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二話 魔法国家(2)

――これは、前前世のハナだ。


直感的にそう判断する。


「――っ」


茜の顔が酷く引き攣る。刺激しないように、なるべくゆっくり動く。


「――茜。君は今、守山茜だ」

「あかね――?」


僕と目が合った。困惑して揺れる瞳に、そっと鏡を差し出す――懐かしい。茜が前世を探っていた頃に、時々やっていた定型行動だ。


ミライが、ずっと困惑したように僕たちのやり取りを見ているのが少しおかしかった。


茜は僕から鏡を受け取ると、じっと自分の顔を見つめ――そして、溜め息を吐いた。


「そうだ、私は今、守山茜――ごめん、悟、ミライ。記憶が混ざってた」

「大丈夫だよ」

「僕はめちゃくちゃビックリしたけどね」

「ごめんね、ミライ……」


茜がミライの頭を撫でると、ミライはぷいっとそっぽを向いた。少し拗ねているらしい。


「ずっと寝てたのは、ハナの記憶を見てたから?」

「そうなの――やっぱり、私の前前世はティーノ……いや、アイゼンベルクと深い関わりがあったみたい」

「昔のアイゼンベルクはどんな人だったの?」

「……坊ちゃん?」


少し楽しげに微笑む茜に、僕は少しばかり嫉妬してしまう。


茜にそんな表情をさせる人物は全て嫉妬の対象だけど、そんなことを茜に言うとドン引きされるだけなので、そっと心の内にしまっておく。


「あと、パワーストーンの使い方について、よく分かった……」


そう言って寝室に一つだけ置いてあった、アイゼンベルクからの借り物のパワーストーンを、茜は手に握って祈ると――手の上に青い炎を出した。


「うわぁ……」

「完璧にマスターしてそうだね」

「うん。もう完璧に使えると思う」


少しドヤ顔で話す茜が可愛い。


茜は青い炎を握って消すと、懐かしそうに、だけど少し泣きそうに微笑んだ。


「魔法を使うための方法とかあるの?」


ミライの問いかけに、茜は頷く。


「石の起動方法は、自己定義、現状定義、依頼、開始命令って伝えていたのは覚えてる?」

「うん、そこは大丈夫」

「そこの現状定義の部分が少し違うの。今までは漠然と神様に感謝してるだけだったけど、本来は依頼対象の相手の明示だったみたい」

「――なるほど、漠然と神様に祈るんじゃなくて、対象を名指しするんだね……そういえば、僕も祈る時は江島神社の白龍をイメージしてたな……」

「あ、僕も、神様といえばあそこの白龍だったから、白龍をイメージしてたかも……?」

「私も」


三人そろって顔を見合わせて笑う。


「つまり、誰が、どの情報構造体に、どんな願いを、どのタイミングで開始するか――それが石の起動において重要だったわけだ」

「そうね」

「それで、例えば神様固有の特性を加味して祈れば、何もないところから火を出せると……」

「そうそう――まぁ、ハナは神様じゃなくて、精霊にお願いしてたけどね」

「精霊も情報構造体だから、結局は同じだしね」

「そうね」

「……となると、今度はパワーストーンが何なのかが気になってくるね」


僕の言葉に、茜もミライも腕を組んで考え始める。


「偶然の産物……というより、元から地球にあった可能性が高いね」

「地球も数億年存在するとすると、今の人類より前にも人類があった可能性もありそう」


二人の言葉に、僕は頷く。


「情報構造体を主体としていた旧人類の遺物……という可能性が高そうだね」

「旧人類は魔法を使っていたって考えると、なんかロマンがあるねぇ……」

「今はそれのお陰で人類がピンチになりそうだけど」


ミライが軽口を叩いてから、しまったと両手で口を押さえる――が、既に遅かった。


――ミライ、やってしまったなぁ……。


一瞬にして茜の表情が暗くなり、肩が落ちる。


自分がアイゼンベルクに石の使い方を伝えてしまったことを思い出してしまったらしい。


「茜、これから先に何があっても、茜のせいじゃないよ。全部、悪いことをしようとしてる奴が悪い」


茜は青白い顔で「でも」と言う。


「アイゼンベルクがああなったのは、前の私――ハナが、生きるのを諦めて死んじゃったせいもあるの」

「前世録には殺されたって書いてあったけど、自殺だったの?」

「違うけど……本当は魔法で逃げられたのに、もう殺されてもいいかなってなって死んだから……ハナは早く死にたがってたから……」


茜が涙を流しながら、懺悔するように言う。


「そんなに苦しい人生だったの?」


ミライの心配そうな言葉に、茜は静かに首を横に振る。


「辛いこともたくさんあったけど、魔法でやり返せることはやり返してたし、良い人もいたし、それなりに楽しいこともあったよ――でも、ハナは小さい頃から、人としての生に疲れてたみたい」


ゆっくりと茜を抱き締めると、茜も抱き締め返してきた。温かい体温が、茜はしっかりと生きているんだと伝えてくれて、安心した。


「私、ティーノ……アイゼンベルクの暴走を止めたい」


茜の言葉に、僕もミライも顔を見合わせる。


それは、苦しい戦いになりそうな予感がした。

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