戦闘~5~
セドナーで逃げる私を、馬に乗ったディランたちは追いかけてくる。
人数を数えた訳ではないが、あの場にいたほぼ全員の敵が私を追っているようだ。
統率はできても、ロッシさんを無視するとはお粗末な戦略だ。ディランは軍人として、ロッシさんより劣っているのだろう。
そのロッシさんは言った。戦いに勝つのに必要なのは、人数ではないと。
私もそう思うが、今、圧倒的に不利な状況に身が置かれていることも確かだ。だが地の利があるのは私。まったく強みが無い訳ではない。
この先を進めば、開けた場所へ出る。そこなら、しばらく前方に注意を向けなくても大丈夫だろう。
私は後ろ手に土の矢を探り当て、その瞬間を待つ。糸を結んでいて良かった。これで見なくとも、糸の本数でどの矢か分かる。
広場に出るなり、私は振り向き、土の矢を放つ!
魔法は木々の隙間を縫うよう、ディランたちの行く手を阻む壁を作ってくれた。
「セドナー、全速力! 今のうちに、遠くへ!」
前方は障害のない、草だけの平野。走りやすい場所なので、言われずともと速度を上げるセドナー。
策が成功したことに喜んでいると、背後からあの筒が爆発する音が聞こえてきた。
振り返り空を見れば、また煙が浮かんでいる。やはりどこに潜んでいるか分からない仲間に、居場所を知らせている……?
……もし今、前方から新たな敵が現れたら……。
いや、大丈夫だ。行く手の森の中に、人の姿はない。……もし、陰に潜んでいたら?
考えれば考えるほど、どつぼにはまる。
抜け出せられなくなる前に、考えることを止めよう。きっと大丈夫だと信じ、前へ進もう!
アコッセさんから少しでも遠くへ! 少しでも長く、彼らを引きつけないと!
もうすぐ平野を抜ける時、さっと大きな影が上空から落ちてきた。それは雲や鳥とも違う、奇妙な形だった。
嫌な予感がしたので頭上を見れば、人が飛んでいた。それも三人も!
「魔法使い……!」
空を飛べられる人間なんて、魔法使いに決まっている。
信号弾を見て、駆けつけて来たに違いない。
魔法使いに空から追われるとは、正直考えもしなかった。どう立ち向かえばいいの⁉
平野を抜ければ、また森の中。嫌でも木々の隙間を縫うので、セドナーの速度も落ちる。
……ひとまず落ちつかなくては。そうだ。短剣の石を使えば、魔法を防ぐことができる!
心強い道具を思い出し、魔法に気をつけようと思う中、突然空が赤く燃えるように光る。
「……炎⁉ セドナー、火に気をつけて!」
枝葉を燃やしながら落ちてくるのは、炎の球。大きさはさほどないが、当たれば燃えるか爆発かすると分かる。
上空からの球に注意しながら、セドナーに指示を出す。
避けた球は地面に直撃すると、小さな爆発を起こした。
どうしても避けることが難しい球に向かい、石を割る。見えない壁に炎の球は阻まれ、やがて霧散するよう消える。
セドナーは事前に火に気をつけるよう伝えたおかげか、混乱することなく、私を乗せて走り続ける。
「……っ」
こちらから魔法使いに攻撃しようにも、木々の枝葉が邪魔で上空が見渡せず、狙いを定めることができない。
平野だったら、上空を見回すのも容易い……。
平野……。だからといって、先ほどの平野へ戻ることはできない。そうすれば迫るディランたちと、衝突してしまう。この辺りで、他に上空が見渡せるような平野は……。
「東に向かうわよ、セドナー!」
東の方角に平野があると、やっと思い出す。
そこで空からの敵を迎え撃つと決め、進路を東に取る。
その時、向かう先にふらふらと空から人が降りてきた。いや、落ちてきたと言うべきか?
眉間にシワを寄せ、前方を凝視する。
あれは……。先ほど見た、空を飛んでいた魔法使いの一人だ。一体、なにを企んでいるの? どんな作戦を練ったというの? なぜ一人だけ降りてきたの?
手綱を片手で握り、もう片方の手で短剣を構える。
しかしどうしたことか。魔法使いは地面に力なく崩れ、そのまま横たわると、ぴくりとも動かない。
その人物に注意を払いながら、近づかないように迂回して先へ進むが、結局魔法使いは起き上がることなく、ただそこに横たわっていた。
「……まさか、魔力切れ?」
マシェットと対峙した時のフェーデを思い出す。
あの時、魔力切れとなったフェーデも意識を失った。それと同じことが、あの魔法使いにも起きていたら……?
そうだとすると、ありがたい。あの魔法使いは、これでしばらく動けない。
残る魔法使いは二人。その二人も魔力切れを起こしてくれたら……。
ううん。不確定な事に縋るのは止そう。
ひゅん! ひゅん!
空を切る音が、上空から降ってくる。それは放たれた矢が向かって来る音だった。
「まさか……!」
木々の隙間から見えた! 弓を構えている、魔法使いの姿!
弓矢なら魔力を使わないので、力を温存できるから、そういう戦法できたか! きっと私が石をまだ持っている可能性も考慮しているのだろう。ディランより厄介な相手かもしれない。
矢に石は効かない。仕方なく弓矢をかわそうと、短剣を振る。
だがあまりに数が多く、ついに一本の矢がセドナーの足に刺さった。
「ああ!」
バランスを崩したセドナーから、私は投げ出される。
「セドナー、大丈夫⁉」
顔や服に土をつけながら慌てて立ち上がると、セドナーの様子を確認しようと、駆け寄ろうとする。しかしこの間にも、矢は無情にも降り注ぎ、倒れたセドナーの体に何本も突き刺さる。
「セドナー!」
痛みからセドナーが大きな鳴き声を上げる。
苦しそうに息を荒げながらセドナーは、じっと私を見つめてくる。
「なに……? 逃げろ……? 私にセドナーを置いて、一人で逃げろって言っているの……⁉」
嫌だと言うように、私は首を横に振る。
傷ついたセドナーと一緒に、敵から逃げることなんて無理だと、分かっている。分かっているのに、足は動かない。
……できない。セドナーを残して逃げるなんて……。
私の心を察したセドナーが、怒ったように鳴く。
そうだ。このままセドナーと一緒にここに留まれば、追いついたディランたちに取り囲まれ、私は殺される。分かっている。分かっている!
動かない私の真横を通った矢が、地面に刺さりはっとする。
……私はなんのため、囮になることを志願した?
フェーデを助けたいからじゃない! このままここで死んだら、すぐディランたちはアコッセさんたちのもとへ向かい、フェーデを助ける可能性が低くなる。
ぎりっ。奥歯を噛む。
……覚悟が足りなかったかもしれない。だけどもう、迷うな。フェーデを助けるために!
「……分かった、セドナー。後で迎えに来るから、待っていて!」
私はそう言うと、セドナーに背を向け、走り出した。
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