二話 魔法国家(4)
「ちょっと爆弾発言が混ざってたせいで忘れてたけど、アイゼンベルクは魔法国家を作るって目的は一応分かったね」
「どう滅ぼそうか考えないとね」
「お父さん、落ち着いて。そもそもまだ出来てもないよ?」
「僕らから茜を奪おうとするとは……許すまじ……」
「それは、うん……でも、お父さん落ち着いて?」
真っ赤に染まりつつある視界だったが、ミライがコーヒーを無理やり飲ませてきたことで少し落ち着いた。
「はぁ……ティーノぉ……何してるのぉ……」
机に突っ伏して頭をぽりぽり掻き始める茜。
「お母さんは鬱がまた酷くなるとダメだから、一回朝ごはん食べてこようか?」
「ついでに薬も飲んで、シャワーも浴びてさっぱりしておいで」
「うぅ……はい……」
茜はとぼとぼと寝室を出ていった。
「さて、どうしたらアイゼンベルクを潰せるかな?」
「……お父さん?」
ジロリとミライに睨まれるが、僕は至って本気だった。
「これは男と男の闘いだ……」
「世界を巻き込まないでくれる?」
「あっちが勝手に世界を巻き込んだんだろ?」
「……まぁ、そうだけど……」
そもそも、病気で芳しくないと伝えたばかりなのに、それを狙ってやってくる根性が許せない。
――また悪化したらどうしてくれるんだ?
気が付けば、貧乏ゆすりをしていた――いけない、いけない、茜に怒られる。
「そもそも、本当に茜――ハナを慮るなら、鬱の時点で無理をさせちゃだめなのに、負荷をかけるようなことばかりさせている。その時点でナシだ」
僕の気持ち的には、本当に、本心から、茜がアイゼンベルク――いや、ティーノと言った方がいいだろうか、いや、ティーノだけではなく、茜を幸せにできる人のところに行きたいというのなら、血涙を流しながら見送る覚悟はある。
それが人を愛するということだと、僕は思っている。
――でも、あいつにはその覚悟はないように思える。
だから腹が立つ。
本当に、心から、誰かの幸せを願うのなら、もっと違う行動をするはずだ。
――いや、だからこそ『暴走』と言えるのかもしれない……。
ふぅと深く息を吐く。
「お父さん、本当に、お母さんが好きだよね……」
「うん。世界一好きな自信がある――異常なのも自覚はある。けど、やめるつもりはないよ」
「もう……」
呆れながらもミライの顔は少し笑っている。
「それで、お父さんはどうするつもり?」
ミライの言葉に僕は腕を組む。
「そんな一朝一夕で決められないよ。何せ相手は巨大権力だ。僕みたいな小さな民間人が敵対したら一発で潰されて終わりになる」
「まぁ、そうだけど……お父さんならもう何か考えてそうだったからさ」
「いや、今回ばかりは流石にねぇ……相手が悪い」
「パワーストーンを全部破壊できたらいいんだけどね……」
「ダメ元でパワーストーンにお願いしてもいいかもね」
「やってみよ」とミライはのそのそとパワーストーンに祈る。
「……お母さんいないから、起動したかすら分からないね」
「まぁ、どうせ無理筋なんだからいいんじゃない? また茜がいる時にやってみよう」
そういえば、と思いミライから石を受け取る。
「どうしたの?」
「僕でも魔法が使えるかなって思って」
「あー、確かに。試してみた方がいいね」
「現状定義が、祈りの対象の指定だったね……」
「そうそう」
片手に石を握り込み、目を閉じる。
――僕は守山悟
――イザナミの御身を焼き、なお力として生まれし神・火之迦具土よ
――その燃え盛る力を、この手に顕現させてください
――お願いします
茜の真似をして左手をかざしてみると、紅の炎が音もなく手のひらの上に灯った。燃えているはずなのに、手のひらの上にあるせいで現実感が薄い。
「す……凄い……」
「これは……前のやり方よりやりやすいかも」
「え? そうなの? 魔法なのに?」
「――うん。祈りの対象が明確化される分、情報としてまとまりやすいのかもしれない」
「なるほど」と言いつつ、ミライは炎に手をかざしだす。不思議そうに「熱くないね」と指を突っ込んできたので、慌てて握って消した。
――なるほど、熱い炎をイメージしてなかったから、熱くない炎になったのか。
「――今までの分析だと、石の起動条件は『自己定義、現状定義、依頼、開始命令』だったけど、この感じだと『命令者、実行者、実行内容、開始命令』の方が近い気がするな……」
「なんか、プログラム感があるね」
「まぁ、物理法則もプログラムに近いからね。石の起動方法もプログラムっぽくなるのは理にかなってるよ」
「魔法っていう、最高のファンタジーなのに……」
「なんというか、パソコン上じゃなくて、現実空間に関数を作って実行させてる気分?」
「お父さん、神様を呼んで魔法っていうより……システム叩いてる感出てきてるから……」
ミライのボヤキに、僕は苦笑いしてしまう。
僕が子どもの頃にこれに出会っていたら、それはもう目をキラキラさせながら色々と調べていただろう。
――アイゼンベルクはこれに小さい頃に出会ったのか……。
それは価値観が変わってしまっても仕方ないのかもしれない――と少し同情してしまった。
だけど、
本当にこんな夢のような力で、今の社会構造を壊す気なのか? ティーノ……?




