混沌、そして―
~バトラとゴーニャが戦っている頃~
「はぁッ……はぁッ……」
俺の周りにある木々が燃えている。
あの炎の柱が出てきてから、突然燃え始めた。
……俺にはあの炎の柱が、何なのか分かる。
恐らくあの炎の柱は、ゴーニャさんの魔法だ。
何でこの森を燃やしているんだ?あの柱の下に何があるんだ?
分からない。何も分からない。
今のこの状況も、俺が誰なのかも、ここがどこなのかも、この刀が何なのかも。
……だから、知りたい。俺がこの世界で生きた証を知りたい。
ならまずは、この森から出なきゃいけない……
だから、動けよ……動けよ俺の足ッ!このまま膝をついたままで終われるか!
疲労が何だ!肺が熱いから何だ!このままここで燃え死んでたまるか……!
動かせ!死ぬ気で……いや、死んでも足を動かせ!
「はぁッ……はぁッ……ッ!」
ヤバいな……前がかすんできた。
いやだ、まだ死にたくない……!立て立て立て!
「……?」
なんだ……この音。
ゴゴゴって音がする。しかもこの音……
「近づいてきてる……?」
しかも、俺が来た方から聞こえる。
……なんだアレ?……アレは、透明な球?しかも中に誰かいる……?
……ああ、俺はあの中に入ってる人の髪の色に見覚えがある。
あれは―
◇ ◇ ◇
「"流星皇帝”」
シケリがそう唱えた瞬間、彼女の手中に巨大な剣が顕れた。
「ああシケリ!久しぶりに会ったんだ!もうちょっと言の葉を交わそうじゃないか!」
そう言うゴーニャを無視して、シケリは巨剣を薙ぐ。
その攻撃はバトラにも届き得た。
「ちょッ……アブねッ!」
そう言ってバトラが攻撃を避け、それと同時にゴーニャも避けながらシケリに語りかける。
「おいおい、シケリ!そこの雌は殺さないでくれ!彼女に王の居場所をまだ聞いていないんだ!」
「……は?おいてめえ今アタシのことなんつっ―」
「食糧が人語を話さないでほしいな。"朱魁照或”」
そう言うと同時にバトラへ炎の渦が迫る。
「クソっ!"LATLVIK”ッ!」
再び巨大な両掌が顕れ、炎の渦を受け止めた。
(ヤベぇなこの炎!押し負けたら多分灰も残らねえ!)
「ほう!朱魁照或を受け止めて後方にぶっ飛ばないとは!人間にしてはなかなかやるな!」
「おい、お前の相手は私だ」
シケリはそう言ってゴーニャの背後で巨剣を薙ぐ構えをする。
「ああ!すまないなシケリ!僕としたことが君に構ってあげられないとは!」
「死ね」
その言葉と同時にシケリは巨剣を薙ぐ。
「"不壊皇”」
ゴーニャが巨剣の斬撃を避け、炎となって上空へと昇る。
「まずいな……おい、そこのお前」
「何だよッ!コッチはこの炎受け止めんのに手いっぱいなんだが!?」
「そうか、じゃあ死ぬな」
「あぁ!?何言って……」
「"始曙具周”」
その言葉と共に空に太陽のような火球が顕れ、巨大な炎の柱とバトラを襲っていた炎の渦が消滅した。
「いやいや……ヤベえだろアレ!」
「来るぞ。せいぜい死なないようにな」
「……ッ!オルア!」
「受け止めきれるか分かんないですよ!"フタスジ”!」
オルアがバトラの近くへ駆けながら魔法を唱えた瞬間、バトラの周囲に霧が発生した。
さらにその中へオルアが入った途端、その霧はより一層濃くなった。
その様子を一瞥したシケリは「ŜILDO」と唱え、虚空から青白く光るタワーシールドを生み出した。
「"星宮”」
そう唱えてタワーシールドを構えた途端に、シケリの周囲が青白く光り始めた。
それと同時に上空の火球が、突如ピカッと光り―
最初に木々をなぎ倒すほどの風が起こった。
次に周囲が熱気に包まれた。
最後に、一望しきれぬほどの広大な範囲で大爆発が起きた。
辺りは一瞬にして地獄絵図と化した。
その地獄の中心にはタワーシールドを構えたシケリと太陽だけがあり、オルアが発生させた霧は無くなっていた。
「やっぱ馬鹿みてえな規模してんな……」
タワーシールドを構えながらシケリが火球を見て呟いた。
その直後に火球が収縮を始め、その途中で中からゴーニャが出てきたかと思えば、そのまま火球から飛び降りた。
「……勢い余って想定より強めに放ってしまった!これでは雌も消しとんで……いないな?」
そう言って着地した直後、後を追うようにしてゴーニャをめがけてバトラが上空から拳骨をゴーニャの頭に食らわせた。
しかし、食らった当の本人は攻撃に対してあまり気にしている様子はなかった。
「クソっ!」
「ふむ!魔力が尽きそうだから先ほどよりも魔法に使う魔力を減らしているのか!人間の脆弱さが出ているな!」
「やかましいッ!」
そう言ってバトラが蹴りを与えようと足を振り上げる。
しかし、ゴーニャはその蹴りを片手で受け止めた。
「疲労もたまっているな!残念だが君はここまでだ!"橋針―」
「"カラカネ”!」
その声と共に離れた場所に顕れた白煙の槍がゴーニャの背後から迫る。
「それは悪手だろう!」
ゴーニャはそう言って槍が迫っている方向にバトラを盾のようにして突き出した。
しかし槍は止まるどころか勢いをより増した。
「なッ!」
「……"MAPFER”」
バトラがそう唱えたと同時に、緋色のサークルがバトラの体全体を隠すように顕れた。
「一体何を……!」
「ビビってんのか?安心しろ、殺しはしねえ」
その直後、サークルに槍が吸い込まれた。
(なんだ……何が狙いだ?もうこの食糧には魔力なんてほぼ残っていないはず……いや待て、あのサークルに槍は吸い込まれた。ならばその槍は今どうなって―)
「……まさか!」
「気づくのが遅えよ」
その言葉と同時に上空から白煙の槍が落下し、ゴーニャの腕や肩に地面ごと刺さった。
その拍子でゴーニャの手からバトラが離れ、力なく倒れた。
(……なるほど。あのサークル、物体を転移させる力があるのか……それで槍を僕の真上、しかも高空に転移させて僕が気づかないようにしたのか……人間にしては頭が回るじゃあないか。だが―)
「僕以外にも、ならず者がいることを忘れてはないだろう?」
「誰がならず者だ!"流星皇帝”!」
シケリは再び巨剣を手中に顕現させ、それを薙ぐために構えを取った。
「……ウブレジェーさん!」
(あの獣人の魔法の行使を俺の白煙で妨害している今がチャンス!気絶してるウブレジェーさんを回収して即離脱!その前にまずはあの剣の横薙ぎを避ける!)
そう考えながらオルアがゴーニャの足元に倒れているバトラの元へと駆け寄る最中―
「ッらぁ!」
シケリの大きな掛け声と共にその巨剣が薙ぎ払われた。
(来た!避けろ!前に飛び込むように……あれ?なんで、すぐ横に剣が?というか、なんか周りがゆっくりに見えて……あ、これってもしかして走馬灯―)
「"LATLVIK”ッ!」
その声と共に緋色に輝く両掌が巨剣を止めた。
「……!」
それを見たオルアがすぐに倒れこむようにして伏せたと同時に両掌がはじけ、オルアのすぐ頭上を巨剣が通過した。
もちろん、その範囲内にいたゴーニャの体は二分され、胴体が地面に落ちた。
「ウブレジェーさん!」
「……先に逃げろ!オディスたちと一緒に撤退しろ!」
「ッ!……はい!」
「逃がすか―」
「シケリ!」
その背後からの声にシケリの動きが止まった。
「お嬢様!?」
シケリが後ろを向くと、そこには氷の球の中から降りているユハとこちらへ駆け寄ってくるイズがいた。
「"球氷”に乗って来て正解だったわ。途中でユハを回収できたし。とりあえず―」
「お嬢様、待って!」
シケリの大きな声にイズたちは動きを止めた。
「ど、どうしたの……?そんな大声出し―」
「おお、我が王よ……私はあなたに再び相まみえるのを楽しみにしておりました!」
「……は?」
「クソっいつのまに!」
「……ゴーニャさん?」
そこには先ほどバトラの巨剣で体を真っ二つに切られたはずのゴーニャが、五体満足の状態でイズの目の前で跪いていた。
「だ、誰?王って……私?」
「ええ、もちろんです!ああ、柱を立ててよかった!さあ、私と共に―」
「はぁッ!」
バトラがゴーニャの横から剣を刺すために飛び掛かった。
しかし、それを炎を纏った片腕で防いだ。
「シケリ……今は大事な時間なんだ。邪魔されるのはとても困るんだが……」
「お嬢様!ユハ様!その刀を核の場所に刺して!早く!」
「え、ええ!」「分かりました!」
そう言って二人がバトラが倒れている方へ駆けだした時―
「"烏”」
それが唱えられたと同時に、周囲にカラスの羽根が降り始めた。
「なんだこれ!?」
「メレッケ王国騎士団極秘研究室だ!全員、動くな!」
そこには、先ほどまでシケリと戦闘していたオディス、セイユ、リジャロがいた。
そのオディスの声にユハとイズの足が一瞬止めた。しかし、イズはすぐにユハに檄を飛ばす。
「ユハ!止まらないで走って!私が対処する!」
「わ、分かった!」
そう言ってユハはバトラが倒れている地点に向かって走りだす。
「待ちなさい!」「待て!」
後ろから聞こえてくるセイユとリジャロの静止の声も聞かず、ただひたすらにユハは走る。
「あと少し……!」
「『動くな』!」
セイユが言った直後に橙色の光が、電光石火の如くの速さで地を這ってユハに届いた。
しかし―
「ぐッ!?ぅぅうう…ぇぁ……おえええええッ!」
「セイユ!?おい!どうした!おいッ!」
ユハにその光が届いた瞬間、変化が現れたのはユハではなく魔法を行使したセイユだった。
「……ッ!」
その声に反応してユハはつい後ろを向いた。
(なんで……!触れてもないのに!)
「ユハッ!気持ちは分かるけど今は止まらないで!」
自らに突っ込んでくる鳥たちを交わしながらイズが再び檄を飛ばす。
「ッ!ごめん!」
その言葉にハッとしたユハが再び走り出そうと背後を向いた。
「!?」
しかし、ユハは目の前の光景に足がすくむ。
なぜなら、そこには先ほどまで倒れていたバトラが肩を上下に揺らし、荒い息を吐いていたからである。
「はぁッ……はぁッ……ここは通さねえぞ……全員…御用だ……!」
そう言ってバトラが腕を前に突き出した。
「くッ!」
「ユハ!」
(マズ……!鳥たちの処理で間に合わないかも……!)
「"TOAR―ぐあッ!」
その魔法は、バトラの死角からシケリによって吹っ飛ばされたゴーニャと衝突することによって中断された。
二人はまとめてユハから少し離れた位置へ吹っ飛ぶ。
それを追うようにしてシケリが現れた。
「ユハ様!ここに刺してください!私が守るので急いで!」
「は、はい!」
ユハは再び走り出し、そして遂にそこへとたどり着いた。
「ここです!」
「ユハ!やって!」
「もちろん!」
そう言ってユハが刀を地面に刺し込む。
その刀身はするりと地面へと潜り、刀を地面に刺しているとは思えないほどであった。
(……なんだ?)
ユハは刀を刺した場所の周囲が光っていることに気づいた。
そしてその光は、目を開けられないほどの眩しさとなって周囲を一瞬で埋め尽くした。
「うおッ」
あまりの眩しさにユハは思わず目を瞑った。
(なんだこの光!瞼越しでも眩しさを感じる!)
その光の強さに目を閉じながらも、ユハはあることに気が付く。
(あれ……?なんだろう……人の気配が、無い?)
光が段々と弱まっていくのを瞼越しに感じ、ユハは目を開けた。
「どこだここ……!」
そこに広がっていたのは、ただただ真っ白な空間だった。
上も下も、右も左もすべてが白の虚無。
「イズ?シケリさん?」
ユハが呼びかけても、返事は返ってこない。その声は全て、明るい虚無にかき消された。
「誰もいないのか……!」
「いるよ」
「!?」
突如背後から声が聞こえ、ユハは咄嗟に振り返った。
そこには、赤黒い髪色をしたエルフの女が立っていた。
「だ、誰だ……!」
声を震わせながらもユハは目の前の女に問いかけた。その様子を見たエルフはニタリと微笑んだ。
「そうだね。私が引きずり込んだのだから、私が最初に自己紹介をしなきゃだ」
「はじめまして。私の名はイノメノ・ベルーオン。今しがた君が壊した結界を創った天才さ」
読んでくださりありがとうございます。第13話です。今回はちょっと長めに書いたんで、文章おかしいところがてんこ盛り盛りだと思います。勘弁してね。そしてお知らせです。次回で『シヒリ樹海編』はおしまいです。次々回から新章が始まるので、引き続き暖かい目で見守っていただけたら幸いです。




