二話 魔法国家(10)
『選別』という名の大量虐殺の魔の手が日本にも近付いているが、誰かからの指示がない限り、僕ら雇われ人が出来ることはいつもと変わらない。
結局、僕らはあの虐殺映像を見た後もいつも通りの仕事をして退社した。
村瀬と河井が始終そわそわしていたけど、どこで情報が漏れるか分からない以上、何も言うなと制した。
帰宅するとそのまま茜とミライがいる地下シェルターに、村瀬とツバサちゃん、ウルフ君、河井とスネイプさんを伴って入っていく。
「お帰りー」
「ただいま、ごめんだけど、今日は外してもらっていい?」
「? わかった、じゃあ晩ご飯の支度でもしてるね」
「ありがとう」
ミライが僕と目を合わせてきて、一つ頷く。
――ありがとう、頼んだミライ。
茜とミライが地上に戻ってから、今日の話と今後についての相談を始めることにする。
「――間に合わなかったな」
村瀬が頭を掻きながら絞り出した。
皆が頷く。
「仕方ない。こっちは就業後に秘密裏に進めてたし、一ヶ月しかなかった」
「茜には絶対、言ったらだめだからね。注意してね」
「分かってる――今後どうする?」
「一応、発動はする様になったけど、今度は量産が問題ね……」
ツバサちゃんが試作機をテーブルに置いた。
正方形の箱の真ん中に蓋付きの穴が空いており、蓋を開けるとパワーストーンが一つ入れられている。
下の方にはプラグがあり、パソコンと接続されている。パソコンのアプリで操作する仕組みだ。
「とりあえず、簡単な魔法は再現できた……利用方法的にはバリアみたいなのが使いやすいかな?」
ウルフくんが機体を撫でながら言う。
ちなみに、ウルフくんも、ツバサちゃんも、スネイプさんも、魔法は使えた。
「生命体のように、即時性の求められる魔法は難しいだろう。ミサイルのような固定砲台としては見込みがある」
スネイプさんの言葉に僕は頷く。
「イメージ的には、魔法陣みたいな、発動までに時間がかかるものって感じかな」
「うわ……ファンタジー」
「本当にファンタジーだよな……」
「……」
ファンタジー出身のツバサちゃんとウルフ君は苦笑いしているのが、少しおかしかった。
「とりあえず、何個か作ったら、守山家の守備に使おうぜ」
「賛成」
皆一様に頷いてくれるので思わず顔が緩んでしまう。
「ありがとう」
「量産体制なんだけど、一個あたりの費用と製作日数、人員と必要環境と必要物資が知りたい」
「入れ物とかでコストを抑えれば、一個あたり一万いかないんじゃないかな? メインの人工脳は私たちが量産できるから……でも、製作日数が問題で、一人で組み立てると二十時間稼働で一個あたり五日はかかるかな……並行して作ると五個」
大体想定通りの回答に頷く。
「人員は私たち三人で回すようにするけど、作る場所はここで十分作れるから、ここでいい?」
「わかった、庭から入れるようにしておくね」
「必要物はまたリスト化して渡しますね」
「ありがとう」
「現状、五個の試作機しかないが、どのように使う? 一つは守山家、だが残り四個は?」
「一つは研究用にして、残りは村瀬の研究室、村瀬の自宅、河井の自宅にしておこう」
「え、でも……」
遠慮しようとする河井を手で制す。
「皆で開発したんだから、最低限は分配すべきだ」
「ありがとう――やっぱり悟のそういう平等な所、尊敬するわ」
「リスクの分散だよ」
僕が笑うと、村瀬も河井も笑った。
「さて、量産はツバサちゃん達にお願いするとして、今後の方針について話そう」
「茜ちゃんは、あのアイゼンベルクを止めたいんだよな? もう始まっちゃったけど」
河井の言葉に苦笑いしてしまう。
「そう――でも、被害の拡大は防げる」
「今からあの島規模の魔法使い軍団に対抗出来る方法って、魔法装置以外に何がある? まだ魔法装置は量産始めれてないじゃん……」
「こちらが増やせないなら、あっちを減らせばいい」
「減らす? どうやって??」
「魔法にはパワーストーンが必要じゃない?」
「あ……」
河井と村瀬がテーブルにいくつか並べられた石を見る。
「パワーストーンを無効化するって……どうやって……?」
「ミライと茜が調べてくれてた」
そう伝えて、受け取っていた資料を皆に手渡す。
「パワーストーン無効化以外にも、祈りの邪魔をする方法もある――無効化については、まだリスクは分析してない。これから分析しないといけない」
――まぁ、分析したところで、リスクを飲み込むしかなくなるだろうけど……。
皆が興味深そうに資料を読み込み始める。
「ただ、どちらにせよ、魔法装置が欲しい。大量ではなく、数個だけど――数個ならどれくらいでできそう?」
「今と同じでいいなら、作りかけもあるし、明日には二つできるよ」
「じゃあ、改良なしの今と同じものを五個作って」
「わかった。終わったら作り始めるね」
「ありがとう」
静かに紙を捲る音だけが室内で響く。
「やっぱ守山家はやべぇな」という村瀬の呟きに少し苦笑いしてしまった。




