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メッチェルの思惑

 捕らえられた犯人たちは全員縄で縛られ、フェーデとアローンの前に並べられる。


 捕らえられていた人質は、医療知識のある団員が、健康状態を確認しており、この場にはいない。

 幸い発熱の症状が出ているのは、少女一人だけ。それでも全員、症状が現れていないだけで、感染している可能性は残されていた。

 早く家に帰り、家族に会いたいだろうが、全員しばらくこの屋敷で暮らしてもらうことに決まった。苦渋の決断だが、病気の怖さを知っているからか、異論はなかった。


 発熱の症状が出た少女は、窓辺に置かれたまま。迂闊に近寄り、感染するわけにはいかなかった。

 せめてもと、魔法で飲み物や食料、布団など必用なものは届けている。患者自身も状況を分かっているのか、ただ元気がないだけなのか、不満を口にすることはない。

 ただ一つだけ、少女は願った。家族に会いたい、と。

 最期の願いはと、現在、団員の一人が家族を迎えに行っている。


「もとより人質を無事に帰すつもりは、なかったようだな」


 鋭い眼光で見下ろすアローンに視線を向けることなく、犯人の一人がしどろもどろに答える。


「そんなことは……。連絡があれば、全員無事に解放するつもりで……」

「嘘を言うな! 罹れば命を落とす病気の患者と同室にし、全員、感染させようとしたのだろう⁉」


 アローンの大声に、全員が震え上がる。


「お、俺たちは、ただ指示されただけで……」

「最初から言われていたんです。もしも体調が悪くなった奴が出たら、人質と同じ部屋にして、人質に世話をさせろって」

「……あの患者は、ここに来る前から体調が悪かったのか?」

「途中からだ。最初は病人だと思わなかった。だって誰もが、食う物に困っているんだ。顔色が悪いなんて、今のホーベル王国で珍しいことじゃない」


 確かに犯人たちは全員、やつれている。


「だから顔色が悪かったけど、こいつも食う物に困っているんだな。くらいしか思わなくて……」

「こいつも? お前らは、寄せ集めなのか?」

「あの亡くなった奴だけ違う。他は全員、同じ町の出身だ」


 捕まって観念したのか、質問をすれば誰かが答えてくれるので、楽な尋問だった。

 だが、奇妙な返答に、フェーデとアローンは一瞬視線を交わす。


「亡くなった男は、どうやってお前たちの仲間になった?」

「指示を受けた時、一緒に連れて行くようにと言われたんだ」

「さっきも言ったが、最初は病人だと思わなかった。でも、ここに向かっている間、熱が出て、見る見る具合が悪くなって……」

「お前たち、あの病気を知らないのか?」

「知ってはいるが……」


 罹ればほぼ命を落とすというのに、彼らは怖がっている様子がない。


「薬が手元になかったから、亡くなったのは仕方ない」

「薬があれば、助かっただろうにな……。いや、死んだ方がましかもな」


 特効薬がないという意味だろうと、話を聞いているフレイブ王国の面々は思った。どうやらホーベル王国では、この病気に罹れば、仕方ないと諦めているようだった。


「指示を受けたと言ったが、誰に頼まれた?」

「領主様の使いだ。見たことがない奴だったが、領主様の紋章が入った馬車で来たから、間違いない」


 数少ない密偵からの連絡によれば、多くの領主が地位を奪われ、インバーション帝国の者にとって代わられたはず。その使いも帝国の人間に違いないと、アローンは考える。


「そいつが言ったんだ。ホーベル王国は滅んだから、帝国に忠誠を誓えと。それ以外はなにも変わらないと言っていたから、領主も変わっていないはずだ」


 随分とお気楽な思考だと、フェーデは呆れた。

 国そのものが生まれ変わるのだ、それも帝国の従属国として。そんな状況で、なぜ領主が変わっていないと思えるのか、理解に苦しんだ。


「その使いは、どんな奴だった?」

「太った男だ」

「服装は?」

「身なりは良かった。こっちは食う物に困っているのに、あいつ、ぶくぶく太っていやがって……。顔色も良かったし、食う物に困ってないはずだ……っ」


 その男を思い出したのか、多くの者の目に険が宿る。

 太っている男。そんな者は、世の中に大勢いる。だが、予感があった。

 アローンは持ち歩いている、例のメッチェルが写っていた新聞の切り抜きを見せる。


「この男か?」


 新聞の写真を見た全員が、そうだと声をあげる。


「こいつだ! こいつで間違いない!」

「こいつが、あの病人を連れて来たんだ!」

「なに?」


 メッチェルに意図があることは、間違いない。病人をフレイブ王国に送り、病気を蔓延させようとしたのだろう。団員の間で病が広がれば、戦力を失う。

 そうすることで、侵略を行いやすい状況を作るのかもしれないと、アローンは推測する。


「……その隙を狙うつもりかもしれないな」


 フェーデの言葉に、アローン頷く。二人とも、同じ推測を導き出していた。


◇◇◇◇◇


「そう、良かったわ。一応、全員救出できましたのね。後はその病気に罹っていなければ、万々歳ですけれど。これで私も遠慮なく動けますわ。ご報告ありがとう、お兄様」


 通信を終えると、側にいた夫が、『今日かい?』と尋ねてきた。


「まだよ。相変わらず襲撃者が、アボッカセを闊歩しているから。でも、もうすぐフェーデとアローン様が、アコッセ様と合流するそうですから、そうすれば、アボッカセ奪還もすぐ終わるでしょう。その時が、私の出番ですわ」

「幸いこの国は、君を引き止めようと躍起になっている。いくら滞在してもいいようにと、視察先を沢山紹介してくれたり……。いくらでも滞在する理由を作ってくれ、ありがたいことだね」


 届けられたワインを開け、香りを嗅ぐ夫の言葉に同意する。


「本当ですわね。おかげでいろいろ把握でき、助かっています」

「ふふっ。君が視察にどんな意味をこめているのかを知ったら、この国の王はさぞ驚くだろうね。自分で自分の首を絞めたのだから」


 敵から贈られたワインに、手を付ける愚かな夫婦ではない。侯爵は香りだけ楽しむと、近くの植木鉢に中身を捨てる。

 何が入っているか分からないものに、手をつけると思われているとは……。

 随分とみくびられているものだと、苦笑する。

 この地味な顔は威圧感がなく、そのせいか、ルーチェの尻に引かれているだけの男と、よく思われる。

 だがマシェットのように彼もまた、稀有な魔法を使えるのだが、それを知る者は多くない。

お読み下さり、ありがとうございます。

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