三話 革命(1)
『我々は、神を目の当たりにしています――』
『日本のガチで神様がいる神社!』
『祈りは力になる――』
『天国と地獄は存在した?! 魂の行方を徹底分析』
『死んだ家族に会えた……』
『効果的な祈りの方法を解説します』
霊視装置の最終形態が普及し始めてから、世界の変化はさらに加速した。
スマートフォンほどではないが、パソコンが普及し始めた頃のように、「持っている家庭は持っている」という立ち位置にまで広がってきている。
私たちは量産体制を整えていなかったが、資料提供を受けたミラ島の研究者たちが独自に改良と量産を進めていた。
私たちが開発したMRグラス型だけでなく、パソコンやスマートフォンでも表示できるような派生型まで生まれている。
霊視装置の最終形態を完成させたことで、私たちはようやく研究から解放された――はずだった。
けれど今度は、世間に浸透していく霊視装置そのものに縛られ始めていた。
もともと信仰を持っていた人々はさらに傾倒し、そうでなかった人ですら、日常的に祈る習慣を持つようになっている。
「お母さん、怖い」
「朋里、どうしたの?」
朋里の言葉に、思わず身構える。
「学校でね、友だちに霊視能力を羨ましがられるの。小学校ではそんなことなかったのに」
言葉を失った。
こんなところにまで影響が出始めているなんて。
「霊視できるって、言っちゃったの?」
「小学二年の頃にポロッと言っちゃったの、覚えてる子がいて、それで……」
「なんて返したの?」
「不便なことが多いから、全然よくないよって」
その気持ちは、痛いほど分かる。
私自身も幼い頃、それで何度も苦しんできた。
今の朋里は訓練のおかげで視界を切り替えられる。
けれど、それ以前は常に悪霊を避けるために気を張っていたはずだ。
――でも、これから気を付けるべきはそこじゃない。
「そっか……。これからは、霊視能力があることは秘密にしておこうね。念のため」
「なんで? これからは変な子って思われないんでしょ?」
「そうなんだけど……逆に、悪い大人に狙われるかもしれないから」
「視えるだけなのに?」
「霊の存在が証明されたから。私たちは、道具を使わずに視える“貴重な人材”になり得るの」
私も、自分で言ってはいるが、実感は薄い。
ほとんど悟とミライの受け売りだ。
それでも――朋里を守るためには、伝えなければならなかった。
朋里は下唇を噛む。
「せっかく、『視えること』がおかしくないって証明できたのに……これじゃあ意味ないよ」
「……そうね。本当に、そうだよね」
私は朋里を抱きしめ、静かに背中を撫でた。
礼拝堂では、霊視装置の使用が当たり前になっていた。
日本の神社ではほとんど見られないが、大陸の主要宗教では広く導入されている。
最近では、信仰の強さを数値化し、信者のランク付けや役職選出にまで使われているという話がSNSで流れてきた。
――怖い。
今はまだ宗教の内部で完結している。
けれど、これが政治にまで影響し始めたら?
もし“神”が物理的干渉を持つ存在だったら?
疑問と不安が、毎日のように頭を巡る。
祈りによって形作られた神は、まだ明確な「利用価値」を見出されていない。
ただそこに存在するだけで価値がある――そんな段階だ。
だが、もし何かの用途が見つかってしまったら。
それは、破滅への一歩になるのではないか。
「――何を調べてるの?」
突然のミライの声に、心臓が跳ねた。
「江島神社付近の犯罪件数……」
「前に少し調べたけど、線路の向こうに比べて空き巣とかはかなり少なかったよ」
悟がコーヒーを飲みながら答える。
「僕も白龍の影響が気になってね。少し調べたことがあるんだ。……まあ、偶然かもしれないけど」
「でも、影響じゃないとも証明されてない」
「だよね……」
「祈りによって生まれた神が、どこまで物理世界に影響を及ぼせるのか……気になるところだよね」
ミライの言葉に、私は頷く。
「少なくとも、同じ情報構造体である霊の中でも、悪霊は神社に近づくほど減る……」
「神様がいる神社は、だいたいそうなんだよね?」
再び頷く。
冷めきったコーヒーを揺らすと、液面に映る光が不安定に揺れた。
「神様の影響次第では――兵器にもなり得るね」
悟の一言で、全身に鳥肌が走る。
それは、あってはならない未来だと直感が叫んでいた。
――祈りで人が殺される世界なんて……。




