一話 目的(10)
パパの診察の時間中のみの交流なので、ティーノと一緒に過ごせる時間は短い。結局、先週はティーノに石を使わせてあげられないまま終わってしまった。
そして、翌週である今日、またティーノの部屋に入る。
「うわー、流石お金持ちぃ」
半ば予想通り、ティーノは石を集めていた。
ソファの前に置かれたテーブルには、石が所狭しと並んでいる。百個くらいはありそうだ。
「お金と権力はこういう時に使うのさ」
鼻高々に胸を張るティーノが可愛らしくもあり、好きなものを好きなだけ買ってもらえるのが羨ましくもあり……。
私は石を眺める。
「うーん……」
どれも宝石の原石といえる綺麗な石たちだけど――
「……これだけだね」
飴色の、ごろっとした石だけが揺らめきを放っていた。
「……これだけ? ……いや、一個でも当たりがあったなら良かった方か……」
「全部でいくらくらいしたの?」
「さぁ? ……まぁ、家の資産からすれば端金みたいなものさ」
「くぅ……最高に坊ちゃん!」
五歳の癖にいっそ清々しい物言いに、もはや嫉妬する気持ちすら失せていく。
使える石を教えてあげたのに、一向に手にしようとしないので、仕方なく私が手渡してあげることにする。
「――はい」
「ありがとう……」
恐る恐る差し出されたティーノの手のひらに、私はそっと石を置く。
指先に触れたティーノの手が冷たくて、本当は温めてあげたかったけど、何も言えなかった。
石を受け取ると、ティーノはゆっくりと手を引き戻し、目を輝かせながら「これが……」と観察する。
「――やっぱり僕には、他の石との違いが分からないな」
「メラメラしてるんだけどなぁ……」
ティーノは石を握ったり、上から見たり、下から見たりする。
――こういう時は本当に五歳っぽいんだけどなぁ……。
ぼーっと眺めていると、不意にティーノと目が合った。
不意を突かれて、少し心臓が跳ねる。
「そういえば、この石はハナの石みたいな形にしなくていいの?」
「あ、形? たぶん大丈夫なんじゃない?」
「試してみようか?」と石を受け取り、ロギにお願いする。
想定通り、青い炎が現れた。
「大丈夫みたい」
そう言って石を返すと、頬を紅潮させたティーノが早速試し始める。
私の真似をして石を握り、目を閉じるけれど――いくら待っても何も起きない。
「――何も起きないんだが?」
「おかしいなぁ、ちゃんとお祈りしてる?」
「してるぞ?」
「うーん……お祈りの力が足りないのかなぁ?」
「宗教活動は熱心にしているが?」
「それとこれとは違うよ。ちゃんと精霊にお祈りして、お願いしないと」
「むー……」
再び祈り始めるティーノだけど、魔法が出るまでしばらくかかりそうだったので、私は楽しみにしていたジュースを飲む。
――あー……すっごく美味しい。最高。
ジュースの美味しさに天井を見上げたとき、黒いモヤが気になった。
――これは……。
お金持ちの家に多い現象だ。このモヤが増えていくと、病む人が出てきたり、症状が悪化したりすることが多い。パパの往診でも、よく遭遇した。
――やっぱりティーノの家もそうだよね……。
モヤは精霊と仲のいい私には近づいてこないけど、放っておくとティーノを覆おうとする。
そっと癒しの精霊・エイルを呼び、浄化してもらう。これでしばらくは大丈夫だろう。
「うーむ……」
私がジュースを飲み終えてもなお、ティーノは魔法を使えずにいた。
祈りの光は出ているには出ているのに、上手く石に吸われていない。
――うーん……何がダメなんだろう?
私にはまったく見当がつかなかった。
祈り疲れたらしいティーノが、ジュースを一気に飲み干してから私を睨む。
「できない! やっぱり何か特別な才能がいるんじゃないのか?」
「いらないはずなんだけどなぁ……」
ティーノは「うーん……」と腕を組み、顎に手を当てる。
「実は何か呪文とか必要だったりしない?」
「いらないよ。私は精霊にお祈りして呼びかけて、お願いしてるだけだよ」
「……それは、早く教えてほしかった」
「え? 違った?」
「命令してた」
「あー……」
再び祈りを始めるが、なぜかやっぱり魔法は出ない。
――なんでなんだろう?
そうこうしているうちに、パパの診察が終わり、その日はお開きになった。
翌週も、翌々週もティーノの練習に付き合ったけど、石はまったく反応してくれなかった。
――なんで? できないはずがないのに……。
私もティーノも首を捻りながら、何度も魔法を試す。
「今日は休憩の日にしよう!」
煮詰まっていたらしいティーノが、そう切り出した。
「わかった。じゃあ今日は何する?」
「今日はゆっくり話そう」
「いいよー」
そう言って私はテーブルのお菓子に手を伸ばす。今日はケーキだったので、有難くちびちびと味わうことにする。
「……おかわりもあるぞ?」
「晩ご飯食べられなくなると怒られるし……。前、クッキー食べすぎた時に怒られたんだ」
「食が細そうだものな」
「美味しいものが沢山あるのに、残念すぎる……」
「持ち帰るか?」
「それはそれで怒られるから大丈夫ー」
毎週のお楽しみになっているおやつタイムを、私はゆっくりと楽しむ。
ティーノがちらちらと私を伺いながら、少しだけ視線を落とした。
――何が聞きたいのかな?
いつ聞いてくるのか待っていると、ケーキを三分の一食べた頃にようやく口を開いた。
「……君は神を信じているか?」




