一話 目的(13)
「え、ここのメイド?」
想定外の提案に、私は何度も目を瞬かせた。
私が混乱している間に、ティーノは頬を紅潮させながら、どんどん構想を口にする。
「前から思ってたんだ、ハナがここにいてくれたらって。ここで働いてくれてたら、日中でも会うことができる!」
「うーん……、逆に混血のメイドがいるって評判落ちない?」
「逆逆、混血も受け入れる気量があるってことさ」
「でも、昔パパと来てた時も、あんまり良い視線はなかったよ?」
「え? そうだったのか?」
「うん」
意外そうなティーノの顔に、私は逆に驚いた。
確かに何か具体的に虐められたとかは無かったけど、ティーノに誘われるまで邸宅には入れてもらえなかったし、皆の視線には軽く侮蔑が入っていたのはしっかりと覚えている。
この邸宅で私に侮蔑的な視線を投げなかったのは、ティーノとティーノのご両親ぐらいではないだろうか?
――まぁティーノの親は、侮蔑以前に視界に入ってなかった感じだけどね。
「……ハナを傷つけるような従者はクビにする。そもそも、混血というだけで差別するような人間はここで働くに値しない」
「いや、そんなことしなくてもいいよ……?」
――そもそも、私はここで働きたいってまだ言ってないし……。
「しかし、そうするとどういう手続きでハナを雇い入れるか? というところになる。ただ私が推薦するだけでは、関係性が怪しすぎる」
「そうよ。公式的には、ティーノを泣かせてしまった日以降、私は出禁なんだから」
「私は、ハナに泣かされてないが?」
ムッとしながらティーノは言うが、大人たちの見解は私がティーノを泣かせたことになっている。
――実際には私が泣かされて……あ、一応私もティーノを泣かせたといえば泣かせてるのか……?
ぽりぽりと頬っぺをかいていると、ティーノに「引っかかない」と指を止められる。
「とりあえずさ、無理だって。私は大丈夫じゃないけど、大丈夫。今世は諦めて、どこかで細々と生きていくからさ。あー、来世はのんびり猫とかがいいなぁー」
「……それじゃ僕が困る」
不機嫌に唇を尖らせながら、ティーノが小さな声で言った。
「え? 何が?」
「会えなくなるってことだろう?」
「頻度は減るかもしれないけど、会いに来るよ」
「嫌だよ。これ以上減らしたくない。退屈なんだ」
「そう言われましても……」
再び頬っぺをぽりぽり掻くと、また止められた。ムッとして意地でも頬っぺを掻く。
「とりあえず話を戻すけど、実は作戦はもう考えてある」
「なんか夜な夜な考えてそうね」
「そう、夜な夜な考えた。僕は優秀だから」
「そこは別に優秀さ求めてないよ?」
「じゃあ、僕は慈悲深いから」
「うわー、差別発言は悲しいですねー」
「もう揚げ足取りやめてくれる?」
ぷくぅと頬っぺを膨らませるティーノの頬っぺを突っついて空気を抜く。出会ったばかりのぷくぷく頬っぺが無くなってしまっていて、少し寂しい。
「今度学友と森へ乗馬しに行く。その時に落馬するから助けてほしい。こう、魔法でパァって治してくれたら大人も認めてくれるだろ? 森には護衛もついてくるから、証人としては十分だ」
「いやいやいや、魔法はNG! 治るにしてもティーノが痛いのはそもそもダメ」
「なんで?」
「痛いじゃん?」
「いや、なんで魔法がダメなんだ?」
「絶対怪しい変なやつって目をつけられるでしょ?」
「そうか?」とティーノは眉間に皺を寄せて悩み始める。
――いやいやいや、悩まなくても圧倒的に怪しい人間になるから……!
「とりあえず、落馬して怪我を治すのはしない。他の案がなければ、この話はなしで」
「じゃあ乗馬中に迷子になるので、助ける感じは?」
「場所は? 私も知ってる場所じゃないと、私も迷うけど?」
迷ったら精霊の力を借りればいいけど、そこは黙っておく。
「君が薬草を採取しに行く森だ」
「くっ……」
「いやいや、なんでそんなに嫌がる? 他に働くあてがないのなら、我が家はかなりの良い働き口だぞ? 人気も高い」
「くっ……」
――言われてみれば、確かにそうかもしれない……!
ただ、五歳年下の友達の家で働くのは、なんか違う気がする……!
「で、どうなんだ? 合格か?」
「一応いいけどさぁ……迷子になって助けた程度でいけると思うの?」
「だったら、落馬してもいいが?」
「いや、それはダメ」
「じゃあ迷子しかあるまい。なんか、道案内の途中で打ち解けたことにしたらよかろう? こう……
『なんでこんな所に?』
『働き口がなくて、医者の父親の手伝いで薬草を採取してたんですぅ』
『なんと、それは可哀想に! ……家で働かないか?』
みたいな?」
「……ぷっ」
「一生懸命考えたのに、笑うな!」
「ごめんごめん、面白くて!」
「謝ってるどころか、バカにしてるが?」
こうして、ティーノと私の雑な作戦が決まった。
――まぁ、これで失敗したら失敗したで、ティーノも諦めるからいいでしょ。
しかし、懸命に作戦の詳細のメモを書き出したティーノを見ていると、少しだけワクワクしてくる。
――私が帰った後もずっと作戦練ってそう。
真剣なティーノの横顔を見て、顔が少し緩んだ。




