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二話 魔法国家(9)

その日は突然訪れた。


「――あれ?」


スマートフォン、パソコンのディスプレイ、テレビ、果てにはMRグラスにまで――あらゆる画面が一斉に白を映し、その後アイゼンベルクが映し出された。


皆が混乱する中、画面のアイゼンベルクだけは不敵に笑う。


『私の名はコンスタンティン・フォン・アイゼンベルク』


『聞け、人の子らよ』


『神は既に人の手に堕ちた』


『ならば、新たな神は誰か――答えは明白だ』


『本日をもって、魔法国家の誕生を宣言する』


『罪がある者は、神の力をもって裁きを』


『罪なき者には、新たな世界を与えよう』


『まず一つ、罪の清算を始めよう』


『新たな世界の幕開けを、心待ちにするといい』


言うだけ言うと、画面は元の内容を映し出した。


「なんだこれは……?」

「アイゼンベルクって、悟くん達がお世話になったアイゼンベルクさん?」

「いや、あの人は結構な高齢だったはずだろ?」

「最後に会った時は若返ってた……」


研究室内もざわざわと騒めく。

村瀬達と視線が合った――頷き合う。


――やっぱり間に合わなかったか……。


魔法出力装置はまだ試作機の段階で、量産体制に入っていない。

できればアイゼンベルクが行動に移す前に計画を潰しておきたかったけど、準備期間が違いすぎた。


SNSをチェックすると、先程のメディアジャックはやはり世界的なものだったようで、SNS上も騒然としていた。


――日本語を喋ってたけど、どういう原理だ? 他国語も対応……?


もはや魔法でなんでもありなので、その辺も対応しているのだろう。考えるのも馬鹿らしくなる。


「え――もう始まってる……?」


佐々木さんが汗をハンカチで拭きながら呟く。


「え? 始まってるって……罪の清算? が?」

「みたいですよ、動画サイトでLIVE映像が公開されています」


山下さんと佐々木さんの会話を聞いて、僕も佐々木さんの席に駆け寄った。


それはまるで映画のワンシーンのような光景だった。


「――ホワイトハウス?」


光の翼を生やしたアイゼンベルクがホワイトハウスの上空を歩いている。

連れ立って歩いている人々も皆翼を生やしているが、どれもアイゼンベルクほどの大きさはない。


地上にいるホワイトハウスの警備隊が何事かを喚いた後、銃口を向ける。


一斉に複数の銃弾が放たれる――が、どれも彼らの手前の空間で止まり――下に落ちていった。


唖然とする警備隊を嘲笑いつつ、アイゼンベルクはホワイトハウスを指さす。


『――』


声は聞き取れない。ただ意味は分かった――連れ立っていた者たちが一斉に祈りを始めた。


ズドーーン!!


ホワイトハウスが一瞬で吹き飛び、瓦礫になった。


警備隊が呆気にとられる中、アイゼンベルクは今度は警備隊に指をさす。


『――』


また取り巻きが祈る。


警備隊が苦しそうに泡を吹きながら倒れた。


アイゼンベルクは優雅にカメラに近づき宣言する。


『――『選別』を開始する』


「――虐殺じゃないか……」


静かな研究室にポツリと山下さんの呟きが落ちた。


そう、これは選別という名の大量虐殺だ。


――これは、茜に教えたらダメだ。


――こんなものを見せたら、壊れる。


急いで自宅で茜の護衛をしているミライに連絡を入れる――茜に世界の状況を伝えてはいけないと。


――ただでさえ、この一ヶ月間、あちらに対して直接的な説得ができていない状況だった。


こんなのを茜が知ってしまったら、良くなってきていた鬱がぶり返す。しかも、今回は大量虐殺だ。自責の念で自殺しかねない。


「――もう無理……!」


佐々木さんが耐えかねて画面を閉じた。


「アイゼンベルクさんが……霊視装置はこれに利用するために悟くん達に作らせていたのか……?」


そう、面倒なことに、アイゼンベルクは僕らが開発した霊視装置――MRグラスをがっつり装着している。


「そのようです……」


深い溜息が漏れた。


「まぁ、今となっては、当たり前につけてる人もいるけど……良くない方向に向かわないといいけど……」

「はい……すみません……」


宗教革命までは予想できたけど、流石に魔法が確立して虐殺が起きるまでは予想できなかった。


これは茜のせいではなく、僕が世界にばら撒いてしまった『目』だ。


小林さんが僕の肩を叩く。


「悟くんまで思い詰めないようにね。悪いのは悪用したアイゼンベルク氏だよ」


肩に乗せられた手の温かみが、荒もうとしていた心を鎮めていく。


「すみません、ありがとうございます……」


本当はそれだけじゃないんです。

とは、とてもじゃないけど言えなかった。


村瀬と河井が僕を励ますように頷いてくれたのが、少し嬉しかった。

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