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震える唇

今回は次回の内容との区切りのため、短いです。すみません。

あと後書きに、訂正を掲載していますので、そちらも一読頂けたらと思います。よろしくお願いいたします。

「気を失うなよ、ジャスティー」


 翌日、次の避難場所で、足を切る手術の手伝いをすることに……。

 これまで手術に立ち会ったことなどなく、術中、何度もこみあげてくるものがあったが、頑張って堪えた。

 もちろん手伝うといっても、その内容は、言われた道具を渡したり、先生の汗を拭いたりするくらい。

 難しくなく、助かるから手伝えと言われ、引き受けたけれど……。


「縫合終了。足は遠くで深く埋めておけ。野生の動物が食いに来て、そのまま避難場所をうろつかれたら面倒だ」


 どん! と用意していた台の上に切った足を置かれ、思ったより軽く、驚いた。

 言われた通り、足は避難場所から離れた所に、深く掘った穴の中へ埋める。遺体を埋めた訳ではないのに、土をかぶせた後、手を合わせてしまった。


 血で濡れた台を持って避難場所へ戻ると、ドヴァル先生はもう、別の患者を診ていた。

 この人は、疲れを知らないのだろうか……。

 ふらふらとした足取りで戻ると、鼻を鳴らされた。


「ふんっ。なんだ、ふらふらして情けない。だが気絶しなかっただけ、褒めてやる。初めて手術に立ち会った時、気絶する奴なんざ、珍しくないからな」

「情けないって……」


 昨日から容赦なくこき使われ、手術に付き合わされ……。ついに音を上げた私は、台を叩きつけるように机の上に置き、叫んだ。


「私は看護婦じゃないもの! 医師でもない! あんな手術を初めて見て、なんとも思わないわけないじゃない! 私はお父さんと違うもの!」

「そうか。なら好きなだけ、そこらで腐っていろ。べそべそ母の死に、泣き続ければいい」

「な……っ」


 ぶるぶる怒りで体が震える。そんな言い方……っ。

 私は堪らず、テントを飛び出した。


「あっ、おい! ジャスティー!」


 入れ違いでテントに入ろうとした団員が、駆け抜けた私に声をかけるが、無視した。

 私だって、泣かないように我慢して……っ。お母さんが私をかばって亡くなったなんて、考えたくなくて……!


「うっ。ふ……っ」


 避難場所から離れた岩陰に、一人になると泣く。


「ジャスティー」


 声をかけてきたのは、ラウルの父親、オードルさんだった。

 オードルさんたちが盗賊の討伐を終え、そこから一番近いこの避難場所に着いたのは、昨日のことだと聞いている。


「聞いたぞ、母親のこと。残念だったな」


 そう言いながら彼は、私の隣に腰を下ろす。


「ふっ……、ぐすっ……」


 泣き止まないと。分かっているのに、涙は止まらない。


「我慢していたんだろう? 泣きたければ、泣けばいい。だけどな……。多分、あの先生。方法はあれだが、あの人なりに、お前が母親のことを考えさせないよう、気を使っているんじゃないか?」


 意味が分からなかった。両目をこする私の頭を、オードルさんは叩く。


「他のことに集中していたら、その間、嫌なことを考えなくてすむだろう? そうやって、母親のことを考えて、泣かないようにしてくれたんじゃないのか? まっ、かなり乱暴なやり方だがな」


 ははっ、とオードルさんは笑う。

 そうだろうか……。確かに母のことを忘れられたけれど……。あの先生は、人使いが荒いだけな気がする。

 すっかり私の中では、ドヴァル先生の印象は最悪なものとなっている。だからオードルさんの言葉を、素直に聞き入れられない。


「俺なんか手術に立ち会ったら、ぶっ倒れるだろうな。傷なんて見慣れているけどさ、さっきお前が運んでいたのを見て、違うと思った。俺たち団員と医師は、同じ『きる』でも、全然違う。人を助けるために『きる』のも同じなのに、こうも違うとはな……」

「……私も、襲撃者を斬って……」


 今になってその感覚が蘇えり、震える手を見つめる。

 あんなに簡単に、人は傷つく。そして命を落とす。隠し持っている短剣が、ずしりと重くなる。

 入団して団員になれば、これからもっと、あんな場面は増える。誰かを守るはずなのに、誰かを斬る。誰かの命を奪う。

 急に怖くなってきた。


「わ、私……。お母さんを、助けようと……」

「人を初めて斬れば、大抵の奴が、今のお前と同じ気持ちになる。俺だっていまだに、誰も傷つけず、物事を平和に解決したいと思う。それもこうなっちゃあ、無理な話ってもんだが。

 ……次に同じような状況に陥り、人を斬れなかったら……。兵団入りは諦めろ、ジャスティー」


 震えが止まる。

 ゆっくり隣に座っているオードルさんに視線を向ければ、真剣な目で私を見ていた。


「人を傷つけることに恐れていては、団員として戦えない」

「あ……、う……」

「敵の命を絶対に奪えとまでは、言わない。傷つけず、相手に敗北を認めさせるのは、容易じゃない。今のお前に、そんな力はない」


 そう言うと、オードルさんは立ち上がり、最後に私の肩を叩くと皆のいる方へ向かった。

 残された私は膝を強く抱え、瞬きを忘れたように、ただ地面を見続けた。

 泣かないよう、震える唇を強く結びながら……。

お読み下さり、ありがとうございます。


避難場所について、これまで方角を誤っていたので、お詫びと訂正を申し上げます。

ジャスティーたちのいる、医師のいない地域が北で、医師が足りているのが、南でした。

ドヴァルが旅をしていたのも、南ではなく、北です。

王都からアボッカセの位置など、決めてはいましたが、途中、大丈夫! 設定は頭の中に入っていて、理解しているもの! と慢心し、メモを確認しなかったことで、方角を逆にしていました。

大変申し訳ございませんでした。

今後は気をつけてまいりますので、よろしくお願いいたします。

(これまでの投稿済みの話についての、方角の修正は、終了しております)

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