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一話 目的(14)

作戦決行日、私はティーノの指示通り森の奥の方で薬草採取をしていた。


ニョルズが教えてくれるには、ティーノ達はもう森に来て乗馬を楽しんでいるらしい。


しばらくすると、少し離れた所から馬が一頭かけてくる音が聞こえてきた。


「あれ、皆――?」


ティーノの声だった。振り向くが、周りには誰もいない。


湿った風がティーノの髪を攫っていく。ティーノが乗る馬が不安そうに嘶いた。


――なかなかの演技力ね。


そう思った矢先、ティーノは私に小声で呼びかける。


「よし、いないな……おーい、ハナ、いるか?」


――聞こえるように返事すると、周りにも聞こえちゃうかもしれない……どうしよう……?


少し距離があるので返事しようか迷いながらティーノに向かっていると、複数の馬がかけてくる音が聞こえだした。


「――!」


ティーノの友だちが来たのかと、私は木陰に隠れる。


「――誰だ?」


警戒するティーノの声に、私は背筋がヒヤリとした。


――嫌な予感がする。


そう思った矢先に、ティーノの同級生とは思えない、酒焼けした男のしゃがれ声が聞こえてきた。


「よう、坊ちゃん。ちょっと着いてきてくれや」

「お前たちは誰だ?」

「お金に困ってる人間さ。ちょっと恵みが欲しくてな……」

「金ならコレをやる。すぐに帰れ」


ティーノが何かを投げたのが見えた――お金だろう。

三人の男は受け取った物を確認すると、じりじりとティーノに近付く。


――だめよ、大金渡したら調子づくに決まってるじゃない!


苛立ちながら見ていると、案の定


「もっと持ってるだろ……?」


と言われていた。


――もう、何やってるの。会話してないでさっさと逃げるのよ!


「今はそれだけだ」


毅然と悪漢に接するティーノに苛立つ。


「足りないねぇ……」

「失せろ。お前たちに構ってやる義理はない」


ティーノが手綱を引くと、男たちは彼が逃げられないように囲んだ。


――もう、何やってるの!


慌てて石を握り、お祈りを始めようとした矢先、発砲音がした。


「ヒヒーーン!!」


ティーノが乗った馬が暴れ、ティーノが落馬する。


「あっ……!」


ティーノが乗っていた馬が血を撒き散らしながら、どこかへ消えていった。


――えぇい、もうなるようになれ!


「さぁ、お坊ちゃま、一緒に来てもらおうか……?」


――ティーノを護って! 男たちを倒してください!


お願いします! とロギに祈りを捧げた途端、男たちに紅の炎が灯り、纏わりつく。


「なんだ、これは?!」

「ひぃ!!」


――ティーノと私を隠してください!


男たちと馬が阿鼻叫喚する中、私はティーノめがけて駆け出した。


暴れる馬に蹴られないように気をつけながら、ティーノの腕を引っ掴み、そのまま木陰に逃げていく。


「――はぁっ! ティーノ、大丈夫?」

「ハ……ハナ! ありがとう……!」


二人とも肩で息をしていた。

後ろを振り返ると、そう遠くない所でまだ男たちと馬が紅の火に踊り狂っている。


発砲音を聞きつけたのか、遠くから複数の馬がかけてくる音が聞こえる。ティーノの護衛だろう。


「何が起きている?!」


紅の炎に踊り狂う男たちを見て、護衛の人たちが困惑しているのが分かった。


改めてティーノを確認する。落馬したせいだろう、あちこち擦り傷ができていた。


――もう無茶するんだから……!


慌ててエイルに治癒してもらう。


「すごい……」

「もう、なんですぐ逃げないの?!」

「それは……ごめん。どうしたらいいか分からなかった」

「もう……」


確かに仕方ない。彼はまだ七歳なのだ。むしろよく会話した方だろう。


「ありがとう」

「いいよ! けど、魔法のことは内緒だからね!」

「あ……どうやって説明しよう?」

「説明できないから、なんか急に炎が出て助かった、怪我もなんか治ったってことにしよう!」


雑も雑だけど、こう説明するほかないだろう。


とりあえず炎は護衛の人が来たので消してあげた。

即座に取り押さえられていたけど。


ティーノが姿を現すと、護衛が安堵の表情を見せた。


「――若様! お怪我はありませんか?!」

「ない」

「この者たちは何かご存知ありますか?」

「私を拉致しようとした者だ。そのまま縛り上げて捕まえてくれ」

「はっ!」

「不思議な紅い炎に覆われていましたが、何かご存知でしょうか?」


ティーノはチラリと私を見る――いや、見なくていいよ。


「――知らぬ。急に現れて……気づいたらああなっていた。その間にこの人が連れ出してくれた」

「それはそれは――」


護衛の男性が私を見て一瞬固まる。


「ありがとう、ございます……」


護衛の男性は私からすぐに視線を逸らした。


「馬はどうされましたか?」

「悪漢に銃で撃たれてから、暴れてどこかに消えた」

「血の跡がありますね……後ほど保護に向かいますね」


「一旦戻りましょう」と護衛がティーノに手を差し伸べる。


「待て、彼女も連れて行ってほしい。命を救われた、お礼がしたい」

「……分かりました」


チラチラと私を見る護衛の男性の視線が、やっぱり不快だと、ティーノに手を繋がれながら思った。

緊張しているのか、ティーノの手は冷たいのに少し汗が滲んでいた。

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