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それは決して恋ではなく2


 それは去年の話だった。

 まだファントムが最新の怪人でクアンどころか七号すらいなかった頃、怪人達六人はテイルの為に秘密の計画を実行した。

 合コンである。


 知略に特化した第一怪人を中心として企画し、六人全員の能力とコネを総動員した合コンという名のテイル結婚作戦だった。


 自分達を息子、娘としてくれるのは嬉しい。

 だが、それにしても本人の幸せをもっと大切にして欲しい。

 というか早く結婚してほしい。

 特に第一や第二怪人は、テイルが酷く落ち込んでいた現場を見ていた為そう願っていた。


 その息子達の願いにより、テイルにとってこれでもかと言うほどに有利な合コンとなっていた。

 具体的に言えば、男女五人の参加者に合コン会場の飲み屋の主人や従業員全員が、根っからの善人である。

 怪人達で国防に携わるんじゃないかと言うレベルで性格チェックを行って人選と会場を選択したからだ。

 そして、女性五人の内二人は悪の組織を、もっと言えば救助活動に力を入れる悪の組織ARバレットの活動を好意的に捉えており、更に別の女性はテイルが好きな少年向け玩具メーカーの職員である。

 テイルの好みである外見で選んでも絶対に恋愛に発展しない。

 そうわかっているからこそ、内面特化での人選だった。


 男の方もテイルと話が合いやすく、かつ全員コミュ能力が高い人達を選出した。

 これでテイルが結婚出来ないなら何があっても結婚出来ないだろう。

 そんなレベルでの高条件を用意し、息子達と娘合わせて六人はテイルを決戦に送り出した。


 合コンの流れで言えば、ほぼ完ぺきな状況だった。

 悪の組織運営者であり、多くの救助経験のあるテイルは自己紹介の段階で注目の的となり他の男からはポジティブな好奇心を、女性からは尊敬の念を受けた。




「……それでしたら、どうして今ハカセに恋人いないんです?」

 クアンの質問にファントムは苦笑いを浮かべ雅人は盛大に溜息を吐いた。

「そうだな。一つだけ……あの作戦の敗因を上げるとするならば……俺達はハカセの汚染力を舐めていたくらいか……」

 雅人はそう言葉にした。

「お、汚染? さっきも言っていましたが一体何が何に汚染するんです?」

「……続きを話そう」

 雅人は、その後何があったのかテイルから後で聞いた話を始めた。




 そこそこに盛り上がる中、テイルが次に気になったのは玩具メーカーで働いている女性の事だった。

「貴方は仕事で今どんな事をしているんですか?」

 そんなテイルの質問に、女性は新作開発プロジェクトの主任をしていると答え、皆盛大に驚いた。

 そして女性は、外部に見せても問題ないプロット数種類の資料をテーブルに用意し皆に見せた。


「小学生中学年から中学生男子までを中心のターゲットとしつつも、高校生に加えて成人した大人になっても遊べるような、そんな幅広い客層を作れるようなプロジェクトを現在行っています。欲張りすぎて少し難航していますけれど……」

 女性は完全に仕事モードとなり皆にそう説明した。


 実際に女性が見せた資料は、紙相撲のようなシンプルな仕組みがモチーフとなったリモコンロボ対決だったり、メンコやけん玉原案としたコレクション系ホビーだったりとどこか懐かしくもありつつ今の技術と知識が使われた玩具のプロットが書かれていた。

 その資料に女性達は実際の裏側資料を見る機会のない女性はそこそこに興味を持ち、男性達は自分が子供の頃あそんだ物のリバイバルとして復活する事に大きく興味を持った。

 そして我らがテイルは……その資料を見て一言呟いた。

「よし。実際に作ってみるか」

「――は?」

 九人全員の目が点になった瞬間だった。


 テイルは決して天才ではない。

 むしろ凡人よりだと言えるだろう。

 ただし、虐待を超えた拷問に近い教育のおかげで理系科目はハイレベルで習得し、虐待から一気に自由になった反動で少年向け玩具に取りつかれ、当然のように特撮にハマった。

 そのような人生だったが故に、テイルは常人では到底成し得ないレベルの能力を三つほど持っている。


 一つは父親に押し付けられた製薬会社で生活する為の能力。

 自由になっても、テイルはせっかく出来るのだからと製薬会社に入り、そして実際に会社で多くの成果を残している。

 それはテイルのチームで生み出した薬からもたらされる利権だけで、テイルは末代まで何もせず遊んで暮らす事が出来るほどだった。


 一つは特撮……特に悪の組織と怪人にはまったが故に生まれた怪人製造の知識。

 薬学の派生で覚えた人体を中心としたバイオテクノロジーの知識と、怪人製造について詳しい研究者達と意気投合した故のコネ、そして人体実験でもしないと得られない貴重なデータをファーフの時に得られたおかげで、テイルは世界有数レベルの怪人製造者となった。


 最後に、玩具にハマり、暇な時は時々子供達に混じって遊ぶほどの玩具好きである事。

 テイルはその二十後半という年齢であるにもかかわらず、中学一年男子くらいの子とほぼ同じ感性を持っていた。

 それはただの趣味という次元を超越し、才能と呼ぶにふさわしいほどである。


 そして、そんな感性の子供が玩具の原案を見たらどう思うだろうか。

 それは当然『遊んでみたい』である。

 しかも性質の悪い事に、テイルには実行できるだけの能力が兼ね備えられていた。


「まず、この『メンコ対戦(仮名)』を作ってみようか』

 そうテイルが言うと、いやいやといった若干乾いた空気が流れる。

 そう、普通だったらここで止めておこうという流れになるだろう。

 ついでに言えば、テイルも誰も手を出さないなら迷惑になるから止めておくくらいの空気は読める。

 ……だが、そうはならなかった。


「あ。俺この後捨てようと思ってたのでチラシとか新聞とかの紙とガムテープ車に積んでますよ? 使います?」

 男の一人が、テイルにそう声をかけた――かけてしまったのだ。

「でかした! よし、持ってきてくれ。作ろう」

 その言葉に男は走って、そして大量の紙類とガムテープを持って来た。

 そう、その男はテイルの影響を受けて脳内が子供に戻っていたのだ。


 そしてテイルは用意されたプロットを考慮しつつ実際に設計図を作り上げ、紙を用意した男と二人で実際にその玩具を作り始めた。

「限られたフィールドを舞台とし、吹き飛びやすい形状にあえてして場外に落とすのが基本ルールと……。それならフィールドも耐久性や弾力なども考慮しそれ相応の物を用意する必要があるな……。んー新聞紙とチラシではちょっと難しいな。段ボールでもあれば何とか……」

 テイルがメンコを新聞と紙で作りつつそう呟くと、さっきまで静かだった女性の一人が手を挙げた。

「段ボールあるか店の人に聞いてきますね」

「よし! 任せた!」

 テイルの言葉に笑いながら頷き、女性は店の人に突撃していった。

 また一人、テイルの影響により幼稚となった人が生まれた瞬間だった。


 ここまで来たらせっかくだしという流れで、十人全員で『メンコ対戦(仮名)』を実際に作り上げ、そして遊んでみた。

 たかがメンコではあるが、それなりに面白く、本当にそれなりに盛り上がった。

 あくまで、それなりである。

 しかも、その盛り上がり方は合コンでの盛り上がりというよりも男子大学生が宅飲みでテンションあがって子供の頃楽しんでいた物を引っ張り出して遊んだような……そんな盛り上がり方だった。


 そして最後に、玩具メーカーの女性に実際に遊んだ場合の問題点や改善点などをテイルは提出した。

「実際に作る事になったら教えてくれ。とりあえず買うから」

 そう言ってテイルは微笑んだ。


 しかし……これで終わりではなかった。


「さ、次のプロットもテストをしようか」

 きりっと言った表情でテイルがそう言い放つ。

 しかも、何故かそれに反対するどころか賛成する空気の方となっていた。


「だけどテイル。次からは機械関連が多いよ?」

 男の一人にそう言われ、テイルは困惑した表情を浮かべた。

「む。……うーむ。ある程度の設計図とプログラムなら俺でもいけるが、ハードの方が俺にはなぁ。機械関連はそこまで強くないぞ……」

 そうテイルが呟くと、さっきまで静かだった女性が手を挙げた。

「あの……私機械とかが大好きで……それで他の女性からずっと馬鹿にされて……でも好きだから女なのにそういった会社に入っちゃったくらいです……はは」

 そう女性が勇気を振り絞ったような表情で呟くと、テイルはその女性の方に歩み寄った。

「でかした! うむ! ならばハードの方は任せた。設計とプログラムは俺に任せろ! ついでに基盤とか半田ごての道具とかその辺りもろもろ売っている店しらないか?」

「あ……あの……知ってます。うん。道具は……私の家が近いから取ってくる……よ?」

 おずおずと、下を向きながらの様子はほぼ対人恐怖症のそれである。

 そんな女性に、テイルは優しい笑みを向けた。


「頼んだ。新しい物を作るのって、何かワクワクするよな?」

 女性はそんなテイルの言葉にぱーっと表情を明るくさせ、大きく首を縦に振った。


 その後、流石に合コン会場で半田ごてはまずいという結論が出て玩具会社の汚しても良い部屋を借り、全員で玩具の製造を始めた。

 目的は幼稚なのだが、その行動は機械工学やらプログラミングやらという地味にハイレベルとなっており、しかも玩具会社という事で3Dプリンタまで使用し始めたから内容はもう本職さながらである。

 玩具会社の女性はそのまま全員をスカウトしたいくらい彼らは的確で、そして熱意的に玩具作りに取り組んでいた。


 完全に無意味で無駄な行動を、わざわざ休日を潰して開かれた合コンを犠牲にして行う。

 そんな愚かな行為ではあるのだが、それは忘れていた幼き頃……遠い日の輝かしい日々をまた見ているような、皆そんな気分にさせられていた。

 テイルだけは、完全に素である。


 そして用意されたプロットのおもちゃを全て作り上げ、実際に稼働するか試して全員で一喜一憂した。

 気づけば、全員がテイルの童心とチャレンジ精神に汚染されきっていた。



「それで、その後どうなったんですか?」

 クアンの言葉にファントムは苦笑いのまま答えた。

「玩具を作ってもハカセは満足せず、既存のおもちゃを使って合コンメンバーで大会を開きました。それはそれは盛り上がったそうですよ?」

「……いえ。そうではなくて……もう無理なようにしか思えませんが合コンとしてはどんな結果になったのかなと」

「ああ。実は最高の結果でしたよ? 五組中四組が恋人となり、しかも四組共から結婚の報告を頂きました。まさにミラクルです」

 残り一組の内男が誰なのかは、言うまでもなかった。

「ついでに言えばな。残された女性側の一人は阿呆に汚染された結果……現在俺達よりも強大な悪の組織の首領をやっている」

 そう雅人が付け足した。


「その人との恋愛関係は……」

「その人は現在、ハカセみたいな性格となっております……。それで、恋愛に発展すると思います?」

 ファントムの言葉にクアンは黙り込んで微笑み事しか出来なかった。

 クアンは未だ恋愛という意味でも幼稚で未熟である。

 それでも、女版テイルが出て来たところでテイルと恋愛になるわけがない事くらいは理解出来た。


「それで俺達はあの人がテイルに汚染されるのを恐れている訳なのだが……」

 そう雅人が言った瞬間、ばたんと大きな音を立てて扉を開け放ち、ユキが姿を見せた。

「クアン、ファントム!これが貴方達の新しい牙であるニューウェポンよ!」

 よくわからない言葉を発しながらドヤ顔で、ユキはテーブルの上にそっと二つの武器を置いた。


 クアンの武器はほぼ同じハンドガンタイプのままだった。

 ただ、グリップが若干大きくなって握りやすくなり、フロントサイトが赤色となり目のようになっていた。

「本来の機能をそのままに、三点射とフルオート機能を付属。それに加えて弾丸である水の補給機能の強化に加えて予備弾薬の為マガジン式に変換。それと切り札として残弾全てを吐き出す水レーザー機能を付けたわ! その名もガン――」

「――てっぽーうお君の改良ありがとうございますユキさん」

 ユキは少しだけしょんぼりしながらこくりと頷いた。


「それで次はファントムの武器だけど。こっちはもうほぼ一から作り直したわ」

 そう言って渡された道具は、中が空洞の円柱状となっており、今まで使っていた持ち手が内蔵されていた。

「どう使うんです?」

「籠手のように装着してみ?」

 その言葉に従いファントムがそれに腕を通すと、無数の黒いワイヤーがぐるぐるとファントムの腕に巻き付き、同時に手の甲付近に三本の黒い爪が飛び出た。


「通常形態である近接の『クローモード』に従来の複数本を同時に操作する『ウィップモード』と一本の長い『ロープモード』の三形態となるようにした。当然ワープ出来るようネットワーク機構も残してあるぞ。ああ、やりたい事をやり切った気分だ……」

 テイルが満足げな顔でそう言葉にした。

 ファントムは受け取ったソレをしげしげと見て、そしてユキの方に笑いかけた。

「お見事です。ハカセのセンスに付き合うのは大変だったでしょう?」

 その言葉に、ユキは首を傾げた後、首を横に振った。


「まさかまさか。私は好奇心の悪魔よ。好奇心の為ならどんな非道でもする悪魔的エンジニア。Dr.テイルに付き合う事に何の苦痛も感じないわ。むしろ私の知らない新しい感性が目覚め、産声を上げて生まれ直しているような気分になるくらいよ!」

 その言葉に、残された三人は理解した。

 ――ああ。汚染は手遅れだったか……。


 三人は奇妙な連帯感の中、仲が良さそうなテイルとユキの二人を見て苦笑いを浮かべた。


ありがとうございました。

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