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二話 介入(2)

結婚式当日。


全て着替え終え、控え室で待機していると、周囲の喧騒が伝わってきた。


じわじわと緊張が湧き上がってくる。


――忘れてたけど、アイゼンベルク狂信者のミラ島の人達は、何らかの方法でほとんど見るよね?


「……今更だけど、本当に結婚式挙げなきゃだめ?」

「緊張してきた?」

「ミラ島の人に中継とかするよね? 凡人の私には、緊張するなと言う方が無理でございます」

「……場数をこなせば、そのうち慣れるさ」

「場数をこなすって……今後も人前に立たなきゃいけないの?」

「そうだよ? 私はこの聖魔導帝国ハイリゲス・マギーライヒの皇帝だからね。妻になる君は皇妃ということになる」

「え……?」


思ってもみなかった言葉に、思わず硬直してしまう。


「言ってなかったかい?」

「……分からない。少なくとも、今は記憶にない……」

「……まぁ、皇妃よ、慣れてくれ」

「うぅ……やっぱり結婚やめていい?」

「もう無理だよ」


ティーノに軽く笑い飛ばされる。


暗殺のための結婚が、予想以上の規模で頭が痛くなってくる。


――なんで誰も教えてくれなかったの?!


エルザを睨むと、エルザはしれっと微笑み返してくる。

その笑みが美しすぎるのが、また憎らしい。


――逃げ出したい……。


教会の大きな扉の前に立ち止まる。

素早く実況中継だろうカメラマンが、私達をカメラに捉える。


――そういえば、もしかしたら、全世界に向けてライブ配信しているかもしれない。


余計に緊張して、ティーノを掴む腕に力が入ると、ティーノが大丈夫と言わんばかりに、脇を少し締めて私に微笑んだ。


――あぁ、こんな光景、家族が見たら裏切られたと悲しむだろうな……。


暗い気持ちになったが、もはやどうしようもない。


私は、私にできることを実行するしかない。


教会の扉が開く。

中にいた大勢の人が、私達に注目した。


パイプオルガンの荘厳なメロディと共に、聖歌隊の美しい歌声が教会内に響く。


「――」

「大丈夫」


尻込みする私をティーノが優しく促し、教会に足を踏み入れると、頭上で光が弾けた。


私達が歩みを進めるごとに、雪のような光の粒子が頭上から舞い落ちてくる。


見蕩れていたであろう幻想的な演出も、自分の結婚式となると、見蕩れる余裕すらないのが悔しい。


起立して私達を見守る人々を横目で伺うと、やはりと言っていいほど、アイゼンベルクを恍惚とした表情で見ている。

人によっては、感動のあまり泣いている。


「……」


一部の人間は、恨めしそうに私を睨んでいる人もいた。


あの視線の持ち主達に席を譲ったら、今度は信者同士で争いが起きそうだ。


結局、清浄化等の選別行為を行ったところで、必ず火種は残る――まぁ、ティーノ本人も、エゴの認識があるのでどうしようもないけど……。


震える身体でゆっくりと歩みを進めていくと、前列の方に見覚えのある面々がいた。


ケラーも、クロウリーも、なんとも恍惚とした表情をしていて気持ち悪い……。

二人だけじゃなくて、研究者のほとんどがそんな感じなので手に負えない。


ただ一人、クロウリーの隣にいる木陰ちゃんのみが、私を痛ましそうな顔で見ていた。


壇上にたどり着いてしまう。


真っ白の祭服に身を包んだ司祭が、静かに両手を広げた。


「聖魔導帝国皇帝、アイゼンベルク陛下。そして、その伴侶となる茜殿」


低く通る声が教会中に響き渡った。


「汝らは本日、魂と魂を結び、永久の契約を交わす」


その言葉に、心臓が嫌な音を立てた。


「病める時も、健やかなる時も。肉体のある時も、肉体が消滅した後も。世界が滅ぶその時まで、互いを伴侶として認め合うか?」


あまりの内容に鳥肌が立った。


ティーノが、私の死後も魂を見つけて捕らえると言っていた内容が反映されていて、心底気持ち悪い。


目眩でバランスを崩しかけると、ティーノが素早く私の腰を支えた。


私に微笑むなり、なんの躊躇いもなく宣誓する。


「誓う」


全く迷いのない声に反応して、頭上が白く光った。

魔法陣でも浮かんでいるのだろう。


信者達が抑えきれなかったのだろう、背後から感嘆の声がいくつも漏れてきた。


――怖い。でも、私も続かないと……。


ティーノが再び私に微笑む。

さぁ、君も、と促すような微笑みに、私は血の気が引いていくのが分かった。


「……誓います」


私のか細い宣誓ですら、教会には響き渡る。


二人の宣誓が完了したからだろう、頭上からティーノの時より遥かに眩い光が降り注いだ。


オルガンの音、聖歌隊の歌声、割れんばかりの拍手が教会内を埋め尽くす。


どこからか鐘の音が響き、世界に祝福された結婚のように思えた。


ティーノは私を見つめ、これ以上にないほどの笑みを浮かべる。


――どうしよう。


焦燥感で手が震えてくる。


――宣誓したせいで、ティーノを殺せないようになってしまっていたら、取り返しがつかない……。


上を見上げる。


私達を祝福するように光の粒子を撒き散らす魔法陣が、頭上で煌々と光を放っていた。

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