二話 介入(10)
「とりあえず、お母さんのスマホ持ってくるね!」
優希が、リビングを駆け出していく。
「日程とか決まってる? いつまで日本にいるの?」
「三日後にミラ島へ戻る予定。一応観光目的だけど、自宅観光ってことで、他の場所に行く予定はないよ」
「なるほど、なるほど……」
「あと、知ってるかと思うけど、来月の六日までは清浄化はしないって」
「それは知ってる。交渉してくれてるんだね」
「多少はね……ただ、止めてくれる兆しはないかな……」
「そんな気はしてたよ」
悟が乾いた笑いを漏らしながら頷く。
パタパタと戻ってきた優希が、懐かしの私のスマートフォンと、作業用ノートパソコン一式を持ってきてくれた。
ノートパソコンの存在は忘れていたので、嬉しくてグリグリと優希の頭を撫でてしまう。
――ちょっと会えない間に、こんなに気を利かせてくれるようになってるなんて……あ、いや、元々それなりに気は利くほうだったや……。
「お母さんは毎日来る予定なの?」
「そのつもりよ――ティーノ……アイゼンベルクも一緒だけどね」
「わかった……」
そうして、大きくなったのにちゃっかり私の膝の上に乗りながら、ミライが何やら考え始める。
――たぶん、作戦を練り始めているのだろう。
「皆、元気だった? 学校とかってどうなってるの?」
「お母さんいないのに、元気なわけないじゃん……お父さんとミライのお守り、大変だったんだよ……」
「朋里ぃ……」
「そうなんだよ、お母さん。由香里さんもいなくなっちゃったのに、悲しむ暇もなく、作戦、作戦、作戦……って」
「優希ぃ……」
「ごめんねぇ、お父さんが……」
「本当だよ……」
「お兄ちゃんは、お父さん側でしょ」
「ミライぃ……」
しょぼしょぼする悟の頭を撫でてから、朋里と優希の頭を撫でて労う。
私一筋だった悟は、さぞかし荒れていたのだろう……ミライまでとは思わなかったけど。
「ごめんね、朋里、優希……」
「待って、僕とお父さんには……?」
「娘二人に迷惑かけてたんだから、優先は朋里と優希になります」
「う……」
ミライもしょぼしょぼし始めたので、とりあえず一旦撫でてあげると、嬉しそうに顔をくしゃっとさせた。
人間だと、思春期で反抗期になる年頃なのに、ミライには全くその兆候はない。
図体は大きくなったけど、性格は小さい頃からほとんど変わらない。
ちなみに、朋里も同様だ。
――いや、私が拉致されてたりしたら、反抗期してる暇もないか……。
人間の発達には、反抗期があった方がいいとは聞くけど、正直どんな反抗期が来るか、戦々恐々としているところはある。
――いや、この状況なら、反抗期無理だったわ……。
「あ、それで、学校とか研究所ってどうなってるの?」
「一時は休校したりしたけど、今は再開してるよ。研究所も一緒」
「そういえば、悟が日本の魔法発展に活躍したって聞いた気がしたけど?」
「そりゃ、魔法の使い方に関しては、僕達から発信しないと分かるわけないからね」
「まぁ、そうだけど……お姉ちゃん達にも魔法教えてたよね? 無事なの?」
「無事無事。むしろ魔法で若返ってるよ。特におばさんとおじさん」
「なるほど?」
魔法で身体を若返らせることも可能な事実に、今更気が付く。
――いや、やっぱり魔法は恐ろしいな。寿命が無くなるってこと?
でも、テロメアはどうなるのか……?
細胞分裂の限界は……?
――いやいや、今それを考えるのはよそう。気になるけど、本題から逸れてしまう。
「本当に、外の情報が入ってこなくてさ……」
「まぁ、鬱だったからね……今はどうなの?」
「まだ薬は飲んでるよ。落ち着いては来てるけど」
「そうか……じゃあ、ネットの検索とかはしない方がいいかな」
「うん……まだ受け止めきれないから、その辺はやめとくよ」
ティーノの虐殺の様子とか見てしまったら、再発する気しかしない。
他にも今までのことや情報共有をしていると、あっという間に時間が経ってしまった。
ピンポーン
チャイムの音で時計を振り返ると、ティーノを追い出してから、既に二時間が経過していた。
皆で顔を見合わせる。
――どうやら、ティーノはかなりオマケしてくれていたらしい。
慌てて玄関へ行き、ティーノを迎え入れると、ティーノは爽やかな笑みを浮かべた。
「盛り上がっていそうだったから、そのままにしてあげたかったが、そろそろ昼食の時間だ――何か決めているかい?」
「悟、冷蔵庫に何かある?」
「買い出し前だから、ほとんどないなぁ。卵とかはあるけど」
「外で食べる?」
「えー、お母さんのご飯、久々に食べたいー」
優希の言葉に、笑みが零れる。
「ちょっと何かないか、冷蔵庫見てくるよ。簡単でいいなら、卵はあるし、チャーハンにする?」
「そうするー!」
家族が嬉しそうにするので、私も久しぶりに気合いが入る。
「あ、ティーノはどうする? 外で食べてきてもいいよ?」
「いやいや、私も君の手料理が食べたいよ?」
「肥えた舌には、不味いかもよ?」
「君が作る料理なら、どんな料理も美味しく食べられるよ」
――こいつ……!
したり顔で言うティーノを睨みつつ、エルザ達には外で食べてくるようにお願いした。
――よーし、久しぶりに料理頑張るぞー!
意気込んだ瞬間、料理上手だった由香里さんのことを思い出し、少し胸が苦しくなった。




