不戦勝
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空を飛んでいた魔法使いが一人、先ほど倒れた者と違い、ゆっくりと意思を持って降りてくる。私たちから十分に距離を開け、着地する。
もう一人は地上に降りることなく、仲間でも呼びに行くのか、どこかへと飛んで行った。
「一撃で全員を倒すとは、噂に違わぬ魔力ですな」
見た感じ年の頃は、三十代だろうか。前髪の後退が激しい魔法使いは、複雑な顔を焦土に向ける。
「とても敵いそうにありません」
「では大人しく、ホーベル王国へお帰りになって下さる?」
私を庇うようにルーチェが前に出て、かぶりを振る彼と対峙する。
一瞬ぼうっとしてしまったが、背後にも注意を向けなくてはならないと気がつき、魔法使いはルーチェに任せ、周囲に視線を巡らせる。
「帰るというのは、無理な相談です」
「ならば、戦うしかないということね」
ぞくり。
得体の知れない目には見えない力が、ルーチェの体から膨れ上がった。きっとこれが、魔力に違いない……! 魔法を使えない私でも感じるとは、どれだけ巨大な力なのだろう!
今までフェーデが魔法を使った場面に居合わせたことはあるが、こんな強い気配、感じたことがない……!
私でさえ恐怖を覚える力。それを使用し、感じることができるホーベル王国の魔法使いは、より強い恐怖を感じているようだ。
歯の根が合わぬ様子となり、ついには立っておられず、崩れるように尻餅をつく。
ざっ。
ルーチェが一歩踏み出せば、魔法使いはその分逃げようと、お尻と手を使って必死に後ずさる。
「はっ……。はあ……っ。ひ……っ」
叫びは言葉になっていない。見るからに怯える彼の両目から、涙が流れる。
ルーチェが少しでも魔法を使えば、一巻の終わり。命の灯は消える。
そんな極限の恐怖に耐えきれなくなったのか、やがて彼は白目を向き、気絶した。
途端にルーチェから発せられていた、強い気配が消える。
「まあ、残念ね。いろいろ教えてもらいたいことがあったのに」
頬に片手を当て、残念そうに言うと、空いた手で縄を取り出す。そのまま気絶した魔法使いの体を強く縛り、仕上げにと、取りだした石を額に押し当てた。石は吸い込まれるように、額に埋めこまれた。
「ルーチェ、それは……」
マシェットを捕えた時、アローンさんが彼の額に埋めた、あの石?
「ええ。マシェット・シューペスにも使われた、魔法を封じる石よ」
「もう一人の逃げた魔法使いは、どうするの?」
「これから追うわ。ジャスティー、貴女は狙われているのだから、このままどこかに隠れていなさい。見失えば貴女を見つけようと、敵は姿を見せるはず。そこを私が叩くわ」
でもと言いかけ、焦土が目に入り口を閉じる。
これだけの力を持っているルーチェなら、狙われている私が一緒にいては、逆に足手まといになるだろう。
「……分かった」
「大丈夫よ。すぐに片付けて戻ってくるから。浮け」
そう言うとルーチェは、ふわりと体を浮かばせると、そのまま空高く上がり、飛んで行った。
一人残された私は、どこに隠れようか考えるが、本当にそれでいいのかと悩む。
ルーチェだから、大丈夫のはず……。
だけど、もしなにかあれば? 追いつめられることになれば? ルーチェだって、魔力が底なしではない。もし魔力切れが起きたら? その時、彼女が一人だったら?
「………………」
やはりルーチェを追いかけよう。
私はそう決めると、ルーチェの飛んだ方へ向かって走り出した。
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