二話 魔法国家(11)
「パワーストーンの情報構造体を書き換えるのか……凄いな」
村瀬が呟く。
「理論的にはそれでいけるはずなんだけど、問題は書き換え方法で、今のところ魔法装置の出力先をパワーストーンにして範囲書き換えが一番早いかなって思ってる」
「それって、パワーストーン以外の情報構造体は大丈夫?」
ツバサちゃんの心配に僕は頷く。
「それがリスクの一つかな。装置の出力方法次第だとは思ってる」
「――で、出力先の指定方法に、内部にセットするパワーストーンを使うんだな」
「そう」と言ってから、僕はテーブルに置いてある魔法装置に設定をする。開始ボタンを押すと、空気が重くなった気がした。そして、テーブルにそのまま置いてあったパワーストーンが共振するように小刻みに震えた後――動かなくなった。
MRグラスをかけていた河井が頬を紅潮させる。
「――凄い、情報構造体が書き変わった!!」
僕は小さくガッツポーズする。
「すげぇ!」と喜ぶ村瀬を横目に、書き変わったというパワーストーンを握り、祈る。
「――何も起きない、成功だよ! やりやがったよ、一発で!」
「良かった……」
「これで対抗策が増えたな!」
「うん」
「……魔法で魔法の元を破壊するか――面白いな」
「後はこれをどう活かしていくかが問題だね。どうやって連中を無力化するか――そこが肝心だ」
スネイプさんが深く頷く。
「今は魔法装置でやったけど、生命体では無効化できないの?」
「それは何度もミライと茜が試したみたいなんだけど、祈りの出力が足りないみたい」
「なるほど……魔法装置だと機械的に高出力の情報構造体を再生できるからか……」
「そう、もはや魔法装置は下手な生命体の祈りより純度が高い」
魔法装置のシステムは、単純化すると、開始命令以外は同じ内容の思考を一秒間で一万回繰り返している。質より量――回数で勝負する圧倒的ゴリ押しだ。
MRグラスを通して見ると、凄まじい勢いで中心部に光が生成される様子が分かる。
「後は、いかに連中を無力化範囲に集めて実行できるかが大事になってくるのかな?」
「初見殺しにしないと、装置を破壊されたら終わるな」
「MRグラスが無ければ、装置も隠しやすいんじゃない?」
「――まずは、相手方のMRグラスを無効化した方がいいな」
「無効化より、誤情報を見せるようにした方が混乱していいんじゃない?」
「一理あるな」
作戦会議はほぼ徹夜になった。
翌日も普通に仕事があり、皆ぼんやりした頭で出勤する。
昨日だけで、アメリカの選別はほぼ終わったらしい。
罪がない、心が清らかな人間だけを残していったら、クラゲ侵攻後の約一割の人口しか残らなかった――とアイゼンベルクはLIVE映像で報告していたらしい。
「次はヨーロッパのようですよ」
佐々木さんがソワソワしながら、教えてくれた。
怖がりだからこそ、恐怖の情報から目が離せなくなる様は不便だな、と思ってしまう。
「クラゲに襲われた後じゃなかったら、一日で終わらなかっただろうに……」
「人口が桁違いですもんね……軍事力も落ちてるでしょうが、魔法の前には無力でしょうし……」
僕の呟きに山下さんが頷く。
「アイゼンベルク氏は運まで味方につけてるな」
「ほぼ、生き神の状態ですからね……」
「島の人の信仰が……いつからこんな計画を練っていたんだろうなぁ……」
山下さんが感心したように顎を撫でた。
――たぶん、諦めていた。けど、村瀬とツバサちゃんによる遺伝子技術と、霊視装置の偶発的な完成で間に合ってしまった……。
「これが運命ってやつなのかもしれませんね……」
小林さんの苦々しい呟きが、僕の思考と被って驚く。
「こんな運命、嫌ですけどね……人を選別と言って虐殺して回らなきゃいけないなんて」
「虐殺じゃない――ある意味救済なんじゃないか?」
「救済? どこが?」
山下さんの指摘に笑ってしまう。
「殺して魂を肉体から解放してあげるのが救済というのなら、魂そのものを消滅させて転生させなくしたクラゲの方がよっぽど救済ですよ!」
「それは……」
「結局、生きることはエゴでしかない。子どもを持つのもエゴ、動物を飼うこともエゴです――ただ、自分のエゴで関係のない他人を巻き込むのは間違ってる……そう思います」
僕の言葉に山下さんは暗い視線を返してくる。
「じゃあ、君はエゴで霊視装置を作って宗教改革を起こしてしまったのは間違ってるんじゃないか?」
「何を言ってるんですか、僕自身は宗教改革をしてません。霊視装置を作っただけです。宗教改革を起こしたのは他の人達です」
僕の開き直りに山下さんは剣幕を変えたが、何かを言う前に口を閉じた。
山下さんが由香里さんを作る時からまた変わってしまった気がする。以前はそんな考えなんてするタイプではなかったはずだ。
「まぁまぁ、二人ともそんなに熱くならないで」
小林さんと鈴木さんが取り成すように間に入ってくれたけど、僕は山下さんの虐殺が救済という話には賛同する気には一切なれなかった。
――例え本人が死を望んだとしても、死そのものが救済になってはいけない。
僕は画面に映るアイゼンベルクを睨んだ。
――それは、環境が間違ってるだけなはずだ……そうでなければ、ハナが救われない。
アイゼンベルクと目が合う。
勝ち誇った様な瞳が忌々しく笑っていた。




