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ルーチェの戦い~3~

修正内容:誤字修正

 飛びかかって来る兵士を、意に介することないルーチェが腕を振れば、それに沿って閃光が走る。

 閃光は床に亀裂を走らせ、壁を切り裂くだけでは飽き足らず、城外の建物の屋根の上や、上階部分を切り裂きながら走る。

 直後、走った部分が爆発を起こす。


 鼓膜が破られるような大音量に、ユレントロ国王は顔を歪めながら両目を閉じる。

 音が止み目を開ければ、術者であるルーチェ自身は傷を負わず涼しい顔で立っていた場所から、少しも動いていない。逆に多くのユレントロ王国の兵士は、その姿を消されたか、戦闘不能に陥った。

 残った無傷の兵士は、たった一撃で戦意を喪失させた者が多く、軍隊としての機能を失った。


「ルーチェ、西の方角に魔法具の反応が」

「爆ぜろ」


 再び夫の示した方角に腕を振り、閃光を走らせる。

 二度の爆発により、大きく揺れた城の天井や壁が、早くも崩れ出す。

 城だけではない。城外にまで被害が及んでいることに、ユレントロ国王は、腰を抜かした。

 ルーチェの魔力が高いことは知っていた。彼女に関する噂だって、幾つも聞いたことがある。しかしどの話も尾ひれがついたもので、実際は大したことはないと高を括っていた。それが誤りだったと、認めざるを得なかった。


「こんな……」


 みっともなく口を開けたまま、ルーチェを見上げる。その視線に気がつき冷たい視線を向ければ、国王は息を吸い込みながら、体を震わせた。


「これでも妻は手加減をしていまして。今ほどの攻撃なら、まだ何十発と打てます。ああ、帝国からの応援は、期待されない方がよろしいでしょう。先ほどご覧のように、転送用の魔法具が発動すれば、遠慮なく攻撃します」

「国王陛下には御礼申し上げますわ。視察と銘打って、様々な場所に案内いただけましたから。おかげで、どの地域にどれだけの人が暮らし、どういう建物が配置されているのか。よく知ることができました」


 優雅に礼をするルーチェの言葉に、鈍く回転する脳を動かし、やっとユレントロ国王は気がついた。

 こちらが足留めをしているつもりが、それを利用し、町の実態を深く知っていたのだと。


「ルーチェ、南西」

「爆ぜろ」


 コベルタ侯爵が言う通り、なにか問題が起きれば、帝国側が魔法具を使い、応援部隊を送る手筈となっていた。

 開戦の知らせを臣下が行ったのだろう。だから兵を送ろうと、魔法具が発動しているに違いない。

 それなのに、なぜか魔法具が設置された場所を把握しているコベルタ侯爵の合図で、ルーチェが攻撃しては、転送が失敗に終わっている。


「……魔法具の設置場所も、探っていたのか?」

「残念ながら違います。私はろくに魔法を使えませんが、魔力を感知する力だけが、長けています。それが魔法具だろうと、発動すれば分かるのです。それも応援部隊を送れるほど、強い魔力を用いて作られた魔法具なら、余計に分かりやすい」


 地味な顔をした侯爵は、平然と言ってのけるが、魔法具の発動を感知できる者がいると、国王はこれまで聞いたことがなかった。

 そんな馬鹿なという思いはあるが、事実、的確に場所を言い当てていることから、嘘ではないと分かる。

 フレイブ王国は、稀有な魔法を使える者も多いと知っていたが、こんな能力を持つ者もいようとは。帝国すら予想していなかったに違いない。


「ルーチェ、下の階から魔力を感じる。攻撃魔法を使うようだ」

「まあ。まだ国王が避難していないのに、この部屋を狙っているのかしら」


 大げさに驚くルーチェに比べ、国王は慌てた様子で水晶玉を取り出すと、それに向かって叫ぶ。


「ば、馬鹿者! まだ私がいるのだぞ! すぐに攻撃を止めい!」


 水晶玉の向こうは、魔法を使える臣下と繋がっている。彼らはまさに階下に潜んでおり、国王からの攻撃の合図を待っていたはずなのに……。臣下からの返事は、信じられないものだった。


「しかし帝国が、今すぐ攻撃しないと、従属国を我が国に攻め入らせると! 国王の無事は保障するので、問題ないと! ユレントロ王国に兵力を送れる魔法具も、配置していると言われ!」

「馬鹿な! 魔法具の設置は、我が国への援軍目的であって……!」


 ころん。


 ある考えに至った国王の手から、水晶玉が落ちる。


「……最初から、従属国を送り、侵略するのが目的だったのか……? 転送されてくる兵も、援軍ではなく、侵略目的……?」


 転がった水晶玉はルーチェの足元まで転がると、ぶつかり、動きを止めた。

 足元の水晶玉を見ることなく、ルーチェは尋ねる。


「ユレントロ国王陛下。あなたは一体、なにを守ろうとされたの? 国民? 国? それとも、ご自身? もし国民や国を守りたかったのなら、なぜ浅慮な選択をしたのかしら」

「国王に申し上げます! 現在フレイブ王国の連盟国が……! 城を取り囲んでいます!」


 落ちた水晶玉は、ルーチェの溢れる魔力の影響で、まだ通信が繋がっていた。その水晶玉から聞こえた言葉に、ユレントロ国王は首を傾げる。


「なに……?」


 それから、この短時間で老けた顔を、穴の開いた壁の向こうへ向ければ、水晶玉に映されていた面々が宙に浮かび、城を取り囲む姿が見えた。


「転移、してきたのか……」

「いいえ。彼らはずっとこの国に潜んでいました。帰ったと見せかけ、この時を待っていただけです」


 フレイブ王国の連盟に参加表明した面々は、ルーチェに及ばないものの、多くが攻撃魔法に特化している。一人の化け物だけでも手一杯なのに、さらに難敵が増えたということか。

 ユレントロ国王は自嘲する。

 帝国の思惑にも気がつかない。フレイブ王国の覚悟にも気がつかない。なんと自分は愚かだろう。敵は帝国だけだと思いこみ、帝国からの脅威がなくなれば、安寧の時代に入ると早合点してしまった。その結果……。


「北の方角に魔法具の反応! 少し遠い! 誰か向かってくれないか⁉」

「承知しました。そこは私が向かいましょう」


 コベルタ侯爵の声に承知したのは、一人の王子だった。その後を援護すると、年配の国王が続く。


「ルーチェ、南東!」

「爆ぜろ」

「……めて、くれ」


 穴の開いた壁の向こうでは、町が燃えていた。

 ここは城の上階。こんなにはっきりと聞こえるはずがないのに、民の泣き叫ぶ声が、国王の耳にはしっかりと届いていた。


 つう……。自然と国王の両目から、涙が流れる。


 その間に、四度の攻撃で、これ以上は城が持たないと判断したルーチェたちは、開いた壁から外に飛び出す。

 天井から石が一つ、また一つ、落ちる。それは小石から次第に岩かと思うほど、大きくなっていく。

 逃げることもなく、国王は涙を流し続け、ただ燃える国を見つめていた。

 国王を守る責務を持つ兵も、己の命が大事だと、早々に逃げ出している。

 これが、自分の王としての……。


「……なんにも守れていないし、なんにも残らないのだな」


 力不足の結果と、国王として、民から信頼を得られなかった光景。


「おや驚いた。城内に、巨大な魔法具の反応だ。これほどの規模は、転送だな」


 ゼーベルがそう言った直後、国王が座りこんでいる亀裂の入った床下から、眩しい光が差しこんだ。

お読み下さり、ありがとうございます。

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