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第2部 神の喪失  作者: 小島もりたか
2章 遺物
33/36

一話 目的(21)

「あの――……」


――どうしよう、今さら、実はマジックじゃなくて魔法です! なんて言えない……!


顔から血の気が引いていくのを感じる。目の前が少しクラクラし始める。


「……どうした? 明かせないのか?」

「えーーっと……」


困りに困った私は、気が付けば無意識に祈りを捧げていた。


――私はハナ・シュミット

――いつも私を見守り、願いを叶えてくれる精霊たち、聞いてください

――どうかこの状況から、私を穏便に助け出してください

――お願いします……!


パリン

ボッ

バキッ

バチャ


「キャッ」

「?!」

「なんだ?!」


突然、

突風に乗ってきた石で窓ガラスが割れ、

ロウソクが倒れてテーブルクロスに火がつき、

驚いて仰け反った奥様の椅子の脚が折れ、

奥様が持っていたティーカップの紅茶がこぼれた。


「……」


――みんな、ちょっと待って、やりすぎじゃない?


別の意味で焦ったけど、「先程の話は後日に改めよう」と旦那様が言ってくれたお陰で、一旦は逃げることができた。


あまりの偶然の重なり具合に、使用人一同がバタバタと事態の収拾に走り回っていく様は、なんだか非常に申し訳なかった。


当たり前のように、私と一緒に退室したエルザはとても愉快そうに笑っていた。


「見た? みんなの慌て具合? 楽しすぎでしょ?」

「なんだか、凄い偶然でしたねぇ……」

「見えない何かがハナを助けているみたいで面白かったよ」

「……え? そう思います?」


冷たい汗が首筋を伝うのが分かった。

私の質問に、エルザはにっと笑って見せた。


「……いやぁ、それにしても楽しいもの見せてもらえたよ。ありがとね、ハナ」

「……私が見せたのはマジックだけですけどね」

「本当に魔法みたいな手品ね」

「ありがとうございます」


改めてエルザが私の顔を覗き込んでくる。

いつもの綺麗な笑顔なのに、目は笑っていない。


「私は魔法があってもおかしくないと思ってるから、あれが魔法と言われたら信じるよ」

「そんなに凄いです……?」


とりあえずしらばっくれると、エルザは「うん」と綺麗な顔で悪戯っぽく笑った。


――エルザには、マジックって誤魔化しきれなくなっているのかもしれない……。


もし魔法だとバレたらどうなるのだろうか、と考えるが、その先の未来は全く考えられない。


エルザは旦那様と繋がっている。だから、エルザに言ったことは全て旦那様に筒抜けと考えた方がいいだろう。


――旦那様は魔法を信じるのだろうか?


もし私が魔法を使えると知ったら、魔女として殺されるのだろうか?


私の迷いを見透かすように、エルザは女神のような顔で微笑む――後ろに夥しい数の怨霊を引き連れて。


――ティーノに会いたい……。


会って頭をわしゃわしゃ撫でて怒らせたい。

癒しがほしい。


私は俯きながら、エルザと使用人の食堂に向かった。




その日の晩、ティーノに相談する。


「――ねぇ、どうしたらいいと思う?」

「もし魔法だと白状した場合、お父様は恐らく軍事利用するだろうな」

「……軍事利用? なんで?」

「火の気のない場所に着火できる、風で空を飛べる……それだけでも戦場では強力な武器にできるからな。しかも、自分たちだけ使える力となれば……戦争での勝率も上がるだろう」

「待って、また戦争が起きるかもってこと?」


ティーノの言葉に血の気が引いていく。

先の戦争は私たちが生まれる前に終わっているけど、戦争と聞くとどうしても恐ろしい。


「お父様は先の戦争で負けたことを非常に悔しがっているからな。再戦もありえる」

「待って待って、嫌よ、そんなこと!」


――私が魔法の存在を伝えただけで、再び多くの人が死ぬなんて、想像もしたくない!


「うん……だからお父様には、魔法であることは教えてはダメだろう」

「でもどうしよう? マジックのタネを明かせって……」

「精霊に手品として再現できるような仕組みを教えてもらってはどうか?」

「精霊に……?」


その考えはなかったので、目から鱗だった。


早速、ウンディーネとロギにお願いして、マジックとしてタネを作ってもらうことにした。


ティーノに披露して合格点をもらった翌日、旦那様に呼び出された。


「こちらが、タネになります」

「なるほど、これは面白い……短期間でよく考えたな。買い取ろう」


――え、疑われてる?


疑問に思いつつも、表面上は取引が完了しているので、とりあえず謝辞は伝える。


「ありがとうございます……」


心の中で大きくため息をつく。


――なんとか、乗り越えた……。


横目で見たエルザは、いつものように楽しげに笑んでいた。

うまく逃げたつもりなのに、その笑みは、まだ何も終わっていないと告げている気がして、鳥肌が止まらなかった。

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