二話 介入(8)
気が付けば、もう二度と降り立つことはないと思っていた日本の――しかも、自宅の最寄りにあるホテルの前にいた。
「プライベートジェットすら、いらなくなったんだね」
「格好いいだろ?」
したり顔で笑うティーノに、苦笑いする。
「テレポートって、フィクションの世界だけかと思ったよ……。でもさ、原理的にどうなってるの? 移動中は私の身体が――」
「まずは先に、チェックインしておこう」
ティーノに両肩を掴まれ、強制的にホテルへ連れていかれる。
住んでいた地域で、一番宿泊料金が高そうなホテルだ。
アイゼンベルクの城と比べると豪奢さはないけど、十分に綺麗で豪華である――たしか、結婚式場としても経営していたはずだ。
「ようこそ、お越しくださいました。アイゼンベルク様」
入るなり、小綺麗な初老の男性に出迎えられる。
なんとなく、嫌な予感がする。
「部屋の準備はできております。どうぞこちらへ……」
チェックインをしないまま、エレベーターへ案内される。
エルザと執事も一緒にエレベーターへ乗り込み、最上階へ上がる。
(ねぇ、チェックインしなくていいの? 顔パス?)
(顔パスというか、茜がこちらに来やすいように、ホテルごと買い取った)
(なんつー無駄遣いを……!)
(茜の役に立つなら、無駄遣いじゃないさ)
(こやつは……!)
最近はティーノに思考が丸見えなので、開き直って念話のような会話をよくする……ただし、オブラートに包めないので、口が悪くなる。
男性に案内された部屋は、最上階の一番高級そうな部屋だった。
一応、泊まれないこともないかもしれないけど、高すぎて、とても泊まろうとは思えないVIPルームに、私は呆れてティーノを見上げた。
――まぁ、ティーノ的には、これが当たり前よなぁ……。
むしろ、逆に格式が足りないまである。
高級そうなソファーに、ドサリとオッサンっぽく沈み込む。
まぁ、もうミラ島での生活で高級品には慣れてしまった。
傷つけたりしないかビクビクするだけ損である。
傷つけても大丈夫。ティーノは怒らないし、買い換えるにしても、ティーノにとっては瑣末な支出だ。
「まずは、どこに行きたい?」
「自宅一択」
「自宅へ行ったら、たぶん観光どころじゃなくなるよ?」
「自宅観光」
「ふふっ――確かに、前に行った時は堪能できなかったから、それもいいかもね」
「いやいや、ティーノはリビングとトイレだけよ?」
「君の自宅をじっくり堪能したいんだけどな……」
「いやいや、無理無理!」
ティーノは口をへの字にして、肩を竦めた。
一応、了承はしてくれたらしい。
「それにしても、よくここのホテルを買収できたね」
金額の心配は全くしていない。
どちらかというと、国の許可の話だ。なにせティーノは、全世界に対して殺戮を行っている。
「あぁ、日本は茜の母国じゃないか。だから、魔法同盟国として協定を結ぶことにしたんだ」
「え?!」
「それに、君の夫の功績で、日本には魔法使いも多い。こちらとしても、被害は避けたいからね」
「それは――なんというか……」
私に配慮してくれるのは嬉しかったけど、既に同盟を結んでいるとは、非常に意外だった。
そして、悟のことを、まだ『私の夫』として表現したことにも――。
私の心を察して、ティーノが微笑む。
「確かに私は君の夫だが、悟も君の夫だ。私は聖魔導帝国での夫。悟は日本での夫」
「結局、一妻多夫になってない?」
ティーノは大袈裟に肩を竦める。
「正直なところ、私は君の夫や子ども達と敵対したくないんだ。私は、君の大切な人達と仲良くしたい」
「いやいや、拉致してるんだから、敵対しかしないよ?」
「できれば、丸め込みたい」
「そんな真剣な顔で、拉致被害者に言わないでくれるかな?」
「――ふふふっ」
ティーノは顎を撫でながら笑う。
「君の家族は、私をどのように抹殺しようか、考えに考えてるだろうなぁ……」
――まぁ、私も考えてるけど……。
「君の計画が楽しみだよ」
「計画を考えた傍から流出するから、意味ないのが困るんだけど、どうしたらいい?」
「それは、君が考えることだろ?」
「むむぅ……」
それはそうなんだけど、無理ゲー過ぎる。
ちなみに、私の思考が共有されているせいで、エルザも木陰ちゃんも裏切り者であることは、ティーノにも当然知られている――それでも誰にも言わず、楽しむように泳がせているみたいだけど。
――もう、作戦なしのノリとアドリブで殺るしかないんだよねぇ……。
「ティーノって、本当は前の私みたいに死にたがってるんじゃないの?」
「そんなことないさ。ただ、暗殺を通しての君とのやり取りが楽しいだけなんだ」
「変態すぎない?」
「変態は、どちらかというと茜じゃないか?」
「――どこが?!」
「しょっちゅう、私や悟の変なダンスを想像してるじゃないか」
「それは――」
――ティーノに思考が筒抜けだから、あえて考えて遊んでるだけ……。
「ほら、やっぱり変態だ」
「これは、茶目っ気だと思いますぅー」




