二話 介入(11)
「あー、お父さんの料理もいいけど、お母さんの料理もやっぱり美味しいや」
「うん、美味しい」
「茜もなかなかの腕前だったんだね」
「それはそれは、ありがとう」
次々と賛辞の言葉が飛び交い、ちょっとくすぐったい気持ちになる。
「ティーノはチャーハンって食べたことあったの?」
「ないね。チャーハンは、中華料理かい?」
「中華料理だよ」
「君たちのお母さんは和食だけじゃなく、中華料理も作れるのかい?」
「それなら、洋食も作れますよ。シチューとか、ハンバーグとか?」
「なんと……! 君たちのお母さんは凄い料理人でもあるのか……?!」
「ちょっと大袈裟だよ……」
極大に褒められて逆に恥ずかしいのだけど、子ども達は満更でもなさそうだ。
「それに、それなら悟も作れるよ」
「頭も良いのに料理もできるのか……君たち夫婦は凄いのだね……」
「日本では、料理もこれくらいが一般的ですよ」
「日本は家庭料理のクオリティが高いのだね……」
ティーノはしきりに感心しながら、噛み締めるようにチャーハンを食べた。
「それにしても、君たちが生み出した機械的生命体は興味深いね――エルザや木陰もそうだが、人間にしか思えない」
チャーハンを心底嬉しそうに平らげた後、ティーノは顎を擦りながら呟く。
ミライが反射的に胸を張り、素早くドヤ顔をする――それすらも、ティーノは興味深そうに観察した。
「君たちは『便利な存在』というより、本当に『新しい生命体』を生み出した感じがするね」
「そうじゃなきゃ機械的『生命体』って言えなくない?」
「それはそうなんだが……創造主――ある意味神的なことを行ったのは、日本の山下の開発チームだけだったのだと、改めて思ったんだ」
「神を自称する人に『神的な』って言われるのは、面白いわ」
私が軽口を叩くと、ティーノは肩を竦める。
「自称じゃない。私は神だ」
「ソウデスカー、病院探しときますね?」
「大丈夫だ、既に主治医はいる」
「変えた方がいいんじゃない?」
「大丈夫だ、問題ない」
ミライが白い目をしながら、私たちの前にお菓子を置く――朋里か優希のストックのお菓子を出してきたようだ。
「――とにかく、君たちは素晴らしい開発者ということが言いたかっただけさ」
「それはそれは、光栄です」
「聖魔導帝国に来ないかい?」
「えぇ……」
唐突な営業に、さすがの悟もたじろいだ。
「今回の滞在で、守山一家の勧誘をしようと思っていてね」
――そうきましたか……!
なんとなく予想はついたけど、よもや宣言するとは思わなかった。
「正直なところ、私は悟もかなり評価している。欲しい人材の一人と言っていい」
ミライを筆頭に、朋里も優希もドヤ顔で頷いているのが面白くて、笑みが零れてしまう。
「もし、聖魔導帝国に僕が行ったら、僕は茜の愛人ということになりますか?」
「――いや、悟が許可をするのなら、悟とも結婚――魂を結ぼうと考えている」
「なるほど……」
――つまり、ティーノと悟がそういう関係に……? なるほど?
「茜、そういうことじゃない」
「……オープンマリッジとはちょっと違うよね?」
「そう、新しい結婚の形だ」
――つまり、ティーノと悟がくっつく可能性も……
「茜、可能性はあるかもしれないけど、ほぼない」
「……一妻多夫ともちょっと変わりそうね」
「そうだね。そして、一夫多妻とも違う。それぞれが同じ立ち位置での結婚だ」
「ティーノは皇帝だから、全く同じ立ち位置は無理じゃない?」
「それはそうだが、パートナーとしては同じ立ち位置にしよう」
「……」
悟に振り向くと、悟は顎に手を当ててしきりに何かを考えていた。
どうやらティーノは本気で守山一家の抱え込みに乗り出しているらしい。
確かに、悟は開発者としても、研究者としても突出した人材だ。欲しがる人は山ほどいるだろう。
「――悟は茜が愛している人間だ。私も大切にしたい」
ティーノのその言葉に、悟の瞳が揺らいだ。
「お父さん」
ミライの言葉に皆が我に返る。悟が頭を掻いた。
「――ミライ、ありがとう」
悟は私の気持ちが多少は理解できただろうか――ただただ権力がある人間が、ひたすらあの手この手の誘惑で自分を誑し込もうとするのを拒否する大変さが。
(誑し込んでない。自分の気持ちの事実と可能なことを提案してるだけだよ)
(それはそれで誑し込むというのでは……?)
(君がそう思うのなら、君にとってはそうなのかもしれないね)
(その逃げ口上、卑怯……!)
(なんのことかな……?)
「とにかく、あと三日あるから、ゆっくり皆を口説くとするよ」
「え、皆ってことは、僕も?」
「私も?」
「え、私もなの?」
「そうさ、皆が対象だよ」
家族からの視線に、私はそっと宙を見つめた。
――みんな、なんかごめん……。
その後、皆で買い出しに行ったり、のんびり家で過ごしたりと、夕飯を食べ終わるまでゆっくりと久々の団欒を楽しんだ。
宣言通り、ティーノは隙あらば家族を聖魔導帝国に勧誘しており、皆困っていた。
――普通に良さげな提案をしてくるのが、困るんだよね……。
そうじゃなきゃ、勧誘にはならないのだけど、断る必要があると考えている人間には非常に困る。
「おじさん、今日は家に泊まってく?」
明らかに嫌がっていそうなのに、引き留めるよう提案するミライに違和感を覚えた。
――これは何か作戦があるな?
と考えてしまい、すぐに後悔する。
――筒抜けなのに……。
ティーノは私に苦笑いする。
(それくらい、茜の心を覗かなくても見え透いているかな)
「せっかく誘ってもらって申し訳ないが、今夜はホテルに戻るとするよ」
「――お母さんも?」
――あ、本命は私か!
今更のように気がついて、ちょっと恥ずかしくなる。
ティーノを振り向くと、悩むように頬をかいていた。
「そうだな……茜は自宅で休んだ方がゆっくりできると考えると、茜だけでも自宅の方がいいかもしれない……どう?」
「――え、いいの?」
「茜の望むようにするといい」
そうして、久しぶりの我が家での休息が決まった。
その晩は狭いベッドで久しぶりに家族全員で寝た。
城のベッドとは違って、寝転ぶ人数も多いせいで狭くて寝苦しい状態だったのに、ここ最近で一番深い眠りに付けた。




