二話 介入(4)
島全体が私達を祝福するように、あちこちから恐らく魔法起因の花火が上がり、昼間なのに空を彩っている。
始終ティーノに祈りが捧げられているのか、光の玉がティーノに吸い込まれていく。
ティーノは車で島の上空を一周すると、町に降りた。
エンジンは動いていないのに、普通の車と同等に動くオープンカーはなんだか不思議だった。
あちこちで泣きながら祈りを捧げる住人を、眉を顰めながら見た。
休む暇もないまま披露宴の時間になり、メイド達にされるがまま衣装を変えられ、化粧直しをされ、髪型を変えられる。
衣装替えが終わった私を見るなり、ティーノは微笑んだ。
「とても美しい姿なのに、もうベッドで寝たそうだね」
「うん。もう本当に疲れた。帰って寝たい。今すぐ寝たい。というか、一人になりたい」
「ふふふ、もう少し頑張ってほしい」
そう言ってティーノが私に手を翳すと、どこからか石が鳴くような音が聞こえた後、身体が軽くなった。
「……ありがとう」
「これくらい、簡単なものだよ」
――石はどこに……?
と探してみて、気が付いた。
ティーノの胸元にある。
どうやら、服の下にネックレスとして付けている物があるらしい。
――これか……。
エルザからのリーク情報を、今更ながら確認できた。
「さぁ、披露宴の時間だ。もう少し頑張ってくれたまえ、我が妃」
ティーノが恭しく私に手を差し出す。
「ご褒美、何かほしーな」
「……例えば?」
「うーん……またしばらく清浄化と選別を止めるとか?」
「君は本当にそこに拘るね」
「当たり前でしょ! あなたは人を殺してるんだから!」
「人殺しじゃない、選別だよ」
「選別で弾かれる人は、結果的に死ぬから同じです」
「ふふふ……君には敵わないね」
全くもってそう思っていなさそうに、ティーノは甘く微笑む。
「そうだね……新婚期間として、一ヶ月は中止しよう」
「約束だからね!」
今日の暗殺が成功すれば関係ない話だったけど、念のための保険にはちょうどいい。
「わかった。約束しよう」
そうして、ティーノは再度手を差し出してきた。
その手を握る。
「ひとまず、良しとします」
会場の入り口に立ち、扉が開くのを待つ。
「――聖魔導帝国皇帝アイゼンベルク陛下と、皇妃茜陛下のご入場です」
高らかな宣言と共に扉が開く。
教会より遥かに多い来客が、ホールを埋め尽くしていた。
目をギラギラ輝かせている人から、無表情に私を観察する人間まで、様々な人間が拍手をして私達を出迎える。
楽団の荘厳な音楽に合わせて、二人で階段を降りた。
ふわふわな赤い絨毯で足を踏み外さないか心配したけど、ティーノが支えてくれたのでどうにかなった。
結婚式の時とは異なり、天井から幻想的なオレンジ色の光がホールを緩く照らしている。
シャンデリアの装飾品に光が反射して、とても美しい。
――あぁ、来賓として参加できたら最高だったのに……。
皇帝と皇妃の席に座ると、ティーノが改めて立ち上がり口を開いた。
「まず始めに、魔法帝国を築くという、私の野望に助力してくれる臣民よ。今日という日を迎えられた事に、多大な感謝をする」
低く朗々とした声が、静まり返ったホールによく響いた。
拍手と歓声の後、ティーノが手で示すと、すんとまた静寂が広がる。
皆、ティーノの言葉を一つも残さず聞き取ろうとしているのがよく分かった。
「私が幼き頃に絶たれた大切な人に、再会することができた――正確には、同じ人ではないが、同じ魂である」
ティーノが私に振り向き、手で示す。
「私と再び出会うきっかけを作った、アラン・S・クロウリーに多大な感謝を――」
名前を呼ばれ、手で示されて注目されるクロウリーは、顔を赤らめながらも、とても誇らしげな顔をしていた。
――クロウリーに出会ってなければ、こんな世界は訪れなかったかもしれない。
クロウリーが私と悟の発表を見て興味を持ち、声をかけて来なければ、霊視装置の発明はできなかったのかも――いや、悟とミライがいたから、発明は必然だった。
きっと、いずれ同じ場所にたどり着いていた。
「――今日から約一ヶ月は、妃の戴冠を祝して清浄化の任務を中断する。皆、存分に祝ってくれ」
ティーノが約束を守るために宣言してくれた――そのことに安心して、大きなため息が漏れた。
「私は妃を宝として丁重に接する。皆も同様にすることを心に刻みなさい」
――なんて、恥ずかしいことを宣言するの……!
思わず赤面して俯いてしまう。
「それでは、宴を始めよう――存分に楽しんでくれ」
ティーノがワイングラスを掲げると、楽団の演奏が始まった。
私に寄ってきたティーノが耳元で囁く。
「――さぁ、始まりだよ、茜」




