一話 目的(15)
ティーノとは別の護衛の人の馬に乗せられ、連れていかれる。
初めて乗る馬は結構乗り心地が悪かった。
乗せてくれた護衛が、私を乗せるのは嫌だったらしく、扱いがぞんざいだったせいもあるだろうけど。
――ちょっと気持ち悪いかも……。
馬から降りると、ティーノが寄ってきた。
「大丈夫か? 顔色が悪い……」
「ちょっと酔って……」
「馬車ではなく、騎乗でか?」
「うん……」
そんな会話をしている間に、関係者が次々と集まり、同級生や護衛も加わって大所帯になっていた。
一部の人から「あいつは何だ?」という怪訝な目を向けられ、非常に居心地が悪い。
――うわぁ、帰りたい……。
「若様、ご無事で何よりです……もう一人で駆けていくようなことはお控えください。心臓に悪いです」
「うむ……すまぬ」
口では謝っているが、全く反省の色がない謝罪に、心の中で少し笑ってしまう。
「アイゼンベルク、無事でなによりだが――その黒髪はなんだ?」
黒髪と言われて思わず顔を顰めてしまう。ティーノも不快だったのか、返事の声には少し棘があった。
「悪漢に襲われていたところを助けてくれたんだ」
「悪漢に襲われたのか?」
男の子の顔色が変わる。
「……もう私の護衛が縛り上げたから問題ない」
「――そうか、発砲音がしたから心配していたが、良かった……」
ほっとした様子を見せた直後、別の護衛が訝しげにこちらを見た。
「しかし、武器もない、成人でもない女性がどうやって?」
――まぁ、怪しいよねぇ……。
私と目が合うと、その護衛は直ぐに目を逸らした。
正直、気分はあまり良くない。
「彼女は落馬して馬に踏まれそうになっている私を助けてくれたのだ」
「落馬して馬に踏まれそう……?」
先程の男の子が目をパチパチさせながら、首を捻る。
「すまない、状況がよく分からない」
「私もよく分からないのだが、私が落馬した直後、悪漢たちが急に燃えだしたのだ」
「急に燃えるなんてありえない。……大丈夫か? アイゼンベルク?」
――うん、私もそう思う。
「燃えていた男なら私の護衛も見ているはずだぞ」
ティーノが振り返ると、ティーノの護衛が頷いた。
「はい、確かに燃えていました。私が見つけた時には、見たこともない、紅の炎で燃えて苦しんでいました」
「紅の炎……? なんだそれは?」
「分かりません……炎をどうしようかと考えていたら、急に消えました」
「ますますよく分からないな?」
そして男の子たちや大人たちが私を訝しげに見る。
――いや、ティーノ、この流れだと炎の犯人、私じゃない?
内心焦りながらも、私は口を開く。
「私も困っている様だったから助けようとしていたら、急に燃え出してビックリしたんです。私が行った時は、男たちから変な臭いがしていたので、火がつく様な液体が、男たちの服についていたのかもしれません」
私の言葉に護衛達が
「アルコールか?」
「油の可能性もある」
「しかし、急に消えた理由は?」
「可燃部分が燃え尽きた可能性もあるな」
などと勝手に推測してくれる。
――全部違うけどね。
「……苦しんでいるようだったから、今しかないって思って手を引っ張って連れ出しただけです」
ここで普段の私を知る近所の住人なら、「いや、お前が犯人だろ、魔女め!」と言われるところだけど、幸いにも私を知らない人たちなので特に指摘は受けない。
皆からの追求や事情聴取が始まる前に、ティーノは口を開いた。
「あの時連れ出してくれなかったら、私は馬に踏み殺されていたかもしれない……。君は私の恩人だ。何かお礼がしたい。なんでも言ってほしい」
ティーノが視線で指示してくる。
「……たまたま助けただけなので、いらないです」
私のリアクションに一瞬ムッとしていたが、すぐに切り替えたのか戻る。
一回断られた方がそれっぽいと思ったのだろう。
――半分、本気で断ってるんだけどね。
「いや、遠慮はしないでほしい。銃を持っている男もいたのに、見ず知らずの私を助けてくれたんだ。お礼させてくれ」
「……いや、本当に大丈夫です」
「いやいや、お礼させてくれ」
「……私は混血で働き口がありません。可能なら働く場所を紹介していただければ嬉しいです」
ティーノは満足そうに頷いた。
「わかった。探してこよう」
「無理にとは言わないので……」
「いや、大丈夫だ」
ニヤリと笑う。その顔は、どう見ても善人のものではなかった。
――いや、うん。計算外もあったけど、今のところ予定通りの流れで良かったね、ティーノ。
うん、悪漢は想定外だったけどね。うん……。
冷たい視線を浴びながらも、私はいつものことだと気にせず、普段通りに振る舞うようにする。
アイゼンベルク家として改めて私にお呼びがかかったのは、約二日後だった。
あまり気乗りはしなかったけど、貴族からの呼び出しでもあるし、渋々向かった。
――ティーノ、頑張って説得したんだろうなぁ……。
親を頑張って説得するティーノの姿が、簡単に想像できた。




