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二話 介入(3)

「契約の証を交換せよ」


真っ白の服を着た男性と女性が、私とティーノに指輪を差し出す。


真っ赤な指輪置きから、震える手で大きな石が嵌め込まれた指輪を手に取る。


振り返ると、私用の指輪を持ったティーノがニコニコしながら待っていた。


聖歌隊とオルガンの美しいメロディが教会内に響いている。


「――っ」


自分の左手を見る。

そこにはもう、今まで付けていた指輪はない。


涙を堪えながらティーノに左手を差し出すと、ティーノは恭しく私の手に指輪を嵌めた。


――あぁ……。


涙が溢れ出てきた。


悟との結婚式が、頭の中で走馬灯のように駆け巡る。


「――泣いていても美しいね」


そう言ってティーノが私の頬を撫でると、止まらないと思っていた涙が簡単に止まった。


促されるまま、私も指輪をティーノに嵌める。


「――」


二つの指輪に嵌め込まれた石が、共鳴するように紅く光った。


――何か仕掛けが……?


すぐに確認したいところだったけど、残念ながら確認できない。


二人の指輪が交換されたことを確認すると、司祭が恭しく一歩下がった。


「ここに、聖魔導帝国皇帝アイゼンベルク陛下と、皇妃茜殿の魂の契約は成就された」


ティーノに促されるまま、来場者の方に身体を向ける。


振り向いた瞬間、教会内にいた全員が一斉に跪いた。


――あぁ、そうか……。


皇妃になるということは、こういうことなのか……。


これがあるから、椅子の間隔が広かったのか……と妙な納得をしていた。


薄っすらと吐き気がする。


教会内にいる、大勢の来場者が全て私達に頭を垂れている。


――私は、今夜この人達を敵に回す。


上手く逃げ切らなければ、惨たらしく殺されるか、死んだ方がマシな状況になるだろう。

ここから逃げられても、一生逃げ回る生活が始まる。


――死んだ方がマシかもしれない。


「皇妃陛下に祝福を……」


司祭の言葉に合わせ、再び頭上から光が降り注ぐ。


鐘の音が、またどこからか響いてきた。


今度はティーノと向き合い、司祭が恭しく持ってきた昨日のティアラを、ティーノが丁寧に両手で持った。


ティアラの中央にある宝石が、紅くギラギラと光を反射する。


「茜――」


頭を下げろという意味だろう。

私はティアラが載せられるように頭を下げた。


「今日から君は、私の妻であり、この国の皇妃だ。好きなことをするといい」


割れんばかりの拍手が教会に響く。


私はティーノの言葉に、皮肉気な笑みを返した。


――好きなことをしていいのなら、ティーノ、貴方の息の根を止めるね。


私が何を考えているのか、ティーノにはお見通しなのかもしれない。


ティーノは愉快そうな笑みを私に返してきた。


「君は神である私の妻だ。何をしてもいい――出来るものならね」


――挑発?


「それでは、誓いのキスを――」


司祭の声で我に返る。


ティーノが微笑みながら私に一歩近付いた。

ヴェールを上げる。


――全世界放送の公開処刑だわ……。


私達に集中して、辺りが静かになる。


覚悟を決めて瞳を閉じる。


「――」


あちこちから息を飲む音が聞こえる。


柔らかな感触は、唇ではなく、額にきた。


驚いて目を開くと、ティーノが悪戯っぽく耳元で囁く。


「君に心から受け入れられるまで、我慢しておくよ」


我慢できなかったのだろう、信者達が熱狂的な歓声を挙げた。


目の前がチカチカして、よく分からない間に退場になった。


倒れそうになる私をティーノがお姫様抱っこしたことで、歓声が上がる。


意識が朦朧とする中、信者達から大量の花弁と祈りの光を浴びせられたことだけは把握した。


ティーノに抱き抱えられるまま、教会――そして建物を出る。


――城……?


私が出てきたのは、城だった。


以前来た時には存在しなかった、巨大な真っ白な城――これも魔法で造ったのだろう。


大歓声の中、私はオープンカーに乗せられる。


ティーノが運転席に座りハンドルを掴むと、車から巨大な翼が生えた。


ふわりと車が浮き上がり、のんびりと前進を始める。


リン・ゴーン。

リン・ゴーン。


城にある鐘の音が大きく響く。


大きな歓声に下を覗き込むと、島中の人が城の周りに集まって、群衆を作っていた。


島から響く大歓声と、どこまでも見渡せそうな雲ひとつない空を、車はゆったりと飛行する。


「目眩は治ったかい?」

「一応……運んでくれてありがとう」

「それくらいお易い御用さ」


――なんだろう。この結婚式の記事は、私を抱っこするティーノの写真になりそうな予感がする。


羞恥心で顔が熱くなっていると、ティーノが笑いながら声をかけてくる。


「どうだい、この車は?」

「……自分の二回目の結婚式じゃなければ最高かな?」

「ハハハッ! これから、私と結婚して良かったと思ってもらえるように努力するよ」

「清浄化と選別やめてくれたら、好感度かなり上がるよ?」

「それ以外で上げるように努力するさ!」


相当ご機嫌なのだろう、鼻歌を歌うティーノに苦笑いしつつ、空中ドライブを楽しむことにする。


空の向こうに、黒い影が見えた気がしたけど、すぐに見失ってしまった。

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