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三連鎖


 それを例えるなら……爆弾と呼ぶのが正しいだろう。

 導火線が燃え進んでいるかのように徐々に進行し……そして時間が来るかきっかけがあればドンと大きな音を立て爆発する。

 だから爆弾のようであると例える事が出来るだろう。


 また、それはトランプタワーのようでもあった。

 恐ろしいほど不安定なバランスで積み重ねられ、いつ崩れるかもわからない。

 そして、完成すれば最後に必ず崩す事となる。

 だから、トランプタワーと例えるのは決して間違いではない。


 そんな、日常に潜んでいる小さな二つの爆弾が、今にも連鎖反応を起こしそうな様子でくすぶり続けていた――。




「やっぱり良いよなぁ……ダイノキング」

 テイルはテレビを見ながらそう呟くと、ユキとファントムはその両脇でこくこくと首を縦に動かした。

「そうですね。僕としてはもう少しアサルトの活躍の場が欲しいですけど……」

 ファントムの言葉にテイルは同意を示すように頷いた。


「私としては……五人になって欲しいけど……難しいよねぇ」

 ユキの言葉にテイルの眉毛はハの字となった。

「うむ。その気持ちはとてもわかるが……前世代のトラブルがなぁ……」

「ほらほら二人共、その話は後にしましょう。フィニッシュシーンが始まりますよ」

 ファントムの声に反応し、二人は会話を止めテレビに集中した。


 今三人が見ているのは『恐竜戦鬼ダイノキング』という実在のAクラスヒーローを主役として放送している番組である。

 三人組の戦隊物で、恐竜をモチーフにした三色スーツという伝統的かつ王道な流れを汲んでいる。

 ダイノキングの実力自体はクアンと大差ない程度だが、巧みな連携とテレビ映えする必殺技、そして見せ場を作る為の流れとカメラワークという魅せる為の技術は比べ物にならない位上手い。

 その為、彼らはこうして毎週枠の番組を持つに至っていた。


「んー期待以上だな。戦闘力は当然見せる技術と演技力の成長が早い。これは本当に前世代の悲願であるレジェンド行き……あるぞ」

 テイルがニヤニヤしながらそう言葉にした。

「僕は彼らと戦った事という縁がありますし、ライバル的な感じで登場出来ないですかねぇ」

 ファントムがそう言うと、ユキは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ごめんね私が邪魔した奴だね。ちゃんとあっち側にも正式に謝罪を表明して賠償金払ったけど……ファントムには何もしてなかったね。ほんとうごめん」

「良いですよ。そも、僕達身内みたいなものですし。どうしても僕に悪いなと思うのなら、ハカセの事()()とよろしくお願いします」

「え? どうしてそこで俺が出るんだ?」

 首を傾げるテイルにファントムが微笑み、ユキはファントムの問いに肯定も否定も出来ず困惑していた。


「……なぁ。テレビ終わったらちょっと話があるんだが良いか?」

 ソファに仲良く座っていた三人は声の方向である後ろを同時に振り向いた。

 そこに立っていたのはテイルの作った怪人の一人、雅人だった。


 元ARバレット第三怪人ザースト、現高橋雅人。

 彼がこれから話す事は間違いなく吉報であり、素晴らしい事である。

 それは爆弾などという表現する要素は一切ない。

 しかし……その雅人の吉報こそが、爆弾を誘発させる起爆剤であった事は確かだった。


「雅人。何かあったのか?」

 何でもはっきりと言う雅人にしては珍しく口ごもり、その様子を三人は不思議そうに見つめた。

「いや……そのな……。うん、俺、結婚する」

 そう言い切った雅人に、ユキは目を丸くし、ファントムは微笑み、テイルは満面の笑みを浮かべた。

「そうかようやくか。相手の親御さんとの話し合いは終わったのか」

 テイルの言葉にファントムは頷いた。


「ああ。ぶっちゃけ監督……いやお義父様の方が乗り気だったからな。むしろずっと急かされていた」

「だろうな。俺でさえようやくかって思ってたくらいだし」

 結婚が送れた理由は雅人が煮え切らない気持ちでいたからだという事をテイルは知っていた。


「それで、父親であるハカセに色々と書類を書いてもらいたいんだ」

「おう。それは良いが……他には?」

「ああ。それと今彼女を連れてきているからちょっと挨拶をしてくれたらと……」

「まじか!? ついに来たのか!?」

 テイルは慌てて立ち上がった。


「ユキ! 茶菓子の用意。高級な奴から良さげな奴用意! ファントム。部屋の点検! 塵一つ許すな! 俺は茶の用意をする! 雅人! 五分後に連れて来い。はい準備!」

 特殊部隊ばりに働く三人に雅人は苦笑いを浮かべながら、喫茶店で待たせている彼女を迎えにいった。




「はじめまして。えっと……雅人さんとお付き合いをしている古賀茜と申します」

 背が小さくちんまりとした印象で、ボブカットの髪は名前のように茜に近い色をしている女性はニコニコとしながらそう言葉にした。


 小動物のような小さい印象はあるがユキとは違い、しっかりと女性らしさも兼ねていた。

 そんな彼女の服装は基本的に普通なのだが……胸元にあるネックレスはしっかりと怪獣モチーフだった。

 怪獣フリークというのは間違いないだろう。


「はじめまして。雅人のお父さん役をしている高橋テイルです。月並みですが……好きな怪獣は何でしょう? 当然雅人を除いて」

 そんな斜め上なテイルの言葉に少し驚きを見せた後、笑顔に戻り口を動かした。

「有名どころは皆好きですが、やっぱりドシーンとした力強い奴が好きですね。迫力があって、それでいてなおこう……怪獣らしいと言いますか。ゼッ〇ンよりゴモ〇が好きって言えばわかりますかね?」

「あーわかりますわかります。宇宙ぽいのじゃなくてもっと生態ぽいって事ですよね。そして尻尾」

「そうそう尻尾。あと角」

「なるほど。ではエレキ〇グとかですね」

「良いですねー。でも私の中であれはマスコット枠ですので」

「わかりみ」

 そんなテイルと茜の会話にユキはジト目でテイルを見て、雅人は溜息を吐いた。


「とりあえずさ、先に大切な事言っとけ。後でいくらでも話して良いから」

 そんな空気でなくともけじめは大切である。

 そう雅人が言うと茜は頷き、テイルの方に微笑みかけた。

「雅人さんくーださい」

 そう明るく言う茜。

「どーうぞ」

 テイルはそう返した。


「……いやさ……そりゃ最初に緊張しなくても良いって伝えたけどさ……もっとこう……何て言うか……」

 ぶつくさという雅人だが、その呟きは誰の耳にも入らなかった。




「それで、式はどうするんだ?」

 テイルの言葉に雅人は首を横に振った。

「やらないつもりだ。そっちに金をかけるくらいなら二人で旅行に行こうかって話になってる」

「怪獣映画舞台巡りツアー予定中でっす」

 茜は嬉しそうにそう言葉にした。


「そうか……少し残念だが、まあ本人達の希望なら仕方ない」

 テイルがそう言葉にする横で、ユキは苦虫をかみしめたような表情を浮かべていた。

「……どうしました?」

 茜が不安そうにそうユキに声をかけると、ユキはその表情のまま、ぽつぽつと呟いた。

「結婚式……行きたかった」

 友達も家族もいなかったユキにそういった目出度い式の経験はない。

 だから一度くらい言ってみたかった。

 そしてあわよくばブーケを取りたかった。

 投擲者の筋力計算と座標よりブーケの落下地点まで予測する準備をしていたユキはそう呟いた。


「……金は出すからやってみないか?」

 テイルの言葉に雅人も茜も愛想笑いを浮かべた。

「いえ……さすがに悪いですから……」

「ついでに言えば、俺達はそれほど興味がないからな。悪い」

 雅人の言葉にユキは残念そうにこくりと頷いた。


「……まてよ。つまりアレか。二人が興味あるような式なら良いのか?」

「例えばどんなだ?」

 テイルの言葉に雅人がそう尋ねると、テイルは雅人と茜の傍により、誰にも聞こえないよう小さな声で二人にだけ内容を話した。

 それを話した瞬間、茜の表情はぱーっと満面の笑みと変わり、雅人は諦めたような表情を浮かべた。


「それなら良いですね! むしろしましょう! というか絶対します!」

 恐ろしいほどに盛り上がる茜。

「お前ならそう言うだろうよ……ついでにお義父様も絶対に気に入る……。はぁ。二次会でブーケを投げるくらいは企画しておこう」

 雅人はユキの為に、そう苦笑いを浮かべながら呟いた。




 この時までは、何ともなかった。

 雅人が古賀雅人となり他所に行くが、それでも付き合いは変わらない。

 むしろ茜が偶に遊びに来るようになることから、もっと賑やかになると想像出来る。

 そう、この時までは――まだ爆弾は欠片も出てきていなかった。


「お邪魔しますね。お茶のお代わりはいかがですか?」

 ニコニコ顔のメイド服を着たナナが客間に入りそう尋ねると、茜は物珍しそうにナナの方を見た。

「わー、悪の組織ってメイドさんも雇ってるんですね……びっくりです」

「いえいえ。私は従業員兼戦闘員兼用ですので……ああでも、怪人であるクアン様のメイドという意味ではメイドである事も正しいかもしれません」

 ナナの言葉に茜は興味深そうにふんふんと聞きながら頷いていた。


「ついでに言えばうちの出入り口は喫茶店も使ってるからな。給仕とかお茶とかそういう意味ではウチはメイド技能が高いと言っても良いかもしれないな」

 そんなテイルの言葉にナナは頷いた。

「それは確かにそうですね。表の喫茶店は別に人がいるとは言え、私達も良くヘルプに行きますし」

「ははは。すまんな。まあ喫茶店の方は給料良いから許してくれ。……ああそう言えば、ナナは結婚どうなったんだ?」

 その言葉の瞬間、ナナは一気に死んだ目と化した。

 テイルはドカーンと何かが爆発した音を聞いたような錯覚に陥った。

「ハハ……。それどころじゃなくなって最近彼とは会話すら最近ほとんどありません……ははは。これ捨てられるのかな私」

 そんなナナの呟きと同時に、空気が氷点下まで下がるような錯覚を皆が覚えた。


 今ここに、日常に潜んでいた爆弾が――遂に爆発した。


「……そうですね。捨てられても仕方ないでしょね。私なんて改造人間。元々は歩く事も立つ事も出来ない身で親から捨てられた存在。そう、捨てられるのには慣れていますから……はは」

 よく見るとナナの目元には隈が酷い。

 化粧でごまかしきれないほど寝不足となっているのだろう。


 空気の読めないテイルですら、これが緊急事態であるという位は理解出来た。

『エマージェンシー、エマージェンシー。んで誰が対応に行けば良い?』

 テイルがそうアイコンタクトを送った。

 だが、誰もそれに応えない。

 というよりも、応えられる者がこの場にはいなかった。


 テイルは女心がわからないから論外で、雅人と茜がナナに対応すればそれはもうただの嫌味である。

 ユキもまた天才故人の心がわからず、ファントムも恋愛問題を解決できるような経験はない。


 そんな状態でおろおろとしてどうしようか悩んでいる時、客間に一人の女性が入って来た。

 天の助けかと思ってテイルがその女性を見ると、げんなりした表情を浮かべた。

 その女性には他の人と違い、猫耳が付いていた。

 しかもそれは作り物ではなく本物だった。

 彼女の名前はファーフ。

 テイルの生み出した第零怪人であり、唯一テイルの子供ではない怪人である。

 その関係は一言では表せられないが、テイルにとっては後悔と汚点の塊というのが近いだろう。


 そのファーフはぽろぽろと涙を零しながら、ぽつりとこう漏らした。

「にゃー……テイルの子供産まないといけないのに好きな人出来ちゃった……」

 その言葉に、全員がテイルの方に顔を向け唖然とした表情を浮かべ硬直する。

 当の本人であるテイルは聞いた事もない話をさせ皆の視線を一身に受けながら口をパクパクと開きファーフの方に指を差した。 


 今ここに――重なっていた二つの爆弾が連鎖反応を起こし、事態を混沌と混乱の極地に陥いらせた。


「ちょっとテイル! どういう事よ! そしてあの女とどういう関係よ!」

 テイルの胸倉を掴みながらユキはそう絶叫する。

「待って! いや誤解だ! 俺にそういう経験はない!」

「ここは五階じゃなくて地下二階よ! 良いから事情を話しなさい!」

「わか……俺もわからん! マジでわからんのだよ!」

 そんな二人の争いをオタオタとして介入出来ずにいるファントムと雅人。

 茜は他人の家という緊張する空間による大騒動に考えるのを止め静かに椅子に座っていた。


 ナナはその様子が目に入ってないようで死んだめのままぼーっと佇み、ファーフは泣きながらじりじりとテイルに近寄ってきている。

 わいやわいやと大混乱を起こしつつある現状を、さすがにどうにかしないといけないと思ったテイルはそっとスマホを取り出した。


「何! また別の女を呼ぶの!?」

「何でそうなる! クアンを呼ぶんだよ! というかそろそろ冷静になって手伝ってくれ! 事態を解決させるぞ!」

「わかったわよ! 解決したら事情をしっかり聞かせてもらうからね!」

「俺が聞きたいわ! ファントム! 雅人と茜を避難させろ。ついでに書類とか相談とかその他もろもろを含めて二人の面倒を頼む! ……ナナ! クアンが来るからちょっと待ってろ。何とか出来そうならARバレット総出で協力するから早まるな! そしてファーフ! お前は……」

「貴女は私とテイルの二人で尋も……話を聞くわ。良いわね?」

 脅すようなユキの言葉に、ファーフは泣きながら縋るような目で頷いた。

「にゃー。お願いします……。もうわけがわからなくて……」

「とりあえず話を聞きましょう。テイル行くわよ!」

 そう言ってユキはファーフの手を優しく握り、テイルの手を乱暴に引っ張って別の部屋に移動した。


ありがとうございました。

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