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ジャスティーとエルーノ

 女王を捕らえたことにより、フレイブ王国に侵略者を送る指示を出していた者がいなくなった。統率者を失い、敵の兵は空中分解した。それによりアコッセさんたちは無事、ルーチェの形跡からエルフィールを持ち帰ることに成功する。


 後にジュビー様が教えてくれたのだが、アコッセさんは本当に飛ぶことが得意ではなく、いつ失敗して落下するかと、はらはらしたそうだ。ある意味、敵の襲撃より緊張したとも語っていた。

 そんな彼らが頑張って持ち帰ったエルフィールで薬を作ると、全て光る光景に、ドヴァル先生は驚いた。


「驚いたな……。通常のエルフィールで薬を作ると、毎回光が現れる訳ではない。何割かは失敗するのに、このエルフィールだと全て成功する。こいつはすごい……」


 この結果に、それはもう喜んでもいた

 完成した薬はすぐにエニュスたちの手により、罹患者の多い地域に届けられた。魔法で転送される光景を見ていると、これで他の皆が救われるのだと、嬉しくなった。


 フェーデは薬を飲み熱が下がるなり、ルーチェの制止を振り切りテントを飛び出すと、私を助けに向かう。爆発音が聞こえてきた方向に向かっていると、女王のもとから離れた一団を偶然見かけた。その時に聞こえた彼らの会話から、私の居場所を知れたのだ。

 だが無茶をしたせいで、風土病とは関係ない熱が出てしまい、またベッドへ逆戻り。


「駄目じゃない、フェーデ。熱が下がったからって、すぐに無茶をするなんて」

「ごめん……。だけど、どうしても君を助けたくて……」

「ありがとう、フェーデ。だけど無理をしないで。フェーデになにかあったら、私……」

「……うん、ごめん。はあ……。これからまた、アローン叔父上に叱られるのだろうな」


 口を尖らせ、おどけた口調で言うので、私はくすくす笑った。


 セドナーも命には別状がなく、治療を受け安静にしている。ただ以前のように走ることは、二度とできないだろうと言われた。矢の刺さった場所が悪かったそうだ。

 私を助けてくれた愛馬。走れなくなっても、大事にすると約束すれば、セドナーは満足そうに鼻息を漏らした。


 ルーチェはアローンさんに肩を借りながら、避難場所に帰還した。


「慢心したわ……。これからは魔法具も持ち歩かないと……」


 しばらく安静にしろとアローンさんに言われ、ベッドに横たわるものの、悔しそうにそう言うと、布団を頭までかぶる。それからしばらくは、誰が話しかけても、返事をしなかった。

 詳しくは教えてくれなかったが、メッチェルと戦い、猛省した点があり、恥じたそうだ。


 そのメッチェルの亡骸は、他のホーベル王国の亡くなった人たちと一緒に、合葬された。


 私たちが疲労困ぱいしている中、アローンさんとアコッセさんは休むことなく働いた。

 そんな彼らが先導のもと、町民は町へ戻り、復興に着手する。


 それからしばらく経ち、少し落ちついてきた頃。私はオードルさんに案内され、手錠をかけられたマシェットの運命の相手と対面を果たした。


「彼女がエルーノ・ノンロイだ」

「貴女は……」


 驚いたことに、その人は最初の避難場所で見かけた、顔に傷のある女性だった。

 他の人に比べ、様子がおかしいと思っていたけれど、まさか彼女がそうだったとは……。


 エルーノの証言により、兵団内に潜りこんでいた内通者は全員捕らえられた。その多くが十年以上アボッカセで暮らし、長く兵団に所属し、誰もがその正体に驚いた。

 彼らは襲撃のどさくさに兵団から逃亡していたが、身を潜めていた場所を特定され、アローンさん率いる兵団の手により、一網打尽に。彼らもまた女王と一緒に、裁きを受けることが決まった。


「エルーノさん、私はジャスティーといいます。マシェット・シューペスから、貴女宛ての伝言を預かっている者です」


 じゃらんと鎖の音をたて、エルーノが顔を上げる。彼女の両手には手錠。両足には重りのついた足枷がはめられている。もちろん逃亡防止のためだ。

 エルーノが口を開いたのは、マシェット・シューペスからの伝言を教えることが交換条件。彼女はそれを受け入れた。エルーノにとって大切なのは、国ではなくマシェットなのだ。


「マシェット様⁉ ねえ、ジャスティーさん。マシェット様は今、どちらに?」


 マシェットと会えると思っているのか、顔を輝かせるエルーノ。

 私は一瞬目を伏せると顔を上げ、重い口を開いた。


「……遠くへ行きました」

「え?」

「とても遠い場所です。マシェットからの伝言は……。約束を守れなくてすまない。幸せを祈る。……です」

「……それ、だけ?」


 否定するように、エルーノは何度も首を振る。じわりと、その両目に涙を溜め叫ぶ。


「そんなの嘘だわ! 遠くって、どこへ行かれたの⁉ そこに私が行けば、会えるのでしょう⁉ 遠くても行ってみせるから! お願いよ、そこを教えてちょうだい!」


 懇願されるが、私は大きく首を何度も振る。


「行き先は……。私には分かりません。ただ、遠い場所としか……」


 事前に聞いていたが、やはり彼女はマシェットの死を理解していない。そんな彼女に、彼が処刑され亡くなったと言えなかった。


「どうして……」


 ついにはぽろぽろと、涙を零す。


「マシェット様……。次に会った時……。お揃いの結婚指輪を買おうって……。必ずって約束を……。それなのに、どうして……? どうして私を置いて、一人で遠くへ行ってしまったの……? 嘘つき……。マシェット様の嘘つき! 貴方がいないのに、どうして幸せになれるの⁉ 教えてよ!」


 大声で泣く彼女を、どう慰めればいいのか、私には分からなかった。


「マシェット様……。マシェット様……」


 私は悲しかった。


 マシェットを愛する彼女は女王に彼が生きていると吹きこまれ、それを何年も信じ、ついにフレイブ王国までやって来た。この地で活動していれば、いつかマシェットに会えるという女王の言葉を信じて……。

 女王に利用されていたことは認められながらも、彼女もまた、裁きを受ける者に名を連ねている。


 純粋な彼女の愛が、悲しかった。マシェットもきっと、泣いている……。

お読み下さり、ありがとうございます。


ジャスティーとエルーノの対面は、マシェットの処刑される頃から決めていました。

ただ私自身の未熟さゆえ、ラウル同様、上手く生かせませんでした。


最終回まで残り三話。

次回はいつもより、長めの話になります。

頑張って推敲します。

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