二話 介入(5)
「何が始まるの?」と疑問に思ったが、直ぐに理解した。
――いつになったら、挨拶ラッシュ終わるの……?
もう何十組も挨拶を聞いている気がする。
座っていても辛い。何が辛いかって、笑顔が辛い。顔がだんだん引き攣ってきている。
途中で何度もティーノが私の口に食べ物を入れてくれたけど、ご飯はちゃんと食べたい。
――ひぃ、まだ終わらない……!
しかし、あと十数組いるようにも見える。
私が挨拶を全く聞いていないのが分かったのか、ティーノが私の腕をツンツンして笑った。
やっと挨拶が終わったと思ったら、今度はティーノにダンスを誘われた。
「いや、無理無理! 社交ダンスとか踊ったことないよ!」
「大丈夫、私が魔法でサポートするから」
「あー……」
――魔法でサポートしてくれるなら、いけるかも……?
と少し迷った瞬間に腕を引っ張り上げられ、立ち上がらされる。
「じゃあ、挑戦してみよう!」
瞬く間にダンス会場まで連れて行かれる。私とティーノが来ると、皆ダンスを止めて立ち去ってしまう。
――えぇ……行かないでぇ……。
ついでに演奏も止まり、指揮者が私たちに注目するのが分かった。
「……なんとかしてよ?」
「もちろん!」
私が凄むと、心底嬉しそうにティーノは笑った。
優雅な演奏が始まると、私とティーノも動き始める。
言っていた通り、魔法でサポートというか、フルオートで動かしてくれるのか、全く何も考えないまま身体が美しく動いていく。
「――どう? 楽しい?」
「楽しいというか、まぁ、面白いね」
私の答えにティーノは満足そうに笑った。
一曲があっという間に終わる。
ティーノはまだ踊りたそうにしていたけど、私達が踊っていると他の人が踊れなくなるので、来場者にさっさとダンスフロアを返してあげることにする。
なんやかんやと、披露宴もあっという間に終わっていった。
残るは初夜のみである。
メイドさん達にドレスを手際よく剥ぎ取られ、お風呂で全身をくまなく洗われた後に、セクシーな寝間着を着せられ、ティーノの寝室に連行された。
――いよいよだ。
緊張しながらベッドの縁に座っていると、風呂上がりのティーノがのんびりと寝室に入ってきた。
「――やぁ」
「……」
ティーノに薄く笑いかけるけど、言葉は何も出てこなかった。
ティーノが優しく私の隣に座り、布団に入るように促す。
観念して布団に潜り込むと、ティーノもその隣に横になり、私を抱き締めて頬に口付けた。
「緊張してるのかい?」
「――そうね……」
ティーノはもう一度私の頬に口付けすると、耳元で囁いた。
「そんなに殺気立ってたら、丸分かりだよ」
「――!!」
いきなりの言葉に心臓が跳ねる。
「ハハハッ」と心底楽しそうに笑うと、ティーノは強く私を抱き締めた。
「安心していい。結婚式の時も言ったように、私は君が私を心から受け入れてくれるまで何もするつもりはないよ」
「……」
ティーノを睨むが、ティーノは笑みを崩さない。
「これから、何年、何十年一緒にいるんだ。のんびり待ってるよ」
――私が暗殺するかもしれないのに?
口に出さないのに、聞こえていたかのように肩を竦める。
「さぁ、今日は疲れただろう。早く寝よう」
そう言ってティーノは私に腕枕を差し出す。
「……」
「これくらいは、特権として許して欲しい」
「……わかった」
仕方なく、ティーノの腕に頭を乗せると、ティーノは嬉しそうに私に抱きついた。
心臓が早鐘のように鳴る。
――チャンスは、ティーノが寝てからだ。
「あぁ……今日は私の人生で最高の一日だった。ありがとう、茜」
心底幸せそうに呟きながら、私の額にキスをする。
「お休み、茜」
「お休み、ティーノ……」
ふっと微笑みながら、ティーノが私の頭を撫でると、視界が暗転した――。
いつもと違う匂いと、いつもと違う触感に違和感を覚え、意識が覚醒する。
目を閉じていても、部屋が薄明るくなっていることが分かった。
――朝?!
飛び起きると、先に起きていたらしいティーノが私を見て笑っていた。
「よっぽど疲れていたようだね」
その様子に、してやられたことを思い知る。
――失敗した……。
私が下唇を噛んでいると、ティーノは優しく私の髪を撫でた。
「なぁに、これからチャンスは毎晩――いや、何時でもあるさ」
「それ、狙われてる側が言うセリフ?」
「私は全知全能の神だから、何でも分かるし、何でもできる」
「あなたはただの人間だよ」
「それは過去の話。今は人々の祈りによって神になった」
「それは幸せなの……?」
「君が居れば幸せだ」
甘い言葉でティーノは私を誑かす。
――失敗してしまった……。けど、本人も言うように、チャンスはいくらでもある……。
理解していても、焦燥感は消えなかった。
――期限は一ヶ月。
それ以上は、また虐殺が再開してしまう。
結婚式での宣誓や結婚指輪の存在も気になってくるところだ。どんな制約がかかったのか、分かったものじゃない。
「さぁ、君は私を殺せるかな……?」
ティーノが私の髪を指に絡めながら、妖しく笑った。




