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黒刀の勇者  作者: 阿化佐棚
シヒリ樹海編
7/8

あなたを照らすモノ

~いつか、温かい日差しが満ちていたあの日~

「…シケリ、いるかい?」

「はい…ご主人様。シケリはここにおります」

シケリはエルフの老婆が臥しているベッドのすぐ横で膝立ちをして優しく返事をした。

「シケリ…私はもう長くはない」

「…ええ、重々承知しております」

そう答えるシケリの顔はどこか淋し気だった。

それを見てエルフの老婆は微笑んだ。


「フフ…お前は昔と比べたら随分と人間らしくなったじゃないか。さすがは私の最高傑作だ」

「…ご主人様と長く過ごしていたからですよ」

そう言いながらシケリは少し照れくさそうに自分の髪をいじった。

「そうだろうな…お前は私がまだ若い頃、140歳ぐらいの時に造ったもんなぁ…」

「それからもう300年以上は経っておりますね」

「ああ…そうだな。若い頃はまさか自分がこんな人生を送るなんて思ってなかったよ」

そう言いながら老婆は窓の外に目を向ける。

そこには金色の髪をした少女と老婆の横にいるはずのシケリがいた。

その二人は不思議と老婆たちに気づく様子もなく、剣の稽古をしていた。


「…シケリ、お前に頼みごとがある」

「はい…何でしょうかご主人様」

「お前にあの()を任せたい。あの娘はいつか外の世界へと旅立つ。その時、親身になって彼女を支え、行くべき道を照らしてくれる存在が必要だ」

「…ご主人様、彼女が外の世界へ出ることは…」

「分かっているさ。だが、絶対にその時が来る。分かるんだ、あの娘は昔の私と同じだからね。飽くなき探求心とか、未知の存在に対しての好奇心とか…それらによっていつかはこの森を狭く感じる時が来る」

「…」

シケリは老婆の言葉に黙っていることしか出来なかった。

「その時は彼女を外に出してやってくれ。任せたよ、シケリ」

「しかし、あなたの結界を破る手段を私は持っていませんよ…?」

「あぁ…それは大丈夫さ。星たちがそう言っていたからね」




◇ ◇ ◇




~シヒリ樹海・メレッケ領~

その夜、樹海では激しい剣の雨が降っていた。

「クソっ…」

リジャロはそう呟きながら空から墜ちてくる剣の雨を避つつ、森の中に隠れたシケリを探していた。

「っリージンさん!あの女は見つかりましたか!?」

「すまない!さすがにこの攻撃の中では厳しい!」

そうオディスが答えた刹那、リージンの後頭部めがけて一本の矢が飛んできた。

しかし、オディスはその矢をすんでのところで避けた。

「恐らくもうすぐでマルルが復帰する!あいつが復帰した時点で撤退だ!」

「了解で―」

「その前に全員ここで眠ってもらおうか」

「!?」


死角からの声に驚きつつも、その声のする方へリジャロは顔を向けた。

しかし、顔を向けた方角とは全く違う方角から腹にパンチを食らい、リジャロは後方へと吹き飛ばされた。

その瞬間に剣の雨が止む。

「…ッ!ネイ―」

「心配する余裕があるのか?」

「貴様ッ!」

すぐ後ろからの声に反応し、振り向きながら剣を振ったオディスだったがそこにシケリはいなかった。

「ぅがッ!」

その直後に背後から右胸を一刺しされ、オディスは口から苦悶の声を漏らした。

「き…貴様ッ…!」

「お前は『貴様』しか語彙がねえのかドブ野郎」

「なッ…なんて口の悪い―」

「別にいいだろ、口が悪くても」

そう言ってシケリは剣を引き抜くと同時に背後から蹴りを入れ、オディスがうつ伏せに倒れた。

その上に馬乗りでシケリが座り、喉の右側にナイフを添えた。


「尋問…いや、拷問の時間だ。正直に答えるのなら命までは奪わない」

「ぐッ…!」

オディスは痛苦と不服が混じった声を上げるが、シケリは無視して質問を始める。

「まず、お前らは何なんだ。どこから来た、何者だ」

「…何を言っているのか分からないな」

「…はァ」

シケリは大きなため息をついた後、先ほどまで剣が刺さっていたオディスの背中に躊躇なく左手の人差し指を突っ込み、その指を激しく動かした。

「…っぐああぁあッ!」

オディスは森中に響き渡るような苦悶の声を上げた。

「やかましい。素直に答えないからそんな情けない声を上げることになるんだ。次からその声を上げるたびに指を一本ずつ切るぞ、いいな?じゃあもう一度聞くぞ、お前らは―」

「『見えなくなれ』」


その声に反応し、シケリは質問を中断する。

それと同時に、瞬時に右腕を首の位置に持っていき籠手と魔力を纏った。

次の瞬間、鈍い音と共にシケリの体が吹っ飛ばされる。

(クソっ…!さっきのヤツがもう回復してきやがった…!尋問の為に生かしたのが仇になったか!)

「チッ…!」

舌打ちをしながら体制を整えたシケリは目を見張った。

なぜなら、先ほどまで居たはずオディスと離れていた所で気絶していたはずのリジャロの姿がなかったからである。

(いねえ!透明になる魔法かよ、めんどくせえことこの上ねえなクソ!)

そう心の中で愚痴を言いつつ、シケリはもう一度『星冴(ペル・パレリ)』を行使しようと準備を始めた時だった。


「は…?」

それは巨大な炎の柱だった。

暗く、昏い世界に突如として現れたその柱は森中を照らし、燃やし始めた。

(あの方角は…!)

イズたちに緊急事態が起こっていることをシケリが認識するのに時間はかからなかった。

「クソがッ!」

そう吐き捨てて全速力でシケリは炎の柱へと向かった。




◇ ◇ ◇




~炎の柱が出現してすぐ~

「なんスか…あれ」

シケリに刺された傷を回復させたセイユがその柱を見て呟く。

そのすぐ傍には回復痛に耐えながら傷を癒しているオディスと、未だ気絶しているリジャロがいた。

「分からん…だが、あれはどう見ても良いモノではないな。私の傷が癒え次第すぐにここを離れるぞ」

「了解っス」

セイユはそう応え、いつでも出発できるようにリジャロをおぶった。

「しかし、何だアレは…少し、いやかなり気になるな」

そう言ったオディスをセイユは睨んだ。

「またあの化け物メイドと戦りたいんっスか?今回は運よく私が2人を助けられましたけど、次は絶対全員死ぬっスよ」

「ああ、分かってるさ。だから鳥を使って火元を見るだけにするよ」

オディスはそう言いながら片目を隠した。

(この人…回復しながら魔法使ってる…しかも回復の速度が緩んでないし…やっぱめっちゃ器用だな)


「んん…ぅえっ?あれ?あの女は?」

気絶から覚醒したリジャロは素っ頓狂なこえを出しながら、辺りを見回した。

「私がお前とオディスさんを連れて逃げようとしたらあの炎の柱が立って、それに突っ込んでいったよ」

「そうか…ありがとな、助けてくれて」

「別に…知り合いが死んだら寝つきが悪くなるから助けただけだ…」

「それでも、ありがとな」

「…ッ!もう大丈夫なら降ろ―」

「なッ!何だと!」


セイユとリジャロのやり取りはオディスの驚愕の声によってかき消された。

「ヤツめ…!中々合流してこないと思ったらッ…!」

そう独りごちるオディスの顔には怒りの色が強く出ていた。

「ど、どうしたんっスか?何か…まずいことが…?」

「ああ…かなりまずいぞ。あの柱の下に…バトラとオルアがいる」

「…なんですって?」

リジャロが思わず聞き返した。

「…ウブレジェーさんとオルアがあの柱の下にいる…って言ったんスか?」

それに続いてセイユも聞き返した。

「ああ…二人とも、もう一回いけるか?」

そう問うオディスに二人は頷きで返した。

そして傷を完治させたオディスは立ち上がり、炎の柱を見て瞥見した後、目を閉じて深呼吸をした。

(ああ猛き戦の神よ…全員が無事に帰ることが出来るように、見守っていてください…)


そう祈ったオディスは目を開け、二人に向けて一言発した。

「行くぞ」

読んでくださりありがとうございます。第7話です。前回の投稿からまさかの二日後というね。第4話の時より早くて自分でもちょっと引いてます。

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