一話 成功(4)
「アウスゲツァイヒネット!」
アイゼンベルクさんが霊視装置のプロトタイプのデモを見た瞬間、興奮しながら言った。
通訳もなく、私が目を白黒させていると、ミライが小声で「実に素晴らしいってさ」と教えてくれた。
――何語だったんだろう?
そう思いながらも、霊視装置を興味津々で触りまくるアイゼンベルクさん達を見守る。
皆があまりにも興奮しているので、苦笑いしてしまう。
――いや、アイゼンベルクさんにとっては悲願だったのか……?
「(素晴らしい、素晴らしいです。日本の霊的存在が見えるなんて……!)」
空の白いモヤをフィルタリングすると、呆気ないほど簡単に白龍が観測できるようになった。
近所の神様がいる神社でも安定して映せるようになったので、クロウリーさんに報告すると、その四日後にアイゼンベルクさんが来日した。急な訪れに私たちは踊るように焦ったが、何とかデモの準備は間に合ったので結果オーライだ。
「(石以外でも確認できるものは何かありますか?)」
瞳をキラキラ輝かせながらアイゼンベルクさんが振り向く。正直、彼が20代程度の若者の姿をしているのは、いまだに強い違和感がある。
「えーっと……」
あたりを見回す。アイゼンベルクさんに付いてきた同年代くらいのボディガードの男性が目に入る。
「ボディガードさん、昔猫を飼っていましたか?」
「What?」
突然話しかけられ、男性は困惑する。通訳が訳すと、驚いた顔をした。
「シャム猫があなたの足元にいます。親しそうに、あなたの足にお尻を乗せて座っています」
「(――それは、レオの習慣でした……。レオが傍にいてくれたなんて……)」
よほど嬉しかったのだろう。男性はサングラスを上げ、目元を拭った。
そっとボディガードの足元を映すと、白いモヤが映り込む。左足の上に乗っている様子がしっかり描写され、しっぽが右足に添えられているのも分かる。
男性が「Leo……」と呟き、画面と足元を交互に見ながら涙を流して微笑む。
「(素晴らしい、素晴らしいですね!)」
そしてアイゼンベルクさんがこちらを振り向く。
「(こちらの実機の購入は可能でしょうか?)」
――やっぱりきたね。
私たち三人は視線を合わせる。悟が貼り付けたような笑顔で言う。私の脳内では何故かテレビショッピングのような光景が広がっていたが、実際の悟は至って普段通りだ。
「まだ販売できるクオリティではありませんが、もう一台同じものを作っているので、どうぞお持ち帰りください」
「(それは素晴らしい! いくら必要ですか?)」
「今まで支援していただいた分もありますし、クラゲ侵攻時に避難させていただいています。何よりこれはプロトタイプのデモ機なので、お金はいただくつもりはありません」
「(いえ、それは私の信条に反します――では、試作機ということで、100万ドルとしましょう)」
「それは……ありがとうございます――」
相変わらずの太っ腹ぶりに三人で慌てて頭を下げると、ミライと悟は急いでもう一台の試作機を取りに行った。
「(まさか今日手に入るとは思いませんでした)」
ニコニコと笑むアイゼンベルクさんに、少し背筋が寒くなる。
「設計書や研究資料も一緒にお渡しするので、そちらでの研究にもお使いください」
「それはこちらとしてはありがたいですが、茜さん達が不利になりませんか?」
クロウリーさんが無表情のまま、わずかに眉をひそめて言う。
「大丈夫です。私はもう完成させてかなり満足してしまっているので、そちらで発展させていただけるなら嬉しいです」
「それは困ります。私たちはあなた達に注目していますので」
「それは嬉しいですが……」
――私たちとしては、あなた方と一刻も早く縁を切りたいわけでして……。
設計書や研究資料を渡せばお役御免になるかと少し期待していたが、残念ながら逃がしてはもらえないらしい。
――研究を放棄したところで、あの手この手で拉致されて続けさせられる気しかしない……。
そっと視線を逸らすと、悟たちが戻ってきた。段ボールと霊視装置の本体をテーブルに置く。
「お待たせしました。こちらが同じ霊視装置です」
「(素晴らしい……実は一つお願いがありまして)」
「なんでしょう?」
思わず身構えたが、返ってきたのは拍子抜けする内容だった。
「(こちらの試作機の動作確認も兼ねて、近所の情報構造体が確認できる神社に連れて行ってほしいのです)」




