終章
綺麗に撃ち抜かれた頭から広がる血溜まり――その中に転がる茜たちを見て、私は小さく溜息を吐いた。一緒に血も溢れ出る。
「アイゼンベルク様!」
焦り切ったヨハンに、私は指先で四箇所を示す。
意を察した彼は、的確に指示した箱を銃で撃ち抜いた。それと同時に、不快感が終息する。
「陛下、今すぐ治療を――あれ?」
「車から新しいパワーストーンを持って来なさい。無効化されたんだ」
「! 今すぐに!!」
四捨五入で六十歳になる年齢とは思えないほど俊敏に、ヨハンは車に戻っていく。
「茜――」
エルザが顔を歪めながら、茜を抱き起こしていた。己の身体が血に汚れることなど無関心に、大切そうに抱き起こす。
「すまない」
「いえ、私達が負けただけです」
「君はどうする?」
「どうするも何も、私は元々アイゼンベルク様の所有物ではないですか?」
私の顔に一瞥もくれないまま、エルザは茜の頬を撫でる。
――そういえば、エルザも『彼女』を二度失ったのか。
「持ってまいりました。今、治療致します」
ヨハンが魔法で私からナイフを抜き、傷口を塞いでいく。
「本当に――本当にご無事でなによりです……」
「悟は惜しかったね」
悟が刺した包丁は、私の心臓のすぐ横まで達していた。僅差で私が生き延びたのだ。
私の言葉に、ヨハンが顔を顰める。
「そんな、他人事のような感想はあんまりです……! どんなに私の心臓に悪かったことか!」
「すまない、ヨハン」
私の反応にヨハンは憤慨しているようだったが、すぐに気持ちを切り替える――流石、私の筆頭執事だ。
「外にお子様が二人倒れていますが、どうしますか?」
「倒れている――?」
何故? と思った瞬間には、私の神である部分が答えを導き出している。
「そうか……茜たちに内緒で学校を休んだんだね……」
どこまでこの光景を見ていたのだろう?
――そうか、見る前か。
「どうしましょうか?」
「……ん? 死んでいる?」
「え……?」
「彼女達は、心臓麻痺で死んでいるようだ」
「……はい?」
ヨハンが慌てて外に駆けて行く――やはり、亡くなっていたようだ。
またしても、何故? と思った瞬間に答えがわかる。
――神の介入だと?
あまりのことに、思わず立ち上がってしまう。
嫌な予感に周囲を確認する――私の予感はほぼ的中する。何故なら、私は神なのだから。
「――ない」
私の狼狽した声に、やっとエルザが私を見た。
しかし、茜を抱くエルザの周囲には、あるべき物が存在しない。
「茜の魂がない……!」
「すでに冥界に向かったのでは?」
「冥界にいる程度なら、捕捉できる。冥界にすらいないんだ!」
私の様子にヨハンとエルザが顔を見合わせるが、私は空を睨んだ。
「では、どこに? 魂ですら、神である陛下からは逃げられないのでは……」
ヨハンの言葉に、眠っていた深い怒りが目を覚ます。
「――神だ」
私が吐き捨てるように言った言葉に、ヨハンは困惑する。
「私たちの、創造主の仕業だ……!」
頭が弾けたように、感情が爆発する。
「何故っ、何故、今更干渉する!! 私の邪魔をする!? 今まで誰にも手助けしてこなかった癖に!!」
エルザから茜の亡骸を奪い、抱き抱える。
魂のない器は、こんなにも重く、抱きにくい。
「――返せ! 私の彼女を!! 何故奪うのか!? 出てこい!! 返せ!!」
血で滑って、茜の肉体が滑り落ちていく。
どれだけ空を睨んでも、空から何者も降りては来ない。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!」
彼女のいない世界に、何の意味があるのだろうか?
その絶望に、私は声を上げることしか出来なかった。
暗く、重い内容の第2部を最後までお読み頂きありがとうございます。
これにて第2部はお終いです。
完結編である第3部は、かなりテイストが変わる予定です。
引き続き第3部も守山家の観測を続けて頂ければ幸いです。




