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一話 目的(7)

首からぶら下げたお守りの石を握る。


――私は、ハナ・シュミット

――見えないのに、すべてを動かす流れ、風を司るニョルズ、聞いてください

――風を動かして、私をあの窓の下まで運んでください

――お願いします


私の願いに応えるように石が鳴き、光を放つと、ふわりと身体が浮いた。

そのままゆっくりと男の子がいる窓辺まで運んでくれる。


「ありがとう、ニョルズ」


男の子にバレないように窓の手すりに足を引っ掛け、勢いよく顔を出す。


「――わっ!」

「わーーーーーっ!!」

「どうかしましたか、お坊ちゃま?!」

「まままま、窓に女の子が!!」


――私を隠してください!


身体を纏う空気がヒヤリとして、僅かに音が遠くなる。


執事らしき男性が窓の外や窓の周辺を確認するけど、私はヘルのお陰でバレずにすんだ。


――ふふふっ、見た? あの凄く驚いた顔、面白っ!


「坊っちゃま、ここは2階です。急に窓から女の子が現れることはございません」

「だ……だよな……?」

「お疲れなのでしょう。今、温かいお飲み物を持ってまいりますね」

「ありがとう」


執事の人が出ていった音がする。

男の子はなおも窓を確認したけど、見つからないので諦めて部屋に振り返った。


――チャンス!


「――わっ!」


そしてすかさずお願いをして消える。


「――?!?!?!」


――ふふふふふふ


正直に言って楽しい。二回目は悲鳴を我慢したのも可愛かった。


「――誰かいるんだろ? でてこい!」


プルプルして涙ながらに凄むのもまた可愛い。


「――ばぁ!」

「?! 誰だ!」

「ごめんごめん! 可愛くて……!」


堪えていた笑いを解放する。


――あー、たーのし!!


「お前、誰なんだ?! ここ、二階だぞ!! どうやって来たんだ!?」

「ふふふふふふ」


あの退屈そうにしていた男の子の、普通の男の子っぽいリアクションが楽しくて、ついついからかいたくなる。


「――あっ、お前! お母様の今の担当医の娘だな! 毎週庭でゴロゴロしていた……!」

「!? 知ってたんだ……! 凄いね!」

「僕は、優秀なんだぞ!」


えへんと威張る男の子に素直に「凄い!」と感心する。真っ当に顔を合わせたことなんて一回もないのに、把握しているのは素直に凄いと思った。


「……それより、どうやってここまで来たんだ?」

「ふふふ……秘密でーす」

「教えないと、今すぐ誰か呼ぶぞ?」

「……くっ!」


――賢い男の子だこと!


心の中で毒づく。

私の嫌なことを的確に突いてくる。


「風に運んでもらったの」

「風に? いくら君の身体が細くても、竜巻ぐらい強くないと運べないだろ?」

「――くっ! 本当に頭良いね!」

「僕は、優秀なんだぞ!」


えへんと胸を張る男の子が面白い。

あの窓に頬杖をついていた男の子と別人に感じる。


「……君はさ、魔法を信じる……?」

「魔法は存在しないって大人は言っていた」

「あら? それは大人が知らないだけじゃない?」


そう言って、石を通してヘルにお願いする。


――私を隠してください。お願いします。


「――っな?! どこに行った?!」


コンコン


「お坊ちゃま、紅茶をお持ちいたしました――どうされましたか?」

「今、ここに女の子がいたんだが、消えた!」

「ふぅむ……」


執事は男の子の額に手を当てる。


「熱は無いようですね……今、主治医が来ていますし、ついでに診てもらいましょう」

「あっ、ちょっと、まって……!」


そう言って、男の子は部屋から連れ出されて行った。


――あら、失敗、失敗。


まぁ、普通に面白い男の子って分かったから、ヨシッ!




翌週、アイゼンベルク家の方から呼び出しがあった。


「アイゼンベルク様のご令息が君と遊んで欲しいそうだ。失礼がないように注意してくれよ、お得意様だから」

「分かった」


いつもより遥かに綺麗な外行きの服装で、身なりもいつも以上に小綺麗にされて、いつもの自分じゃないみたいだ。


パパに何度も何度も念を押されてから、初めて入るアイゼンベルク家の豪邸の中を案内される。先導するのは先週見た、おそらく男の子専属の執事の男性だ。


少し侮蔑の視線を感じたけど、これくらいは慣れっこなので気にしない。視線だけなら楽な方だ。


部屋に案内されて入ると、先週からかった男の子が腕を組みながら待っていた。


「この子と二人で遊ぶ。誰も部屋に入れるな。近付くな」

「しかし、坊っちゃま……」

「大丈夫だ」

「しかし――」

「大丈夫だ」

「……はい」


男の子の鋭い眼力に、執事はすごすごと部屋を出ていく。


男の子――坊ちゃんは遠ざかったのを確認すると、勝ち誇ったように腕組みをした。


「僕の勝ちだ!」

「――何が??」


坊ちゃんは胸を張って応える。


「ふっふっふっ……君を捕まえた!」


そしてとても悪そうにニヤリと笑う。


「君は逃げられない! さぁ、洗いざらい吐いてもらおう!」


――もろ悪役になってるけど、いいのかな?


ちょっと笑ってしまったら怒られた。

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