…、今度はあなたが別の困っている方を私の代わりに手助けしてあげて下さい。」
オレはムギさんの話を聞いて、とても敵わないと思った。ムギさんはオレたちのためにをあえて事情聞かずに、ここまで協力してくれたのだ。オレは涙が出そうになったのを、グッと堪えた。
「ムギさん、オレ約束するよ!ムギさんが言った通り、今度はオレが誰かの力になれるように頑張るよ!!強くなる!!!」
ムギさんはオレの言葉に、ニッコリと笑って応えてくれた。
オレとムギさんの話が終わった頃、やっとリク兄とチャム姉さんは揃って起きてきたので、早々に朝食を済ませて出発した。
今日は心なしか昨日よりも、足取りが軽く感じた。ムギさんとの約束が、少しだけオレを強くしてくれた気がした。だから、3時間なんてあっと言う間に感じた。
「リオくん、もうすぐですよ。長老様はとても耳の良い方ですから、きっともう私たちにお気付きです。ですので、くれぐれも失礼の無いようにお願いしますね。特に、チャムチャムさんあなたですよ!」
「何よ!あたしはいつでも礼儀正しいレディでしょうよ!!あんたの方がよっぽど失礼よ!!!」
ムギさんに名指しされたチャム姉さんは、プンプンに主張したが、チャム姉さんが礼儀正しいレディだったなんて…、オレも初耳だ!気になってリク兄の方を見てみると…、リク兄も呆れた顔で首を横に振っていた。
…すると突然、風がふわりと起きた気がした。
「ホッホォ、よく来たのう。ムギよ、お客さんを連れて来たのかい?」
声のした方にみんなで振り返ると、高い木の枝に何かが居た。よく見ると、白地に木と同じような茶色なた模様が混じった大きなずんぐりとした身体の鳥と、その隣りには似たような感じだけど、更に黒が混じったような色みの鳥が止まっていた。決定的に違うのは、身体の大きさが半分くらいしかないのと、頭に耳みたいな羽根が2本立っていたところだった。
「長老様、そしてお弟子様お久しぶりでございます。事前の連絡も無く、突然の訪問をお許し下さい。」
ムギさんは、突然現れた2羽の鳥に向かって、今まで以上に礼儀正しく深々と頭を下げた。
オレは、こんなに大きな鳥をこんなに間近で見たのは初めてで、正直とても怖くて縮み上がっていた…。だって、身体が大きいだけじゃなくて、目がまん丸ですごく大きい。あんな目でじっとこっちを見られたら、怖くて金縛りにあったように1mmも動けなくなってしまった…。リク兄もオレの肩の上で、じっと固まって息を飲んでいるのが伝わって来た。一方、チャム姉さんの方を目だけ動かして見てみると、瞳をキラキラさせて好奇心いっぱいの表情をしていた…。さすが、チャム姉さん。
「おやおや、ムギよ。そのようにかしこまらずとも良い。しかし、珍しい組み合わせのお客かと思ったが、お主ら凸凹な取り合わせでとても面白いのう。ほれ、そんなに固まらずとも、我はお主らを怖がらせるようなことは何もせんよ。」
「そうです。師匠はとても寛大なお方です。師匠を目の前にして、畏れ多く感じちまたしまうのは分かりますが…。こう見えて、とてもお優しく慈悲深いお方なのですよ。」
「"こう見えて"は余計じゃて。して、お主らは我に用があってここまで参って来たのじゃろ?話を聞くにしても、ゆるりと出来る所での方が良いじゃろう。ついて参れ。」
そう言うなり、2羽の大きな鳥はゆっくりと飛び始めた。ムギさんもそれに続いたので、オレたちも黙ってついて行くしかなかった。




