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異世界事件簿 双月にほえろ!  作者: おっこの
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第三話 ログ・アナライズ(ジン:初日)

 宵の口の薄闇が、路地裏を緩やかに包み込んでいる。 先ほど顔をだした二つの月はすでに厚い雲に隠れ、漂う湿気が死体から溢れる血の匂いを強調していた。


 先ほどまで死体に驚いて腰を抜かしていた美少女が、ショックから立ち直ろうと震える足で立ち上がり、そのままうつ伏せに倒れる男へ近づこうとする。


「死体に近づくな。 鑑識が来るまで現場を荒らさない方がいい」


 葛城は低い声で彼女を制した。 叩き上げの刑事に染みついた習性が、反射的に口をついて出る。


「カンシキ……? と、とにかく本当に死んでるか確認しないと……!」


「分かった。 俺がやる」


「っちょ、ちょっとあなたなんなのですか……!?」


 混乱する少女の問いには答えず、葛城は長年の現場鑑識で培った手慣れた手つきで死体へと膝をついた。 首筋に二本の指を当てて脈拍を確認し、同時に口元へ耳を近づける。 息はない。 体温も急速に失われつつあった。 死亡していると判断して間違いない。


 背中に深く突き刺さっている不気味なダガーが直接の凶器に見えるが、ただの刺殺ではない。 傷口から揺らめく紫色の靄のようなものが立ち上がっているのだ。 さらに首筋を検分すれば、黒い血管の跡が浮き出ており、半開きになった口から覗く舌は異常な紫黒色に変色していた。


(刺傷そのものより毒か……? くそ、ここに鑑識と科捜研がいればな……)


 そう心の中で呟いた、その瞬間だった。


《―――ユニークスキル『事象検証(ログ・アナライズ)』を発動―――》


 頭の中に、無機質な音声が直接響き渡る。 直後、葛城の視界が変貌した。 まるで透過型の透明ARディスプレイを装着したかのように、青く透き通る半透明のスクリーンが視界一杯に展開されたのだ。


【対象:人族男性(死亡)】

【推定死亡時刻:約3分前】

【死因:毒性ショック死】

【詳細:魔導短剣(毒付与)による背部からの刺傷。 致死性の神経毒が血流に乗って全身に循環。即死レベル】


 目の前で可視化された謎の文字群に、葛城は一瞬目を丸くした。 しかし、長年の事件捜査で鍛え上げた刑事の直感が、この異様な現象の本質を即座に理解させる。


(これが……この世界のスキルってやつか。 事件現場のあらゆる情報をデータ化して弾き出してくれる鑑識システムだな)


 青いスクリーンには、死体だけでなく周囲の地面の情報も可視化されていく。 ぬかるんだ石畳の上に浮き上がる、青く発光する足跡のライン。 靴底の摩耗パターンから犯人の歩行癖が弾き出され、そのラインは路地裏の積み上げられた木箱の影へと一直線に伸びていた。


【対象:気配遮断により潜伏中】


(足跡が残ってる上に、隠れてる場所まで筒抜けだ……!)


 葛城が木箱の影へ鋭い視線を向けた、次の瞬間――。


「チッ……!」


 舌打ちとともに、木箱の陰から黒いフードを深々とかぶった影が跳び出してきた。 手にはギラリと光るナイフ。 狙われたのは葛城ではなく、背後で呆然と立っていた少女だ。


「危ない!」


 葛城は身体を投げ出すように間へ割り込む。 突進してくる刺客の腕を反射的に捕らえると、体重を乗せて一気に背負い投げの体勢に入った。


 ぬかるみを踏みしめ、背中に背負い込んで豪快に投げ飛ばす! 重厚なドサリという音が響くはずだった。 だが、刺客は空中で見事に身を捻り、まるで猫のようにしなやかに着地してみせた。 その衝撃でフードが大きく捲れ上がる。


「なっ……!?」


 露わになったのは、人間のそ(・)れ(・)とは異なる尖った耳と、頬を覆う短い毛皮、そして獰猛な肉食獣の如き鋭い目つき――獣人の顔だった。 獣人はチッと忌々しそうに呟くと、着地と同時に懐から投げナイフを葛城へ向けて滑らせるように放った。 手元に武器のない葛城は身構える。


(やばっ!?)


 瞬間、銀色の閃光が葛城の眼前に走り、カキンッという澄んだ金属音が夜の路地に響いた。


「そこまでよッ!」


 空中で弾け飛ぶナイフ。 少女が腰の剣を抜かれ、寸分違わぬ精度で叩き落としたのだ。


 葛城は少女が剣を持っていたこと、その剣が抜かれていること、さらに、その剣で飛んできたナイフを空中で弾いた腕前に三重に驚いていたが、目の前の犯人から視線を外さなかった。


(やっぱり...... そういう世界なんだよね)


 犯人は壁を背にしていて、逃げるためには、葛城と少女の後ろに抜ける必要がある。


「逃げ場ないぜ。 観念しな」


 葛城がそういうと、獣人は葛城に向けて突進してきた。 少女が剣で薙ぎ払うと、それを避ける為に体勢を崩した。 その隙を、たたき上げの刑事が見逃すはずもない。 葛城は低い姿勢から一気に踏み込み、獣人の腕を極めながら地面へと激しく叩きつけた。


「ぐはっ……!?」


 警察伝統の関節技と体重を乗せた抑え込み。 背後から少女が素早く肉薄し、獣人の首元へ抜身の剣を冷たく突きつける。


「無駄な抵抗はやめなさい!」


「くっ……離せッ……!」


 葛城は腰の後ろから手錠を取り出すと、暴れる獣人の手首を素早く後ろ手にして、ガチャンと金属音を立てて施錠した。 少女は葛城の手錠に目を丸くしていたが、すぐに少女が腰のポーチから取り出した丈夫なロープを使い、二重三重にガチガチに縛り上げる。


「ふう……なんとか取り押さえられたな」


 葛城がハンカチで額の汗を拭い、安堵の溜息をついたところで、少女は少した(・)め(・)ら(・)っ(・)た(・)が、しかし、しなやかな動作で剣を鞘へと納めた。


「暴漢逮捕へのご協力、心より感謝いたします。 ……私はルミナス警備隊、第3小隊所属のルカ・クラインです。 あなたは……?」


 ルカ・クラインと名乗った少女は、丁寧にお辞儀をした。 改めて目の前で見ると、実に愛らしい容姿をしている。 肩までの美しいブロンドの髪、大きな青い瞳、小柄ながらもしっかりとした身のこなしで、葛城の顔を覗き込んでくる。 何より、耳が普通の人よりも明らかに長く、先が尖っているのに、葛城は今初めて気づいた。


(小説に出てきたな...... エルフ..... だっけか? エルフってみんなこんな美人さんなの?)


 美人なだけではなく、どこか小動物のような可愛らしさが同居していて、それでいて青い、おそらく警備隊の制服であろう服に無骨な剣というアンバランスさに、葛城は年甲斐もなくはにかんだ。


「あーー。 そのーー。 俺はカツラギ・ジンだ。 ……まあ、しがない刑事みたいなもんだよ」


「カツラギさん、とおっしゃるのですね?」


「うん?」


 ルカはパッと表情を輝かせ、愛嬌たっぷりの笑顔を浮かべた。 ……と思った次の瞬間。

ルカの手が素早く動き、犯人を拘束していたロープの端をさらりと葛城の両手首へと巻きつけた。


「う、うううん……???」


 あっという間に手首をくくられ、葛城は間抜けな声を上げた。


「暴漢確保の功績は認めますが、現場での見慣れない謎の行動、身元不明、さらにはなにやら怪しい道具の所持……」


 ルカはとがった耳をぴょこんと揺らし、可愛らしい笑みを浮かべたまま、キリッとした声で告げた。


「あなたも重要参考人として、事情聴取のため警備隊本部までご同行願います! さあ、ついてきてください!」


 ピンと張られたロープの先で、無邪気に微笑むルカ。 葛城は天を仰ぎ、ポケットから禁煙パイポを取り出して口に咥えながら、重い溜息を一つ吐き出した。


「……だよねえ。 そうなるよねぇ」


 うなだれる葛城の背中を押すように、冷たい宵の風が路地裏を吹き抜けていった。


 ログ・アナライズの描写が難しい・・・ 伝わってると良いけど。


 さらに描写が難しい佐伯蓮のチートスキルがさく裂します。

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