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第2部 神の喪失  作者: 小島もりたか
1章 霊視装置
4/18

一話 成功(3)

「ドキドキする……」


悟が珍しく頬を紅潮させながら言った。

年甲斐もなくソワソワしていて、ミライも面白そうに悟を見つめている。


「じゃあ、起動するねー」

「お願いします」


ディスプレイに映し出された悟の後ろに、しっかりと白いモヤが二つ立っていた。


「おじーちゃん、おばーちゃん……?」


悟の背後にいる悟の祖父母と視線が合う。

ポロポロと泣き出した悟の頭を二人が撫でる姿は、悟の頭をモヤが覆う形で表現された。


――やっと、会えたね。


約三十年越しの悟の願いが叶えられた瞬間だった。

嬉しくて、私も視界が歪む。


「今ね、悟の頭を撫でてくれてるんだよ」

「そうなんだ……」


涙をポロポロ流しながらも、悟は

「この表現は撫でてるのを表してるんだね」

なんて言うので、思わず笑ってしまう。


霊視装置のプロトタイプ完成から数日。

悟の祖父母が二人揃って現れるのを待っていたので、悟に見せるのが少し遅れてしまったけど、喜んでもらえて良かったと胸を撫で下ろす。


「――もう少し、人相とかも表現できたらよかったんだけどなぁ……」

「そこは僕の解析や、人の認識に誤差があるから、現時点では無理だねぇ……。伸び代に期待?」

「はははっ、そうだね。そうだよね」


「ありがとう、ミライ」


悟はそう言って、ミライの頭をグリグリ撫でた。


悟の祖父母は、初めて悟と会った日から今でもずっと、悟の守護霊として悟を見守りながら護っている。

慈愛に満ちた目で悟を見る姿は、あの日からずっと変わらない。


その姿をちゃんと見せてあげられないのは残念ではあるが、まだ白いモヤでも見せてあげられるようになったのは、大きな一歩だろう。




研究所でお披露目兼、河井のチェックをしてもらった後に、私たちは始まりの場所――江島神社に向かった。


故郷に帰ると、毎度お姉ちゃん家族が、実家で暮らす本当の姉家族のように接してくれるのが、こそばゆい気持ちになる。


「お帰りー。とうとう完成したんだって? あ、この大きい箱? 凄いねー」


歓待もそこそこに、日が暮れる前にお姉ちゃん達にプロトタイプのお披露目をする。

研究所関係者以外でのお披露目は、これが初めてだった。


「おぉー!! 凄いー!!」

「茜姉ちゃん達、本当に作ったの?! ヤバくね?!」

「さぁさぁ、じゃあ映すよー!!」


早速、江島神社の空をカメラで映す。


「……?」

「白ーい!」

「……バグ?」

「真っ白?」

「お母さん、これ失敗?」

「え、何これ??」


ディスプレイに映ったのは、本殿の屋根と、真っ白な空だった。

雲も映っているはずなのに、青空の部分がすべて白で表現されているため、雲も判別がつかない。


ディスプレイの白は、ノイズのように細かく揺らいでいた。

まるで、数え切れないほどの何かが空を埋め尽くしているみたいに。


何となく、処理装置の本体をパシパシ叩いて直らないか確認してしまう。


「茜、たぶん叩いても直らないから」

「なんで? 今までこんなのなかったよね?」

「お母さん、地味に空の方映したことなかったんじゃない?」

「言われてみれば……そうだけど……。なんで? 私の目には何も映ってないのに?」


お姉ちゃんもおばさんも康生くんも空を見上げてから頷く。

三人とも、空には白龍と青空と雲程度しか見えないのだろう。


悟が顎に手を添えながら、仮説を立てる。


「もしかしたら、霊視能力者ですら、ノイズとして視えないようフィルタリングされている情報構造体が、空にはあるのかもしれない。それを霊視装置は拾って出力している」


「確かに、その可能性はあるにはあるのかも……?」


私は朋里の出産の時に臨死体験をしているが、その時に魂が空に昇っていくのを見ている。


――空に、輪廻転生の仕組みがある可能性……?


――もしくは、誕生待ちの魂の待機場所?


地球上には想像を超える生物が生きている。

つまり、その分だけ魂もある。


――空が真っ白に見えるくらい、空に魂が滞留していても、おかしくないのでは……?


いや、でもクラゲの大量殺戮のせいで、魂自体は減っていそう。


「……地球の周りを、死んだ魂達が浮遊して包んでいる可能性か……」

「それは有り得るね。前世の記憶がある人がいる以上、情報構造体は再利用されている可能性が高い」

「お母さんの臨死体験の話とも繋がるね」

「……つまり、死んだ人の魂が空にいっぱいいるってこと?」


お姉ちゃんの言葉に、私たち開発メンバー三人は頷く。


「私たち霊視者ですら、全部処理すると脳への負荷が高くなるから、視ないようにしているんだと思う」


なるほど……と大人連中が納得していると、幸成さんがポツリとこぼす。


「――つまり今日、神社の白龍様は見えないってことか……」


「あ」


ディスプレイを改めて覗く。


白いモヤとして表示されるはずの白龍は、空の白と一体化して、まったく認識できなかった。


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