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一話 目的(16)

久しぶりに目の当たりにするティーノのご両親は、やはり圧が違った。

人種ではなく、人間として使えるか否かを評価しようとする、そんな冷たい視線にヒヤリと汗が背中を伝っていく。


「この度は息子を助けてくれてありがとう」

「いえ、当然のことをしたまでです」


感情のない冷たい言葉に、余計緊張して指先から冷えていくのを感じる。


「君は現在、仕事を探しているそうだね。息子がお礼に我が屋敷の使用人として雇い入れたいと言っていたよ」

「身に余る光栄でございます」


最初に一瞬顔を合わせてから、私は顔を伏せたまま話す。


――怖い。早く帰りたい……。


「君を調べさせてもらったんだが、君の父上は妻の主治医で、君は以前一時期息子と遊んでいたそうではないか?」


ドキリと心臓が跳ねる――けど、これは想定内の質問だ。以前出禁を食らっているなんて、ちょっと調べればすぐに分かる。


「はい――驚きました。まさか偶然助けた子どもが、ご令息だったとは思いませんでした」


うかがうような視線に、私は心臓がバクバクする。

できるだけ微笑みは消さないようにしているけど、そろそろ頬がピクピクしてきそうだ。


「――君はここで働く気はあるのかね……?」

「正直に言いますと、ご令息にお願いしたのは働き口だったので、こちらで働くことを提案されたのは困惑しています……身に余りすぎますので」

「ふむ……」


考えるような言葉に視線を上げると、ティーノの父親は彼に似た所作で顎を撫でていた。


――ティーノにそっくり。さすが親子ね。


などと関係ないことを考えてしまう。


「別に混血を使用人として雇うことは問題ないのだが、いかんせん君が怪しくてね……」

「……」

「地域住民からの君の悪評は覚えているのでね」

「――っ」


――そうです、私は悪評が酷いです。なので、雇わなくていいので、今すぐ帰してもらえますか?


父親の圧から逃げたくて、そんなことを考えてしまう。


――ダメだったら、絶対にティーノが拗ねそうだ。


「……」


私からの弁明を待っているのだろう、ご両親および護衛の方々から無言の圧がかかる。


――たぶん、嘘はバレる。


私は覚悟を決めて口を開いた。


「目には目を歯には歯を……やられたらやり返していただけです。何もしてきていない人には、何もしていません――生きるために必要だっただけです」

「呪いだ、魔女だと言われているようだが?」

「私、実はマジックが得意なのです――限りなく、魔法に見えるような。以前、ご令息にお呼ばれしていた際も、実はマジックをお見せしていました」

「――はっはっはっ!」


堪えかねたように、ティーノの父親が大声で笑い出す。


「では先日、息子を庇った炎は、やはり君だったのかね?」


チラリと護衛を見る。先日いた護衛が勢揃いしている。


――まぁ、尋問も兼ねてるよねぇ……。


「実のところそうです……あの時は、マジックなのに種を明かせと言われそうだったので言えませんでした。マジックの種は明かしては意味がないので」


肩を竦めながら言うと、父親がふふっと笑ったのが聞こえた。


「それもそうだな」


そして一つ間を開けると、父親は再び威圧感のある声でこう言った。


「いいだろう。君を我が屋敷の使用人として雇い入れよう。手元に置いておいてもいいだろう」

「――恐れ入ります……」


一方、母親は冷たい視線で父親のことを睨んでいた。父親の気分で採用が決まるのはよくあることなのかもしれない。


ティーノの思い通りになったな……と考えていると、言葉が続いた。


「ただし、基本的に息子との接触は禁止とする」


ティーノの想定外の制約に一瞬固まってしまうが、バレないうちにすぐに返事した。


「――承知しました」

「息子は君との再会に運命を感じている節がある。くれぐれも、誑かしてくれるなよ? 相応の対応をしなければいけなくなる」

「――」


――相応って、つまり、あれよね……?


良くてクビ、悪くて始末という答えにたどり着き、鳥肌が立つ。


なんか、恐ろしいところに来てしまったのかもしれない。


「――承知しました」


声が震えないか心配だったけど、無事に返事ができた。


「住み込みと、通いで選べるがどちらがよいか? 住み込みの方が夜も働く場合がある分、報酬は高くなるが」

「可能ならば住み込みでお願いしたいです」


報酬が高くなるという言葉に釣られて即答してしまった。


――いけないいけない。やってしまった……。



こうして、ティーノに接触不可という制約はあるものの、無事、職を手にすることができた。


――接触不可は拗ねそうだ。うん、拗ねるな……。


この後の顛末にひっそりと溜息をもらしながら、私は帰宅して両親にこのことを報告した。


私の将来に憂いていたママは泣きながら喜んでいた――あの家で働くことがどんな結末を迎えるかも知らずに。

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