一話 目的(8)
「しかし、何をしたらそんなに邪険にされるんだ? 君と遊んでみたいと言っただけで、それなりの騒動だったぞ?」
「なんのことでしょう?」
私はわざとらしく肩を竦めて見せる。
男の子は、私にソファに座るよう指をさした。
「まだ人種差別だけなら分かる。けど、君の悪評はなかなかのものみたいじゃないか?」
「悪評だなんて、そんな……ちょっと仕返ししてただけですぅ」
できるだけしおしおと、かわいそうな感じを表現したのだけど、男の子には苦笑いされた。
渾身の演技だったので、少し拗ねる。
「そんなに口を突き出すなよ……」
「私、こんなにか弱い女の子なのに……皆酷いんですぅ……」
「君に悪戯する輩は、大体原因不明の大怪我をしたり、何か大きなトラブルに巻き込まれたりしているそうだが?」
「こんなにか弱い女の子を虐めるんですもの。因果応報ですわ。つまり、ザマーミロですわね」
「……さっきからなんだその口調は?」
「か弱いお嬢様風ですわ?」
「気持ち悪いから、やめてくれ……」
むむぅ、と口を突き出すと、男の子は年下とは思えないほど大人っぽく笑った。
「お坊ちゃまって何歳です?」
「五歳だが?」
「五歳にしては、大人びすぎてない?」
「僕は、優秀だからね!」
急に子どもっぽくなって、不意打ちで吹き出す。
どうやらあの決め台詞らしき言葉は素で言っているらしい。
笑った私を男の子は睨む。
「それこそ、君も十歳にしては大人びているよ?」
「うわー、五歳の未就学児に言われても何も嬉しくなーい」
またジロリと睨まれたが、口笛を吹いて誤魔化した。
「今日君を呼び出したのは他でもない――謝罪を要求するためだ」
「謝罪――? それだけのために呼び出したの?」
「そうだ」
五歳のちびっ子の癖して、大仰な雰囲気で頷いてくる。
「僕は、すごく驚いた。心臓が口から飛び出るかと思った」
「――?!」
急に年相応の感想が出てきて吹き出す。
「そ、それは、ごめんなさい――小さいのにいつもつまんなそうな顔してるから、ちょっかいかけたくなっちゃったの」
「うむ……」
ギャップに笑ってしまいそうになるのを必死に堪えて、逆に変な顔をしていそうだ。
「謝罪を受け入れよう。代わりに――魔法について教えてもらおうか?」
意外な発言に、私は目を丸くした。
これが彼なりの交渉術なのだと思い、妙に感心した。こんなに小さいのに、もう彼なりの価値がしっかりと確立している。
「――その……父親の職がどうなってもいいのか? とか脅さないの?」
「権力を傘に脅しをかけるのは三流のすることだ。アイゼンベルク家は一流の貴族だ。次期当主として、僕もしっかりとした振る舞いをしなければいけない」
「なんというか……凄いね?」
「僕は、優秀なんだ」
「……」
――笑ってはいけない……。
私が笑いに耐えている一方で、彼は話を進める。
「それで、どうするの? 教えてくれるの?」
「はいはい、教えます。お坊ちゃま」
「君にお坊ちゃまって言われたくないんだけど?」
「えーっと、じゃあ、何てお呼びすればよろしいでしょうか?」
「コンスタンティン?」
「えー、それでは、コンスタンティンさま――名前長すぎない? 噛みそう」
むむぅと彼は腕を組む。
「分かりました。コンシュ……あぁ、やっぱり」
――本人には言えないけど、コンスタンティンって、言いにくくない? あ、言ってるようなものか。
「好きに呼んでいい……」
「えぇ……それは逆に困るなぁ……一応父親の雇い主のお子様ですよ?」
「むむぅ……」
それはそれで不服そうにする男の子に、私は苦笑いをする。
「……じゃあ、ティーノ。ティーノ様はどう?」
「様はいらない。友だち」
「友……だち」
いきなりの言葉に、思考回路がフリーズする。
私は生まれてこの方、出自のせいもあるけど友だちなんてほとんどできたことがなかったし、できても一ヶ月も続いたことがなかった。
――友だち。
心の中が温かくなってくる。
――そうか、友だち。
「ふふふ、そうね、友だち。私はハナって呼んでね。ティーノ」
「わかった、よろしく、ハナ」
ティーノが手を出すので、私も手を出して握手する。
不思議と笑いが込み上げてきた。
「ふふふっ」
「ふふっ」
「あははは」
「あははははは」
こうして私は、五歳年下の、だけど私以上に大人びた友人ができた。
握ったティーノの手は冷たくて、私が握っているとじんわりと温かくなっていった。




