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第2部 神の喪失  作者: 小島もりたか
2章 遺物
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一話 目的(4)

魂は情報構造体であり、情報構造体は肉体を巡る――所謂、輪廻転生だ――つまり、情報構造体が視える人は、その情報構造体の記録の履歴も視ることができる。


「あります……」


小さく答える。


中学生の多感な時期にこれでもか、というほど調べた。結果、『安部茜』としての境界が揺らぎ、自分が誰なのか曖昧になって、やめた――正確には、悟に怒られて禁止された。


私の前世は他の人と同じようにいくつも存在したが、今はもうほとんど覚えていない。今は黒歴史と化したノートを確認すれば思い出せるけど、それもできるだけしないようにしている。今世の記憶だけで十分だ。


目の前の男は優しく、囁くように私に問いかける。


「(一番最後の前世の名前は『ハナ』ではないかな?)」

「ハナ――」


男は優しく私の手を取り、私の手の甲を撫でる。


「(そうです、よく思い出してみてください。あなたは知っているはずだ)」

「ハナ……」

「(そうです、ハナです)」


記憶が呼び起こされる。


――彼は、ティーノは小さいのに、いつもつまらなさそうな顔をしていた男の子だった。


豪邸に住んでいるお金持ちなのに、見上げる度にいつも頬杖をついて、ブスッと外を眺めていた。


「――」


ふと、目の前にティーノの面影が残る青年がいることに気がつく。


「ティーノ……?」

「!?」


キツく手が握られる。痛みに顔を歪めると、力が緩んだ。


「ハナ……」


頭がぼぅっとして、『ハナ』という単語が頭の中で繰り返される。


――そうだ私は……ハナ


様々な前世の記憶が呼び起こされ、『私』の定義が曖昧になっていく。


――……違う……ん? ハナだっけ?


「(大丈夫です、今度は守り抜きますから……)」


男が優しく囁く。


――なんだろう、大切なことを忘れかけてる気がする……。


ふわふわするような不思議な感覚に、抗いたいという気持ちが、ポロポロと指の間からこぼれ落ちていく。


――(私はだれだっけ?)


「(ハナ、私と共に行きましょう)」


――(そうだ、私はハナ……ハナ・シュミット……)


頭の中でカチリと何かが切り替わろうとしているのがわかる。


――(ドイツにいて、お母さんが日本人)


「(ねぇ、ティー)」


「?!」


突如、目の前でオレンジ色の光が弾けて消えた。


それはいつだったかに見た光――そうだ、クラゲ侵攻の時に悟が祈った時の石の光だ。


「――っ?!」


ズキンと一度頭痛がした。思考が一気にクリアになる。


――私の情報構造体が干渉されかけていた……?!


急にクリアになった頭で、自分の思考にモヤがかかっていたことに気がつく。


――抗うつ薬の影響もあるだろうけど、それ以上に思考力が奪われていた……?


ティーノとの再会を喜ぶ私の記憶を、頭を振って追い払う。記憶は悲鳴を上げながら、頭の片隅に追いやられていった。


――思考や記憶まで書き換えようとするなんて……!


MRグラスをかけていたクロウリーは面白そうに笑み、アイゼンベルクは一瞬残念そうに眉尻を下げた。


――ふざけないで!


胸の奥で火の玉が弾けた。


「違います。私の前世は『タマ』です。日本で飼われていた猫でした!」


私が鼻息荒く答えても、それでも男は余裕たっぷりに微笑んだ。


「(それは、残念です)」


急に外が騒がしくなる。希望の気配に私は背筋が伸びた。

バタバタと激しい音をさせながら、誰かが駆けてくる。


「――茜!」「お母さん!?」


リビングに転がるように駆け込んできた二人は、部屋の状況を見るなりテーブルに座るアイゼンベルクとクロウリーを睨んだ。


「(もう少しで、手が届きそうだったんですがねぇ……)」


残念そうなその声だけが、やけに近くに聞こえた。

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