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エルフィールと風土病

「ホーベル王国の風土病?」


 父が瞬きを繰り返す。


「ああ。私が若い頃、ホーベル王国へ研修に出かけた際、教わった病気だ。実際に末期症状の患者も診たが、その症状に似ている。その病気はホーベル王国全土で確認されているが、フレイブ王国の……。特にアボッカセに近い国境付近ほど患者は助かり、離れた土地ほど致死率も高くなる」

「なぜ土地で違うのですか?」

「薬を作るための薬草が手に入りにくいか、そうでないかの違いだ」

「薬があるのですか⁉」


 父が驚きの声をあげる。


「あるとも。原料となる薬草は、アボッカセ周辺と、その国境向かい側にしか生息していない植物でな。他の地で栽培しようにも、なぜか育たん。薬草を入手しやすい、この付近の者は、助かりやすいということだ。薬を投与すれば、末期症状まで進行していようと、脳に後遺症が残らず助かる場合もある」

「フェーデ殿下が仰るには、城の医師はいまだ薬を作れていないそうです。先生、その薬の作り方を知っていたら、ぜひ彼らに……」

「なんだと⁉」


 またもドヴァル先生は、その顔を怒りで染める。怒りの沸点が低い人だなと思う。


「私はあいつらに、その病気について話したことがあるぞ! 隣国との交流が盛んになれば、風土病だったはずの病が入りこむ場合もあるとな! 病について記した資料も残してきた! それを忘れているのか、あの馬鹿どもは! ファイオス、お前もだ! お前にもこの話を聞かせたことがあるぞ! 忘れたのか⁉」

「す、すみません……」

「まったく、どいつもこいつも! ちょうどいい。薬の作り方を、お前にも教えてやる。エルフィールはどこに生えている?」

「エルフィール?」


 思ってもいなかった植物の名に、父と私の声が重なる。


「エルフィールなら、すぐ分かるだろうが! 光って種を飛ばす、あれだ!」

「いや、エルフィールなら知って……。ああ、そうか! エルフィールの話を聞いた時、似たような話を聞いたことがあると思った! そうだ、先生から聞いたことがある! 光って種を飛ばす薬草があると!」


 思い出したのか、父は大声をあげる。

 そう言えば、初めてレイネスさんからエルフィールの種飛ばしの話を聞いた時、父はどこかで聞いたような気がすると話していた。


「思い出したか。なら、さっさとエルフィールを摘んで来い」

「先生、この辺りのエルフィールは、燃やされて生えていません」

「なんだと?」


 私の言葉に、先生は眉をひそめる。


「フェーデと調べたことがあります。この避難場所周辺に咲いていたエルフィールは、何者かに燃やされ、生えている所はありません」

「なら、どこに生えている? エルフィールがなければ、薬が作れんぞ」

「多く残っているのは、町に隣接する辺りだけです」


 私の答えを聞き、ドヴァル先生は口元に拳を当て、なにかを考え出すと、やがて確かめるように口を開いた。


「……何者かに燃やされた、と言ったか?」

「はい。どう見ても、そうとしか思えない状態でした。エルフィールが生えていた所だけ焦土と化し、他の植物は無事だったので」

「それではまるで、風土病を流行らせたい何者かが、患者に薬を与えんために、エルフィールを燃やしたようじゃないか」


 先生の言葉に、思わずあっと声をあげる。誰かが意図的に燃やしているとは思っていたけれど……。まさか……⁉


「まずいな。ひょっとしたら襲撃者の目的は、アボッカセ侵略というより、エルフィールの殲滅ではないのか? 病が流行し、こちらが薬にたどり着く前にエルフィールを無くせば、患者に溢れたフレイブ王国は、勝手に衰退を辿る。もしもそこを攻撃されてみろ、勝てる戦も勝てん。向こうには薬があるから、病に臆することなく乗り込んで来れるしな」


 ドヴァル先生の言葉に、私たち親子は顔を見合わせる。

 想像するだけで、恐ろしい状況だ。


「戦争にならないとしてもだ。フレイブ王国がエルフィールを失えば、今や帝国の従属国になったホーベル王国に、エルフィールを分けてもらうしか策がなくなる。そうすれば彼奴ら、どんな要求をしてくるか分からんぞ。下手をすれば、フレイブ王国も帝国の従属国に成りかねん」

「先生、すぐアコッセ様に知らせましょう!」

「おう」


 走り出した二人の後を、私も追いかけた。

 まさかエルフィールが燃やされていたことが、国の存亡に関わるだなんて……。あの幻想的な花が薬の原料になるなんて、思いもしなかった。


◇◇◇◇◇


 アコッセさんは二人の医師からの報告を受け、すぐに現場のアローンさんへ、確認の連絡を入れる。


「こちらの作戦は順調だが、確かに町外も燃やされている。そこは主に……。エルフィールの生えていた場所に、相違ない」


 苦々しいアローンさんの答えに、やはりと、二人の医師の顔が険しくなる。ドヴァル先生の読みは当たっていると、この場に居合わせている全員が思った。


「ジャスティー、他に生えている場所を知らないか⁉」


 焦った様子の父に問われ、アコッセさんから周辺の地図を借りると、何ヶ所かに丸を付ける。


「少しだけなら、残っていた場所もあるけれど、今も無事かどうかは分からない。町の周辺以外、目立って光っていたのは、これくらいで……。見逃すほど生息範囲が狭い場所は、分かりません」

「エルフィールが燃やされているという報告を、殿下から受けていたが……。まさか病気を王国に蔓延させるため、薬を作らせない裏があったとは……」


 アコッセさんも動揺している。


「患者の数は? 残っているエルフィールの量で、足りるか知りたい」

「すぐ城に確認を行います!」


 地図を眺めながら腕を組むドヴァル先生は、大きく息を吐く。


「……これだけしか残っていないとはな。昔はもっと多くの場所に、広く分布されていたはずだ。これでは患者を全員助けることは、厳しいだろう。燃やされだしたのは、いつ頃からだ?」

「二年前……。それ以前からだと思います。二年前の種飛ばしの時、燃やされていることに気がついたので」

「二年以上も前か……。どれだけの時間をかけて、この状況を狙っていやがったんだか。調べればきっと、最初の患者もホーベル王国に関与している者と、分かるだろう」


 髪の毛のない頭を先生はかきむしる。


「帝国なんかと取引は避けたいが、患者を見捨てたくもない。まずいぞ、どうすればいいんだっ。他に効く薬草はない病気なんだぞ!」

「でも……。あの……」


 フェーデと二人で植え替えた、秘密の場所。誰にも教えないとフェーデと約束していたけれど、薬で使うのだから……。ここで教えても、彼ならきっと許してくれる。

 一瞬言い淀んだが、私は決心すると、打ち明けた。


「ルーチェの形跡に植え替えたエルフィールなら、きっと無事だと思います」

お読み下さり、ありがとうございます。

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