再会前
平成30年、最後の更新です。
テントを出ると、アローンが入口のすぐ横に立っていた。
「……聞こえたか?」
「はい」
「知っていたか?」
「いいえ、知りませんでした。きっとレイネスも、教えてもらっていないでしょう」
二人は並んで歩き、人気のない場所に向かう。
「入れ墨を行うのは、希望する結婚を企む場合だけだと思っていたが……。結婚させたくないから、行うとはな……。正直、考えていなかった」
「もとより、親許から子を引き離すやり方に、異議を唱える者は多くおります。それなのに問題を放置してきた付けが、回ってきたのでしょう。とはいえ、当代はお二人も運命の相手が、貴族ではありませんでしたが、時代によっては一人もいませんから。本腰を入れ、議論されなかったのも、仕方のないことでしょう。
きっと入れ墨の知恵は、モディーンが夫に授けたに違いありません。私がその話を聞かせたことがありますので」
「そうか」
見上げれば太陽は沈み、多くの星が輝いていた。
「許されないことと分かっていますが、私には彼らの気持ちが理解できます。ゼバルの手により引き離されたことで、余計に手放したくなかった気持ちも。殺されかけたので、ずっと側で娘を守りたいと思う気持ちも。ですから殿下、どうかファイオス殿に恩情を……」
フェーデも、ファイオスたちに同情する気持ちはある。だが、もっと早く知っていれば……。国王である父に、親許から離さないよう、交渉もできたのに……。秘密を打ち明けるほど、信頼されていなかったのかと思うと、悔しかった。
「アローン団長……。少し、一人にしてくれないか」
「……はい」
一人になったフェーデは、ジャスティーとの出会いからを、思い出す。
自分を王子と知らず出会った彼女は、純粋な瞳で絵を褒めてきた。彼女の似顔絵を描いている時間は、まるで二人きりのようで、幸せな時間だった。
再会した時は、ゼバルの思惑通りに彼女が動いているのではと、疑いを抱いてしまった。それは誤解で、ゼバルから虐待を受けていたと知り、己もゼバルも許せなかった。
二人で空を飛んだ時、あれほど緊張して嬉しいことはなかった。高鳴る心臓の音が、密着したので彼女に知られるのではと、怖いくらいだった。
自分の気持ちを彼女に伝えなかったのは、運命の相手ではなかったから。ただ、それだけ。いつか自分は彼女以外の誰かと結婚するのだから、一生告げる気はなかった。
折に触れてはあの時見た偽物のナンバーが、頭をちらつき、ジャスティーを思っても無駄だと囁かれているようだった。それがまさか……。
「は、はは……っ」
腰を下ろし、笑う。嬉しいのに、騙されていた怒りもあり……。なんの笑いなのか、自分でも分からない。
ただ無性に、ジャスティーに会いたかった。
自分が運命の相手だと、今まで思いもしなかっただろう。この事実を知ったら、彼女はどんな反応を見せるのか。喜んでくれるだろうか、それとも……。自惚れでなければ、きっと彼女も……。
「……いや。それよりもまず、アボッカセ奪還だ。陛下の命を忘れるな、フェーデ」
頭を振り、立ち上がる。
それでも、いつどうやって彼女に伝えよう。そう考えると、自然に顔が綻ぶ。
城で待つ家族に、アボッカセ奪還と一緒に、運命の相手が見つかったと、二つの朗報を持ち帰りたいと思った。
◇◇◇◇◇
結局夜になるまで、私は一人、岩影に座りこんでいた。
辺りが真っ暗になり、ようやくのそのそと立ち上がる。テントに戻ると、ドヴァル先生は蝋燭の灯りの中、一人で診察を行っていた。
「遅かったな。もうお前の出番はないぞ。この患者が最後だ」
「先生、私……。兵団に入りたいんです。だから先生のように、ただ人を助けるだけじゃなく、時に人を傷つける人間になるんです」
「団員なら、敵を斬ることがある。当たり前だ」
包帯を素早く巻き終えると、先生は大きく伸びをする。
「なんだ? そんな自分だから、医療行為を手伝うにはふさわしくないとでも言いたいのか? だから、私の手伝いはできんと、そう言いたいのか?」
「………………」
「もう少し自分の考えをまとめてから、言ってこい。そういう所は、父親にそっくりだな。顔はモディーンなのに、面白いものだ。本当にお前は、あの二人の子どもだ」
そう言うと、愉快そうに笑う。
「明日も移動するぞ。そろそろアコッセたちのもとへ行き、指示を貰おう。どの避難場所で医師を必要としているのか、本拠地も把握した頃だろ。あとお前、これを着けろ」
それは医療関係者の身分を示す、世界連合が配っている腕章だった。以前父に見せてもらったことがある。有事の際、これを身に着けていれば、簡単に敵に殺されることはないとも話していた。
「安心しろ、自分のも持っている」
そう言うと先生は、もう一つ取り出した腕章を着ける。
「戦場などで助手を連れて歩くため、医師には何枚も配られている。今回の襲撃者が、医療関係者にどれだけ敬意を払うかは知らんが、ないよりましだろう。お前になにかあれば、私はファイオスに殺されてしまう」
「……ありがとう、ございます」
「今日はもう休め。起きたらアコッセのいる本拠地まで、敵に怯えながら歩く。明日は音を上げるなよ」
お読み下さり、ありがとうございます。
まさかの風邪をひいての年越しになろうとは、予想外。
声が出ない……。
さて、今年は初めてこの作品で、なろう様への投稿を始めました。
途中、やべぇ……。このペースだと、終わりが見えない……。最終回まで何年かかるんだ? と焦り、下書きをノートに手書きから、パソコンへ直接入力に変え、ペースを上げるようにしました。
気がつけば100話も越え、105話目です。
来年は、最終回まできちんと書き終える! を目標に、頑張っていきます。
初投稿の拙い作品ですが、ブクマ登録や評価を頂け、励みになっております。もちろん目を通して頂けるだけでも、頑張る気持ちが湧くほど、喜んでおります。
本当にありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。




