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第2部 神の喪失  作者: 小島もりたか
2章 遺物
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一話 目的(5)

悟は静かに、しかし底冷えするような声でアイゼンベルクに問いかける。


「急な訪問なんて聞いていないのですが?」

「(お伝えしていませんでしたから)」

「茜は今、病気だということもお伝えしましたよね?」

「(はい。なので、お見舞いと療養にこちらに来てはいかがかと、お勧めしに来ました)」


アイゼンベルクはそう言って、飄々と見舞いの品を手で示す。


ミライがそっと私に寄り添って腕を抱きしめてくれた。冷えきった身体が、ミライの温もりで少し和らいでいくのを感じる。


悟とアイゼンベルク達の対峙をよそに、ミライはそっと私をテーブルから引き剥がして、悟の後ろに連れて行ってくれる。


「お母さん、大丈夫?」

「――っ」


安心感で泣きそうになるが、まだ安心しきってはいけない。

悟の後ろから改めて、アイゼンベルク達と対峙する。


すると、アイゼンベルクは急に笑いを零した。


「(ふふふ、すみません。素晴らしい家族愛ですね。目的も達成できましたので、今日はこれで失礼します)」


アイゼンベルクは、優雅にコーヒーを一口飲むと、スラリと立ち上がった。


警戒する私たちをよそに、のんびりと玄関に向かう。


「(とても素敵なお家ですね。温かい。家族はこういう場所で暮らすべきです)」

「ありがとうございます……」

「(それでは、今日は急にお邪魔して失礼しました。また、お会いしましょう)」


そう言って、アイゼンベルク一行はすんなりと出ていった。


「――茜、何かされてない?!」

「大丈夫? お母さん!」

「何かされたけど、大丈夫だったよ……」


力が抜けて、ふにゃふにゃと腰が砕けた。


「えっ、何されたの?!」

「分かんない? 洗脳……? 記憶の埋め込み……? ――でも、悟とミライの祈りが助けてくれた」

「僕の祈り――? あぁ、もしかしてクラゲ侵攻の時の?」


流石悟、記憶力が半端ない。


「そう、あの時のパワーストーンで祈ってくれた願いが、私を守ってくれたの」

「それは――あの時祈っておいて良かった……」


悟までへなへなとへたり込む。


「――でも、ごめんなさい。パワーストーンの使い方を話しちゃった……」

「そうだよね……目的はそれだよね……しかも達成したって言ってたし」

「ごめんなさい……」


ミライの言葉に、涙が溢れ出してくる。


――私は世界を破滅させるかもしれない人に、破滅させる道具の使い方を教えてしまった……。


「茜――っ! 薬飲んだ? ミライ、薬持ってきて!」


ミライが水と薬を持ってきたので、悟に迷いなく飲まされる。


「大丈夫。茜は悪くないよ。脅迫されたんでしょ?」

「――でもっ、パワーストーンで魔法が……」

「ん? 魔法??」


悟の怪訝な言葉に、私は頷く。


「パワーストーンの使い方によっては、魔法が使えるの……」

「あ――」


悟とミライは顔を両手で覆った。

二人して同じような仕草で頭を掻いてから、私の肩を掴む。


「茜。よく覚えておいて。これから先何が起こっても、茜のせいじゃない。悪いのは悪用する奴らだ。絶対に、使い方を知ってしまった茜が悪いことはない!」


悟の真剣な表情と言葉に、再び涙が溢れてくる。


「ごめん――ごめんなさい!」




「――っ」


気がつくと、ベッドで横たわっていた。


頭が痛い。無意識に手で額を押さえる。


ひとしきり泣いた後、寝てしまったらしい。

窓の外は薄暗い。部屋の向こうから賑やかな声とお腹が空くいい匂いが漂ってきている。


「(――水)」

「?!」


自分で今、何語を話したのか分からなかった。


――(あれ? 私は誰?)


両手が震える。そうだ、この感覚は覚えている。


――(だめだ、鏡……)


この肉体の記憶が、警報を鳴らす。自己の定義が揺らいでいる。


鏡がどこにあるのかが、思い出せない。

視界の端に窓を捉えて、窓に駆け寄った。


――そうだ、私は『守山茜』


窓に映った自分の顔を、指でなぞる。


「私は、守山茜。日本人」


声に出すことで記憶に擦り込む。


「私は、守山茜。『今の私』」


何度か繰り返して、やっと落ち着く。

鼓動が激しく、呼吸が辛い。


「茜――起きてる?」


ガチャリとドアを開けて、悟が寝室に入ってきた。


両腕を広げて待っていると、笑いながら抱き締めてくれる。


「ご飯できたけど、どうしたの、茜?」

「――中二の頃、覚えてる?」

「あー、前世掘り返してた頃?」

「そうそう。あの状態」

「今日された洗脳と関係あるの?」


コクリと頷くと、悟は頭を撫でてくれる。心地良い。


「ねぇ、悟は私の黒歴史――前世録、暗記してるよね?」

「ふふっ、してるね」

「……忘れてくれていいんだけど?」

「僕、記憶力が凄いからね」

「ふふふっ……ハナ・シュミットっていた?」


悟は少し考えると、徐に口を開いた。


「――いたよ。確か前々世だね」

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