フェーデ、発熱
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「先生! ファイオス先生! 大変だ!」
アローンさんたちとアボッカセ奪還作戦に出ていた団員が、血相を変えてテントに飛びこんできた。
「どうした、怪我人か?」
「違う! 殿下が……っ。フェーデ殿下が……! とにかく来てくれ」
団員の後を追う父を、慌てて私も追いかける。
行けば、ぐったりとしたフェーデが、ちょうど馬からずり落ちる所だった。
「殿下! どうされました⁉」
落ちたフェーデに駆け寄ると、父は抱き起すが、返事はない。顔は赤く、呼吸も荒く、苦しそうだ。
「急に発熱を訴えられ、なんとかここまで、ご自分で馬を駆られ、戻ってきましたが……。例の病気に罹ったのではないかと、殿下が言われ……」
「ジャスティー、ドヴァル先生を呼んできてくれ!」
「はい!」
私は急いでドヴァル先生のもとへ向かうと、先生はなにごとか、水晶玉に向かって怒鳴っていた。
一大事なので臆することなく、先生に声をかける。
「先生! 来てください! フェーデが……。フェーデが大変なんです! 熱が出て、あの病気に罹ったかもしれません!」
「なんだと? 案内しろ!」
先生が水晶玉を投げ捨てるように放るので、慌てて私は拾い上げると、父のもとへ先生を案内する。
「フェーデ殿下? フェーデ殿下に発熱? あの病に罹ったのか⁉」
水晶玉から知らない男性の声が聞こえる。すぐ返事をしたいが、今は案内することを優先したいので、悪いが無視を決める。
「そこをどけ! 熱はいつからだ⁉」
人だかりに怒鳴りながら道を開けさせ、ドヴァル先生も二人に駆け寄る。
「そんなに時間は経っていないはずです。朝は熱もなく……」
「全員に、定期的に熱を測らせていました。朝、ここを発つ前にも、熱を測らせています。その時、発熱があった者はいません」
父の返事を聞きながら、ドヴァル先生はフェーデの額に手を当てる。
「とにかく運ぶぞ。他に発熱の症状が出た者は?」
「いません」
「先生、この病気はなにで感染するのですか? 接触感染? 飛沫感染?」
「あの当時、ホーベル王国の医師たちも把握していなかったので、分からない。飛沫感染の疑いはあるが、全員が感染するわけでもないから、なんともいえない」
「私が魔法で……。あちらのテントに!」
駆けつけたアコッセさんが、フェーデを魔法で浮かべる。
フェーデは完全に気を失っているのか、先ほどから誰からの呼びかけにも答えない。目を閉じ、苦しそうな呼吸を繰り返している。
私もテントの中に入ろうとするが、父に止められた。ばさりと入口の布が落とされ、目の前で、向こうと断絶される。まるでオーベンスさんが初めて家に来た時、閉じられたドアのよう。大きな隔たりと、拒絶のようだ。
「おい! 誰か返事をしないか! 私は城の医師だ! ここにはリファレント殿下もおられる! 状況を説明しろ!」
「あ……っ」
この時、ようやく手の中の水晶玉を思い出した。
「ドヴァル医師、いないのか? アコッセ副団長?」
リファレント殿下の声も聞こえてきた。いけない! 返事をしないと!
「す、すみませんっ。ドヴァル先生もアコッセさんも、今はここにいません!」
「その声……。ジャスティーか?」
「はい、お久しぶりです、リファレント殿下。
実はあの、フェーデ殿下に、発熱の症状が……。今は気を失われ、呼びかけにも応じず……。でもあの、ドヴァル先生が、薬を、作れると……。材料は、エルフィールで……」
震えながら答える。上手く説明できないが、水晶玉の向こうでリファレント殿下は、黙って話を聞いてくれている。
「エルフィールの多くが燃やされ、失われましたが、フェーデ殿下と、私が……。見つかりにくい場所に、植え替えたエルフィールが、残っているはずで……」
説明しながら、辺りが騒がしいなと、どこか冷めた自分もいた。様々な人がなにかを言いながら走り回っている。
「それを使って、薬を作る予定で……」
あの極端に成長が著しいエルフィールは、はたして薬として使えるのだろうか。
怖い……。もし薬にならなくて、フェーデが助からなかったら? フェーデもあの病気で、死んでしまうの⁉
あの病気の噂は聞いている。脳裏に血を流すフェーデの姿が浮かび、動かなくなった母の姿と重なり、泣きそうになる。
嫌だ……っ。フェーデまで死ぬなんて、絶対に嫌だ!
「ジャスティー、来てくれ」
呼ばれ、水晶玉を抱えたまま、アコッセさんに近寄る。
「間違いないな。エルフィールを燃やし、患者を助ける手段を無くす。それが奴らの狙いだ。武力ではなく、こういうやり方で狙ってきたのだろう」
テントの中から二人の医師が、口元を三角巾でおおい出て来た。
「一刻も早く、エルフィールを採ってきてくれ。投与は早ければ早いほど、効果がある」
「分かりました。他の生息している可能性がある地も調べたいが、人員が足りない。団長と一緒にアボッカセ奪還に向かっている者たちは、そのまま作戦を遂行してもらう。残った人数は奪還作戦中だ、避難場所を守らないとならないから……」
「聞きましたぞ。老いぼれですが、我々も役には立てましょう。これでも拙いが、魔法が使えますのでな」
転移部屋にいる人たちが、近づいて来たと思うと、協力を名乗り出た。
「エルフィールを摘むのに、わしも参加しましょう。飛ぶことができます。他の連中は年寄りですからな、遠出は逆に足手まといになりましょうから、ここで殿下や皆を守りたいと」
ありがたい申し出に、アコッセさんは顔を明るくする。
「ああっ、ぜひとも頼む」
「伝令はどうする? 各地に情報を回せば、どこかでエルフィールを見つけられるかもしれん」
ドヴァル先生の提案に、アコッセさんは駄目だと、首を横に振る。
「それはできません。内通者がいるのは間違いなく、そいつらが見つからない間は、下手に情報を回せば、こちらが薬の製造に、エルフィールを使うと知ったことを知られてしまう。そうすれば次にどんな手を打たれるか……」
「そうなると仕方ないが、この避難場所にいる数人で、摘みに行くしかないのう」
同行を名乗り出た初老の男性も、やれやれと言わんばかりに言う。
「アコッセさん。私も連れて行って下さい」
人手が足りないのであれば、私もフェーデを助ける手伝いをしたい。
迷いなく真っ直ぐ見据え告げると、アコッセさんは逡巡し、父に視線を送る。
父もまた、人数が足りないことを分かっている。苦渋の決断だったのだろう。
「……娘を、頼みます」
やがて項垂れるように、アコッセさんに頭を下げた。
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