一話 目的(3)
「……へ?」
何を言っているのか理解できず、視界がチカチカした。
目前には私の手を強く握るアイゼンベルク、周りには驚愕と喜びに満ちたクロウリーや護衛。鈍い手の痛みが、現実であることをふつふつと伝えてくる。
「……すみません、よく聞こえませんでした」
苦笑いしながら言う。
正直、言い直しはいらなかったのに、彼はご丁寧にももう一度言ってくれた。
「(私と共に生きませんか?)」
「……私は既婚者で、子供もいますよ?」
「(そこは、私は大丈夫です)」
――いや、私は大丈夫じゃないんだけど?
ゆっくりと逃げるように手を引くと、彼はやっと私の手を解放してくれた。
アイゼンベルクはゆっくりと椅子に腰掛け直し、コーヒーを口に含む。
アイゼンベルク以外が、喜ばない私に鋭い視線を向けてくる。
今すぐ逃げ出したい。けど、逃げ出したところで、リビングの扉を開けるところで警護の男に捕まるだろう。
「(少し、昔話を聞いてもらいましょうか)」
そう言って彼は優雅に微笑む。
彼の取り巻きが、驚きの中に狂気に満ちた喜びで目を輝かせる。
「(私が幼い頃、とある少女に出会いました。彼女は私より少し歳上の、日本人の母を持つ少女でした。彼女は幼い頃から霊が視えており、周囲から嫌厭される存在でした――茜、あなたと同じように……)」
「……」
――いや、ちが――
「(違うと思いましたか?)」
図星を言い当てられて、思わず息を飲む。
「(あなたに悟という理解者がいたように、彼女にも私という理解者がいました)」
彼は少し悪戯っぽく笑う。
「(彼女は僕にとってだけではなく、世界にとっても特別な少女でした――魔法が使えたのです)」
皆が息を飲み、一斉にテーブルに置かれたパワーストーンを見る。
「(そうです。このパワーストーンを使って……)」
「(だからこれ程パワーストーンの研究を続けていたのですね……?)」
「(そうです。確信があったから、続けていたのです)」
アイゼンベルクは石を手に取ると、光にかざした。
「(彼女は素晴らしかった。彼女が石に願えば炎が上がり、枯れた草木が花を咲かせ、人の怪我も治した――私は幼い頃から魔法を信じていました。そして、彼女と出逢い、確信したのです。魔法は存在すると)」
アイゼンベルクは石を握りこむと、目を閉じ、押し黙る。
しばらくすると、石が反応した。それと同時に左手から青い炎が上がる。
「(凄い! 凄い! 凄い! 凄い!)」
クロウリーや警護が狂ったように興奮する中、私はその光景に震え上がった。
――私はなんてことをこの人達に教えてしまったの……?
アイゼンベルクの暗い笑みが、炎で青に染まる。
「(魔法は、存在します)」
短いが、自信に満ちた声だった。
「(私が人生を賭けて証明しようとしていたことが、今、証明されました)」
「(素晴らしいです! アイゼンベルク様!)」
アイゼンベルクは満足げに青い炎を握り潰した。
「(私や彼女は何もおかしくなかった。それが今日、やっと証明されました。……これ程喜ばしいことはないでしょう)」
そうして、ふと私を見る。
「(ふふ、何故、彼女と共にいないのかと思っていますね?)」
彼の隣にいるクロウリーが深く頷く。
「(彼女は幼い頃に既に死んでいるからです。私が彼女に固執していたからでしょう。両親によって、事故に見せかけて殺されました)」
「(まぁ、その後私が両親を殺して復讐しましたが……)」と、おぞましいことを目の前の男性はこともなげにさらりと言う。
――恐ろしい……。なんて、恐ろしいの……?
鳥肌が止まらない。幼い頃、子どもの想い人を殺す両親も、自身の両親を殺す人も、到底理解できない。
「(さて、茜)」
ゆらりと目の前の男は言う。
視線が合うだけで寒気がした。
「(霊能者は、人の前世も覗けると聞きます。あなたは自分の前世を覗いたことがありますか?)」




