二話 魔法国家(8)
「それで、また本題に戻るんだけど、この魔法を使って、世界征服が始まるってことは伝わりましたか?」
「見せられた上に、自分でも使えてしまったのなら、認めるしかないな……」
「っていうか、世界征服??」
「うん――しかも、その悪の親玉が、茜を狙ってる」
「なんで?」
キョトンとする康正君の反応は凄く真っ当だよなぁ、としみじみと思った。
「茜の前前世の友達だったんだ」
「ふえー。凄い……」
「なんというか……凄い縁だね」
「そうなんです。しかも、茜はそれを止めたいって言ってるんです」
幸成さんが乾いた笑い声を上げた。
「まーた、無茶なことを!」
「そうなんですよ……できる限り、僕とミライも協力してあげたいんですけど、いかんせん相手は千人規模の魔法使い……味方を増やしたい」
「それで、康正の信奉者を候補にしたんだなー。納得」
「話を聞いて、候補から外れましたけどね」
「そうだな。ただ康正を頼ってるだけだからなぁ……」
「ですよねぇ……」
僕と幸成さんが頷きあっていると、康正君がSNSを見せてくる。
「フォロワー自体は一万人いるんだけどね……」
「それは、それで凄いね」
「降霊術師として頼られてるからね」
えっへんと康正君は胸を張るが、お姉ちゃんからの視線は冷たい。
「とりあえず、康正君の繋がりは外す」
「他にアテはあるの?」
お姉ちゃんの言葉に、僕は渋い顔をする。
「とりあえず、今、媒体としてのパワーストーンはできる限り集めてる。けど、悩んでる」
――護身として、魔法の使い方を広めたいところだけど、諸刃の剣だからなぁ……。
法律的には霊視装置の普及を機に整えられたものに乗せればいいけど、犯罪のしやすさも格段に上がる。
お姉ちゃんが口を開く。
「政府に伝えて保護を求めるのはダメなの?」
「魔法の使い方を教えたところで、個人を護ってくれるとは限らない。しかも、どこにアイゼンベルクの手下が紛れ込んでいるか分かったものじゃない」
「機械的生命体の開発チームは?」
「チームには教える。けど、職場全体には教えない。理由は同じ」
「機械的生命体は魔法を使えないの?」
「使える。けど、戦力のためだけに、新しい命を創るのは論理的に間違ってる――あ」
一つ閃く。
――魔法に必要な祈りは感情だけど、魔法は『情報構造体』がトリガーだ。……それなら、情報構造体を生み出す機械は作れないだろうか?
情報構造体は脳内のシナプスの電気信号のパターンの位相だ。
そう、結局はパターンなのだ。
――今の技術なら、作れるかもしれない……。
ゴクリと唾液を飲み込む。
視界が開けた気がした。
「お姉ちゃん、康正君、幸成さんは、信用できる人に護身用として魔法の使い方を秘密裏に教えていってほしい。あと、パワーストーンもできるだけ集めてほしい。お金は置いていくから、これを足しに使って」
とりあえず引き出してきた百万円が入った封筒を渡すと、お姉ちゃんは明らかに狼狽えた。
「いや、こんなに受け取れないよ……」
「余ったら返してくれたらいいよ。茜を護るためだから、これくらい安い」
「ヒュー、かっこいい」
「淑華、今はそういうのいいから」
「……はい」
「とりあえず、何か閃いてそうだね」
「はい。急で申し訳ないですが、もう帰って検証を始めたいと思います」
「分かった。こっちもできる限り協力するから、また何かあったら言ってほしい」
「ありがとうございます!」
そして僕はそのままバタバタと帰路に着いた。
帰宅するなり、ミライに「早かったね」と驚かれた。
「康正君のツテはダメだった。代わりに人工的に魔法を使えるロボットを作成しようと思う」
「は?」というミライに概要を伝えると、「なるほど」と納得してくれた。
「村瀬兄ちゃんに協力してもらった方がいいんじゃない?」
「そうだね。村瀬と、河井にも言おう。他のメンバーは一旦保留で」
「分かった」
バタバタとミライと準備を整える。
パワーストーンも購入しなければと思っていたけど、ミライが自動で購入してくれるBotを作成してくれていた――非常に助かる。
翌日、村瀬と河井に魔法を見せて説明すると、二人とも中二心が疼いたのか、目をキラキラ輝かせていた。
そして、試作機は約一ヶ月後には完成した。
――人間じゃなくても、戦力は作れる。
機械的生命体や霊視装置の時のように、僕はまた人類を戻れない場所に一歩踏み込ませてしまった自覚はあったけど、そんなもの、茜を護るためならどうでもよかった。
――茜が笑っていてくれるのなら、そんなものどうでもいい。




