拳と氷
「…っえええええぇぇぇ!」
目を開けたユハは驚きと恐怖の叫びをあげる。
それもそのはず、ユハは先ほどまでイズの家の地下室にいたはずだった。
しかし彼は今、はるか上空から自由落下していた。
凄まじい速さと共に、地上が急速に近づいていく。
「あ…これ死んだ…」
そう諦め、死を受け入れて目を閉じようとした瞬間だった。
「?」
ユハの視界の端にチラリと黒い靄が見えた。
「なんッ…」
ユハがそれを認識した瞬間、黒い靄がユハの全身を包む。
その靄はユハの体にピッタリと纏わりつき、ユハの視界を奪い始めた。
「クソっ…マジかよ…」
ユハは何とか視界を確保しようと靄を手で払おうとするが、それよりも早く靄がユハの視界を奪った。
しかしその直後、ユハが感じていた落下の感覚が消えた。
(…あれ?)
ユハがそれを疑問に思ったのも束の間、靄が急速に薄れていき、視界が開けていく。
「俺…生きてる?…何で?」
そのような疑問が出てくるのも無理はなかった。
なぜなら、先ほどまで空中にあったユハの体は、何故か地上にあったからだ。
起き上がり、全身をくまなく調べたが、特に異常はなかった。
(夢…にしてはかなりリアルだったな…って今はそれどころじゃない!)
すぐに我に返り、周囲を見渡す。
しかし、先ほどまで共にいたイズの姿はどこにもなかった。
「マジかよ…!」
すぐにはぐれたことを理解し、ユハは焦りに駆られた。
「合流しないと…!」
そう呟いたユハは、その場で息を大きく吸い込んだ。
「おーーーい!イズぅーーー!俺はー!ここにいるぞーーー!」
森全体に響かんばかりの声を出し、助けを呼ぶ。
この場所にイズが来ることを信じて。
「ふぅーー…」
大きな声を出したユハは、もう一度叫ぼうと息を吸い込んだ。
その時だった。
「なるほど!!!君の相方はイズと言うのか!!!」
大きく、元気な声がユハの背後から聞こえた。
「ッ!?」
驚いて振り返ると、そこには犬の耳を生やした少年が火の玉と一緒に立っていた。
◇ ◇ ◇
~ユハが空中に放り出されたと同じ頃~
「な…何で!」
ユハが居ないことを理解したイズは、混乱していた。
「魔法陣はしっかり描いてたはず…!まさか効果範囲から外れてた…?いや、そんなハズは…!」
ブツブツと独り言を言った後、イズは自分の両の頬を叩く。
「落ち着け私…!まずはユハを探して、それから…」
「へぇ~?お前の相方はユハって名前か。ここらじゃあまり聞かねえ名だな」
「!?」
突然、イズの背後から女の声がした。
その声に驚いてすぐさまイズは振り返る。
そこには袖口の大きい服を着た赤髪の女、バトラが立っていた。
「…誰?」
「わりィがその質問には答えられねェな」
そう言いながら、バトラは準備運動を始める。
その様子にイズはさらに警戒を強める。
「さて、今からお前を捕まえる。なぜそうするのかは後で聞いてくれ」
「…そう言われて逃げない人間がどこにいるのよ」
「…はッ、確かにな」
バトラの準備体操が終わり、両者が互いに見合う。
風が吹き、木が揺れる。
そして、風が止むと同時に、両者が動き出す。
バトラはイズに突進しながら、右の拳を握り、攻撃の体制をとる。
イズはそれに少し遅れて、後方へ跳びながら、防御のために魔力を纏う。
次の瞬間、イズの腹に拳が入った。
「ッあ…!」
大きな衝撃に思わず声を漏らしながら、イズの体は後方へ大きく飛び、木に叩きつけられる。
「はッ…はッ…!」
呼吸が乱れ、イズの行動の出が少し遅れる。
それをバトラは見逃さない。
「隙がありすぎだ」
「ッ!」
間近で腹に繰り出される拳を避ける方法はイズにはない。
イズの腹にバトラの拳が再び入る。
しかし、次に声を上げたのはバトラだった。
「…くッ!」
声を上げ、後方へ飛び退く。
(なんだ…?今、アイツの腹が異常に硬かったような…)
そう思い、イズの様子を窺おうとした瞬間。
イズの体が、氷に包まれ始めた。
「氷の魔法…!?」
その様子にバトラは驚く。
「そんな…そんなハズがねえ…」
そう呟いた瞬間だった。
イズの周囲にあったリンゴほどの氷塊が、バトラをめがけて飛んでくる。
「クソッ!」
悪態をつきながら、その氷塊を避け、避けきれないものは殴りと蹴りで破壊した。
一息つく暇もなく、次の瞬間には氷で出来た剣がバトラの目と鼻の先に迫っていた。
「ッぶねぇ!」
それもすんでのところで躱す。
その直後、すぐ傍からイズの声がした。
「お返しよ!」
その瞬間、冷たさと共にバトラの腹に大きな衝撃が走る。
「がはッ!」
防御が少し遅れたバトラは、先ほどのイズより大きく後方へと吹き飛んだ。
「ふぅ~…」
なんとか敵を倒したと思ったイズは、その場にしゃがみこんで一息つく。
しかし、その時間は長くは続かなかった。
「…うそ、いいヤツ入れたじゃない」
そう言いながら立ち上がり、バトラが吹っ飛んでいった方角を見る。
その方角、暗闇の中からバトラの声が聞こえる。
「お前、強いな!さすがの私でも今の一撃は効いたぜ!」
「そりゃあどうも。全然嬉しくないけどね」
「へえ、なんでだ?」
「アンタ、まだ自分の魔法すら使ってないでしょ」
「そうだな。アタシが魔法を使ったら…お前を殺しちまうと思ってたからな」
そう発言しながら、バトラが暗闇から姿を現す。
「…”思ってた”、のね?」
「ああ、そうだ。だが、もうそんな心配はなくなった」
そう言ったバトラは、その場でサラシを残して上裸の状態になった。
「今からアタシは魔法を使う。せいぜい死なないように頑張ってくれよ?」
読んでくださりありがとうございます。第9話です。最近NTEにハマってます。潯が好きです。対戦よろしくお願いします。




