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二話 介入(13)

翌日、次の日は学校に行くという約束のもと、朋里と優希も特別に学校を休んで観光に行くことになった。


自宅以外、特に行きたい所はなかったけど、悟の提案のもと、富士山周辺に行くことにする。


悟が運転する車に皆で乗り込み、まずは富士山の五合目まで車で登る。


「山頂まで登れないよねぇ」と優希が呟くと、ティーノも悟も笑いながら石を握った。


ふわりと身体が浮き、そのままゆっくり斜面を飛行していく。


気圧や外気から守ってもくれているようで、スイスイ登って行っても耳が痛くなったり、寒くなったりもしなかった。


頂上まで十分も経たないうちにたどり着く。


「うわぁ!」

「凄い、高い!」

「凄いねぇ」


富士山の頂上で、娘たちと三人できゃいきゃいとはしゃぐ。


日本に、しかも富士山周辺に住んではいたけど、富士山の頂上まで登ろうとは思ったことがこれっぽっちもなかった。というか、富士山にあまり興味がなかったというのが、正しいのかもしれない……。


――いやぁ、これは一度は登ってみないと損だったなぁ……。


ティーノが雲を払い除けてくれて、見える先には雲一つない。富士山の山頂はもっと切り立ったものかと勝手に想像していたけど、山頂といってもかなり広く、絶景を堪能するには差し支えない程度に安心感があった。


「寂れてるけど、意外と観光地っぽいんだねぇ」

「そうだね。あと鳥居が多いね」

「せっかくだし、お鉢めぐりしてみる? 二時間もあれば一周できるよ」

「する!」

「やりたい!」


子ども二人の鶴の一声で、お鉢めぐりという、富士山の火口巡りが決まった。


ミライも、やれやれというポーズをしているが、満更ではなさそうだ。


クラゲ侵攻による人口の大幅な激減で、登山している人は相当減ったのだろうけど、それでも富士山を登っている人はそれなりにいた。


皆、軽装な上に薄着の私たちを見てギョッとしてから、ぎこちない笑顔で会釈していく。


「ちょっと無謀な家族みたいになってるよね?」

「そうだね」


ティーノが楽しそうに微笑みながら頷く。


「まぁ、大丈夫だよ。私たちには何も問題はない」


剣ヶ峰の石碑で、皆で記念撮影をした。普通は誰か他の人にお願いして写真を撮ってもらうところだけど、悟は魔法でスマートフォンを浮かせて撮影した。


「ここは流石に怖いね」

「お母さん、無茶しないでよ!」

「ミライ、腰引けすぎじゃない?」

「どうやら僕は、高いところが少し苦手みたい」

「ほーら、お兄ちゃん、あっちの方行ってみようよ」

「やめてやめて!」

「優希、危ないから」

「てへへっ」


浮かれて気分が高揚している子ども達が、楽しそうにはしゃいでいるのを、記憶に焼き付けるように見つめた――あ、もちろん、動画も撮った。


富士山は山そのものが信仰の対象になっているため、あちこちに鳥居や神社があった。


特に、火口の真ん中にあるものが印象的――というか、女性の神様がいて目を引いた。


古来より、霊峰と呼ばれている理由が分かった気がした。


そのまま、山頂にある売店で昼食を済ませ、山頂郵便局で記念のハガキを出した。まさか富士山の山頂に郵便局があるなんて、思ってもみなくて子ども達と驚いた。


最後に富士山頂浅間大社奥宮でお参りをした後、御朱印を受けて皆満足して下山した。


「登り降りは飛んだけど、火口は歩いたから結構疲れたね」


笑いながら言う悟は、まだ余裕がありそうだ。


「――どうせなら鳴沢氷穴と富岳風穴にも行く?」


だからだろう、さらなる観光を提案してくる。


「洞くつみたいな所だよね? 行きたい!」

「えぇ……樹海じゃん……悪霊多い所行きたくないよ」

「そうだね、地縛霊多いよね……探検は楽しいけど」

「えー、大丈夫じゃない?」


渋る私と朋里に、ティーノが笑う。


「私が近くにいれば問題ないよ」

「あぁ、確かに。そうだわ」


ティーノはほとんど神に近い情報構造体だ。近付いてきたりはしないだろう。というか、むしろ逃げると思う。


「朋里、大丈夫だよ。せっかくだし、行かない?」

「大丈夫なら、行きたい……!」


そう、探検は楽しい。


朋里の頬が僅かに紅潮したのが分かった――実は行きたかったようだ。


ティーノの庇護のもと、氷穴と風穴を堪能する。


皆、童心に帰って探検を堪能した。なんなら、近くのコウモリ穴にも行った。

それはもう、楽しかった。

平日で人が少なかったのも、より楽しさを引き立てた。


帰宅する頃には、子ども達はもう疲れてぐったりしており、そのままお風呂と寝支度だけさせてベッドに放り込んだ。


ミライだけ抵抗したけど、とりあえず寝転ばせて部屋の電気を消すと、五分も経たないうちに寝息が聞こえた。


「私も今日は疲れたから、そろそろホテルに戻るよ。茜はこのまま自宅で寝るといい」

「色々とありがとうね」

「――私も楽しかった。こちらこそ、ありがとう」

「助かりました。ありがとうございました」


悟がお礼を言うと、ティーノは悟にも笑いかけた。


「今日は一日、運転ありがとう。君もゆっくり休むといい」

「ティーノもゆっくりお休みください」

「ありがとう」


今日一日で我が家に浸透してきた『ティーノ』呼びに満足そうに頷き、ティーノはそのまま執事が待つ車に乗って行った。


「――さて、僕らも寝ようか」

「うん。そうだね」


悟と二人だけの時間が惜しい気もするけど、それ以上に疲労感と眠気が私を襲ってきて、今にも眠ってしまいそうだ。


悟がふらふらする私の肩を支えると、笑いながら歩くのを手伝ってくれる。


「――」


リビングの様相が少し変わっている気がした。


なんとなく、理由は分かる気がしたが、あえて意識しないようにする。


今日は心底楽しかった。

けど、明日はきっと真逆の一日になるだろう。


覚悟を決めなければいけない。


久しぶりに悟と二人のベッドで眠る。


私を抱き締める温かい温もりが、少し震えていた。

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