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ドヴァルの怒り

ブクマ登録、ありがとうございます!


今回からしばらく、三人称となります。

「ドヴァル医師? どういうことだ?」


 城でアコッセからの報告を受けたリファレントは、なぜ城を辞め、旅に出たドヴァルの名が出て来るのかと、まず面食らった。

 理由を聞き、医師が必要だと駆けつける辺りは、彼らしいなと感心する。怒りっぽい人物だが、医師としての信念を貫く姿勢は、変わっておらず良かったとも思う。


「なるほど、そういうことか。死亡者を省き、初期症状が風邪かどうか見極められないので、彼らも患者の数に入れて答えよう。現在の患者の数は、およそ五千人」


 その人数を聞き、改めて病の恐ろしさを、アコッセは思い知らされた。隣町の人口が、約三千人。アボッカセは、約四千人。二つの町、それぞれの人口を超える患者の人数に、震える。

 幸いアボッカセ周辺では、まだ蔓延していないが、いつ広まってもおかしくないと言われていた。誘拐された被害者の一人も病気に罹った理由が、犯人から感染したのか、もとより感染していたのか、掴めていない。


「おい、アコッセ。ちょっと変われ」


 アコッセの背後から、ぬっと現れたのは、ドヴァルだった。


「この水晶玉の向こうには、誰がいる?」


 不機嫌そうな声だ。こういう時は逆らわないに限ると、アコッセも知っている。


「リファレント殿下です」

「そうか。久しぶりにございます、リファレント殿下。ドヴァルにございます。早速で申し訳ありませんが、城にいる医師を、誰でもいい。ちょっと呼んで下さらんか。話がある」


 リファレントにはドヴァルの声しか聞こえていないが、怒りを含んでいるのは明らかだった。

 城に勤めている頃は毎日のよう、弟子や部下を叱責していたが、今回もそれが起きそうだなと思いつつ、ドヴァルの後任を呼ぶよう、控えている側近に伝える。


「殿下、エルフィールですが……。ジャスティーがフェーデ殿下と、燃やされるのはかわいそうだからと、見つかりにくい場所に植え替えていたそうです。そこなら今も、生えているかもしれないという話です。しかし、妙に成長しているらしく」

「妙に?」

「背丈が異様に高く、種も大きいと。エルフィールの品種には違いないでしょうが、変異した可能性があり、薬を作っても効果があるか分かりません。しかもそこへ行くには、空を飛べないと難しいらしく……。誰か魔法使いと摘みに行きたいので、魔法使いを寄越して頂きたい」

「それならば、私が行きましょう」


 隣に立つアコッセが名乗り出た。


「ここ数年、私も魔法の鍛練を積みました。それなら、問題なく遂行できます。私がこの場を離れても、団長が近くにいるので、混乱も起きないでしょう。また班長のオードルが現在、こちらに向かっています。彼になら、私の留守を任せられます」


 すぐに動ける魔法使いは限られている。しかも任務を遂行できるとなれば、さらに絞られる。確かにアコッセが一番適任であった。

 その基地から離れさせることに抵抗はあるが、患者の命がかかっている。悩む暇はなく、リファレントは即決せざるを得なかった。


「分かった。アコッセ、すぐに別部隊を率い、エルフィールの摘みに行くように。ドヴァル医師はアコッセが戻り次第、すぐ薬を作ってくれ」

「はっ」


 部隊編成のため、その場をアコッセが離れようとすると、慌てたようにドヴァルが叫ぶ。


「待て、アコッセ! お前が離れたら、この通信が途切れんか⁉ 途切れれば、あやつらに活を入れられんではないか!」

「それなら私が魔力を注いでいるので、問題ない。アコッセ副団長がいなくとも、通信は行える」


 リファレントの返事に、ドヴァルは安心したように頷いた。

 リファレントにとっても、未知の病だと慌てふためき、先人の資料を調べようとしなかった医師たちに、ドヴァルから活を入れてもらいたかった。

 なんのため、ドヴァルが資料を残して城を去ったのか、もっと考えてもらいたいものだ。ただ口やかましい人物がいなくなったと、ぬるま湯生活を送られては困る。


「リファレント殿下、お呼びでしょうか」


 聴き慣れた弟子の声が聞こえ、ドヴァルは大きく息を吸い込んだ。その音を聞いたリファレントは、すぐさま水晶玉を医師に渡すと、両耳を塞ぐ。


「この! うつけ者があぁぁぁぁぁ‼」


 ドヴァルの怒声が響き渡った。


◇◇◇◇◇


「国王陛下。急なことではありますが、フレイブ王国が襲撃を受けたと、一報が入りました。すぐにでもこちらを発ち、国に帰ろうと思いますので、そのご挨拶に伺いました」


 国王に謁見を申し込んだルーチェの夫、ゼーベル・コベルタ侯爵が、神妙な顔つきで告げる。彼の隣のルーチェもまた、国を案じている顔を作って神妙に立っていた。


「ほう、襲撃ですか。それは大変ですな。しかしそうなると帰るより、我が国で滞在を続けられた方が、安全ではありませんか?」

「安全、ではありましょう。ですが国の一大事、放ってはおけません」

「どうしても?」

「はい」

「それは困りましたな」


 そう言いながら国王が指を鳴らすと、軍服に身を包んだ者たちが、扉からなだれ込んできた。

 全員が武器を構えており、その切っ先を迷うことなく、侯爵夫婦に向ける。


「まあ、国王陛下。これは一体、何事でしょう」


 驚いたようにルーチェは声をあげ、ゼーベルに怖がっている様にしがみつくが、予想していたこと。驚いたふりをしているだけだ。


「申し訳ないが二人には、もうしばらくこの国に留まってもらおう。なに、それさえ呑んで頂ければ、手荒な真似はしないとも」

「武器を向けながら、手荒な真似をしないと言われましても……。説得力がありませんわ」


 嫌がるように首を振るルーチェはか弱く見え、山を崩した話は、ただの誇張された噂話だと、ユレントロ国王は楽観した。

 兵団にも入団したそうだが、どうせお飾りの広告塔に違いない。見た目が美しく、国王の娘であるルーチェなら、さぞや良い広告塔になっていることだろう。我が国も見習うべきかなと、場違いなことまで考える始末だった。


「どうして私たちを留まらせる必要があるのでしょう。フレイブ王国は、ホーベル王国から襲撃を受けたようです。ユレントロ王国は、ホーベル王国と手を組まれているのでしょうか?」

「まさか」


 ゼーベルの問いかけに笑って否定する。


「では、インバーション帝国?」


 頬に手を当て、笑顔で首を傾けるルーチェの問いに、国王は答えを失う。

 なぜだろう。急に怖がっていたはずのルーチェが、別人のように変わった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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