二話 介入(14)
一部暴力的な表現があります。
ご注意ください。
約束はしていたけど、やっぱり行き渋る朋里と優希をなんとか説得して学校に向かわせた。
今日は家にいて欲しくなかった。嫌な光景を見せたくはない。
おそらく、滞在期間中はティーノもそのつもりで来ている――そして、本人はそれすら楽しんでいる。
呆れるほど歪な関係性に苦笑いが止まらない。
――いっそティーノが徹底的に悪人だったら、こんな奇妙な気持ちは抱かなかった……。
でも、私達は成し遂げなければいけない。
ティーノを止められるのは、おそらく世界で私達だけだ。
外で車の音がしたと思ったら、玄関のチャイムが鳴った。時刻は十時――ゆっくり来てくれたようだ。
のんびりと寛いでいた悟が重い腰を上げて玄関に向かう。昨日はしゃぎ過ぎたせいで、私も悟も身体がバキバキだった。一応、私もお出迎えに行く。
「おはよう。昨日はゆっくり眠れたかい?」
昨日の疲労を感じさせない爽やかな笑顔で、ティーノは私達に言った。
「ありがとう、ベッドに入ったら速攻で寝落ちたよ」
「僕もです……どうぞ、入ってください」
どことなく緊張している悟に、思い当たるところがあるが、なるべく意識しないようにする。
心を読まれなくても、察しのいいティーノならこれくらいの違和感はすぐに気がつくだろうけど、念のためだ。
ティーノは慣れた足取りでリビングのソファに座ると、悟が出したコーヒーを美味しそうに飲んだ。
「日本のインスタントコーヒーでも満足できるの?」
「流石に豆から挽いているコーヒーとは違うが、十分に美味しいよ。悟の淹れ方も上手なんだろう」
「さらっと褒めるの上手だよね」
「私の特技といえば特技だが、思ったことをそのまま言っているだけではあるよ」
「ありがとうございます」
――確かに、その節はある……。
ティーノの心を時々覗くと、誰かの客観的な良いところと悪いところを分析していることが多い。口に出すのは良いところだけだけど、誰かを瞬時に分析するのは、ティーノが生きていく中で染み付いた癖なのだろう。
昨日の観光の感想や、最近の機械的生命体の研究について、魔法の応用などについてのんびり話しながら過ごしていると、突然耳が詰まったような感覚になった。
「??」
機械音だろうか? 気持ちの悪い感覚に困惑していると、ティーノが服から首飾りを取り出して「ほほう」と感心した。
懐かしい、ハナが身に付けていた、水晶でできた勾玉が細かく震えていた。
――装置だ。
思い出してティーノを霊視する。
少し、ほんの少しだけ、ティーノの輝きが減っている気がする。
「――なるほど」
ハナの勾玉はみるみる光を失い、ただの石になった。パワーストーンとしての機能が無くなったせいだろう、震えることも無くなる。
ティーノは残念そうな顔はしたものの、依然として焦る様子はない。
自分の神としての情報構造体が上書きされ始めていることに気がついているはずなのに、だ。
一昨日には存在しなかった、部屋の四隅に置かれた本が入りそうな箱――魔法装置がじわじわとティーノの神を削っていく。
――この様子だと、完全に上書きするには二時間は必要そうね。
「指輪の力もかき消したか……」
ティーノは焦るでもなく、淡々と状況を確認する――やはり、どこか楽しんでいる様子もある。
「ほう?」
ミライがティーノの死角から飛び出し、自作したのであろう機械でティーノを捕縛する。
そして――
悟が音もなくティーノの胸に長い包丁を突き刺した。
「――っ!」
ティーノは悲鳴を上げるでもなく、抵抗するわけでもなく、無抵抗で悟の刃を受け止めている。
私はその光景をただ見つめることしかできなかった。
ただ、私がするべきことを、悟が代わりにしてくれた事を悟る。
ティーノの噴き出した血が、悟の背中を斑に染める。
「――ふふっ」
ティーノと目が合うと、彼はいつものように微笑んだ。一瞬だけ、視線が廊下の方に向く。
「残念。私の勝ちのようだ……」
「え……?」
「アイゼンベルク様!!」
困惑した瞬間、リビングの扉が荒々しく開かれる。
そして、扉を開けた男性――執事は、部屋の様子を一瞬で理解し、どこからか銃を取り出した。
「やめ――」
パァンッ
パァンッ
何の躊躇いもなく放たれた銃弾は、私の悲鳴を聞く前に、悟とミライの頭を貫通した。
「嫌、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
部屋に広がる悟とミライの血溜まりに、頭が真っ白になりかける。
――ダメだ! しっかりしろ、私!
光が無くなった悟とミライの瞳が私に告げる――成し遂げるんだと。
「悟ーーっ!」
パニックになった振りをして悟に近づき、悟が予備で置いたであろう包丁を拾う。
「――っ!」
パァンッ
破裂音と共に、視界が暗転した。
暗転する一瞬前に、廊下からエルザの焦り切った顔が出てきた気がした。




